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夫婦の誓い

 数話に渡って過去のワイズエッジホテルのシーンが続きます。

 



 あたりには銃声や怒声に打撃音が響き渡っていた。

 元々ある程度室内を()()していた筈が今はもう見る影もなく最初にここに来た時と同様に生きた屍により埋め尽くされていた。


 「エイミー!弾が足りねぇ!それとこっちの弾込めといてくれ!!」


 エイミーと呼ばれた少女が今現在の最初より後退してきている非常用階段の前線へと弾薬を届けにやってきてそのまま弾切れを起こしたショットガンを防衛していた1人に投げ渡された。

 エイミーは武器を手に取り敵に立ち向かう勇気は無かった。

 だがそれでも仲間の役に立とうとこの非常事態のホテル内を駆け回り二つの前線と備蓄庫を既にこの事態が発生してから数時間が達して疲れる足に鞭を打ち必死にサポートに徹していた。

 

 「ちくしょう噛まれた!あぁクソっ!しかたねぇ!数分足止めして下がって切り落としてくる!誰か穴埋めを!」


 「んなの…無理にゲホッ…決まってんだろクリス!俺みたいに死にたくなけりゃ今すぐに切り落として復帰しやがれ!俺のリミットももう少しだ!」


 既に何箇所も噛まれ引っ掻かれ、死ぬのが確定しているその軋む身体に無理をいいながら最前線に立ちナタを振り回す筋骨隆々な男が振り返らずに叫んだ。

 

 「あぁ分かったよクソが!」


 クリスと呼ばれた髪をひとまとめにした女性は悪態を吐きながら壁に立てかけてあった消防斧、通称マスターキーを手に取り…


 エイミーが思わず顔を背けた瞬間クリスの雄叫びがその場に響き渡った。


 そして恐る恐る視線を戻した先には斧を手に取り銃を他の人に投げ渡しゾンビの首へと切りかかっていた。


 「なんできたんだクリス!」


 「そんなのコレが最善だからに決まってるでしょう!?それにゾンビ化した旦那のアンタを殺すのは他でもない妻である私だからなっ!それだけは誰にも譲れない」


 そう言い切ったクリスの表情は今から死ぬと言うのに清々しいほどの笑顔を浮かべていた。

 2人して互いに背中を合わせゾンビを薙ぎ倒していく姿は長年付き添った夫婦と言われても疑うことはない程だったがエイミーはふと疑問に思うことがあった。


 この人達夫婦だったかなと。


 「いつオメェみたいなガサツ女と夫婦になった!?」


 「今からだよ!結婚せずに死ぬなんて親にどんな顔を向けたらいいのか、エイミー神父役を頼めるかしら!これが正真正銘最後の頼み!」


 疑問はごもっともでクリスの勝手な解釈で独断と偏見に塗り固められた一方的な夫婦だった事にエイミーは苦笑いを浮かべた。

 だとしてもこれまで世話になったクリス達からの最後の頼みとあれば仕方ないとショットガンの弾を装填する手を止める事なく口を開く。


 「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


 「誓うぜ!」「誓います!」


 「あら、ノリノリねクーパー」


 まさか受け入れてくれるとは思わなかったのかクリスはたった今夫となったクーパーの背中を肘で突いた。


 「俺も…未婚のままゲホッ…死にたくは無いからな、それにお前なら尚更拒否する理由がない」


 「嬉しい事言ってくれるね」


 「せっかくなのに…フンッ!結婚指輪が無いのが残念でならないな」


 ナタを振るい数体のゾンビの頭を跳ね飛ばしながらさも残念そうに言ったクーパーの手は先程よりも力強く見える。


 「それは別にいいの、だって多分こんな状況で結婚式を挙げた人なんて多分いないから世界に一つだけの私達だけの特別な結婚式よ?参列者は死体と脳筋達ってのもあって一生心に残るわ」


 「それもそうだな、夫婦の最初の共同作業はゾンビの頭を跳ね飛ばす作業と、如何にも俺達らしい」


 目配せした2人は同じゾンビに向かいクリスが頭をかち割り間髪入れずにクーパーが首を吹き飛ばした。


 「これは微妙ね、それぞれ別のゾンビを倒した方が効率が良いわ」


 それもそうだ、とクリスに同意したクーパーはふとゾンビの首を跳ねながらエイミーへと振り返った。


 「そうだエイミー、ここの半分の無事な奴を連れてバリケードになる物を探してきてくれ、この階段を永久に塞がないとな、俺達で食い止めるからさぁ早く!」


 「わ、わかった!みんな行くよ!」


 これが一生の別れになる事は確定しているけれども、それでもエイミーは振り返る事なく数人を連れて駆け出した。


 後ろからは先程までは無かった陽気な話し声が聞こえてきていた。




 この悲惨な事態が始まった時の事をエイミーは思い出す。


 最初はただ生存者の一団がワイズエッジホテルに押しかけただけに過ぎなかった。

 特にゾンビ等も付近には見当たらず危険性も無く、一団の中に仲間の知り合いがいた事からもソイツを信じて彼らを受け入れしばらく生きていたのかと涙を流し合っていた。


 でもその数十分後突如下水から溢れ出し壁を他のゾンビを足場に這い上がって窓から現れたゾンビによって平穏な空気の流れていた四階食事エリアは阿鼻叫喚に包まれた。


 それからはもう無我夢中で階段を登り、非常用にと備え付けていた廃材で作ったバリケードまで下がり…何人もの行方不明者と犠牲者を出し今の状況へと繋がる。


 昨日までの平穏は、既に修復が困難な程にまで達してしまっていることにエイミーは肩を震わせるのだった。


 

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