腐れ外道と同じ
「うん、やっぱりこれじゃどうしようもない」
『それは、まぁ悪い意味ではなく、彼女の問題という所が強いのかと…』
未だに戦う術をリリアへと教えようとしていたクティはリリアが振るったナタが手からすっぽ抜けてあらぬ方向へと飛んで行ったのを見て肩を落とした。
「まぁ私もこういうナイフ以外の刃物を使える訳でもないし…ましてやこれに適正があったら誰が教えるんだって事になっちゃうのだけれども」
「あ、あの、ごめんねママ…」
「いいや、全然問題ないよリリア、元々子供は親に守られるのが普通なんだから」
優しくリリアの頭を撫でながら珈琲屋とリリアが話していた時リリアが言った言葉を思い出す。
だからあたしはもうころせないの
この世の中誰だって心に傷を残してそれでも生きている、クティだってそれこそオートマトンであるAT05G3だって変わらない。
ただ、殺せないではなくもう殺せないと言ったのだ。
詳しい事をクティから聞くべきではない、でも状況から想像する事は容易で。
まだ子供のリリアにそうまでさせた奴らの事を思うとクティは心が怒りに染まっていくのを感じ今後の事を考え心苦しくなった。
このままでは2人揃って野垂れ死ぬのだから…
「さて、じゃあそろそろお昼ご飯としましょう、お腹は空いたかな?」
「ぺこぺこ!」
「そうだよね!甘いもの食べよう!」
戦闘音を襲撃する相手に聞かれたくなかった為危険は出来るだけ避けどうしても戦わなくてはならない必要最低限のゾンビもナイフで処理しながら道のりの半分程を進んできた。
流石にかなり歩みは遅くなりだいぶ時間は経過してしまったがあと一キロ程という所まではきた。
そしてそろそろ休憩をと朝から歩きっぱなしだったクティ達は手頃なビルを仮の拠点として選んだのだった。
「はい、お食事の前に大変なお知らせがあります」
「た、大変なお知らせ…」
リュックをゴソゴソと物色しながらドクターコートの端をつかんでいるリリアにクティは真剣な顔を向けた。
ごくりと唾をリリアが飲み込み緊張がクティまで伝わってきた。
「クッキーがとうとう尽きました…これが最後です…」
「そんな…」
数秒溜めてクティが放った言葉をリリアはすぐに理解して絶望を顔に貼り付けた。
素朴な甘さとはいえこの滅びた世界ではかなり希少だと言える食料だった。
だがリリアが絶望した理由は他にあった。
クッキーは一枚しか残っていなかったのだ。
「ママ、それはあたしの、ママにはあげない!」
クティの甘味に対する執着はかなり強い、それを知っていたリリアはなんとしてでも貴重なその一枚を手に入れようと飛びかかった。
クッキーの大きさはかなり小さい、2人で分けるのは不可能ではないが避けたい未来だったのだ。
「そんなに暴れなくてもあげるから、ほら」
しかしクティは抵抗するかと思った矢先にすんなりと目の前に差し出されたクッキーを見てリリアは目を見開いた。
そしてそのまま素早く受け取ると口に放り込み幸せそうな顔を浮かべた。
「ゆっくり味わいなね、もうそれが最後なんだから」
そしてその優しげなクティの言葉を耳にリリアの意識は薄れていったのだった。
『よかったのですか?これで』
「これしか方法がないのなら、たとえあの腐れ外道と同じだとしてもやるしかないのよ…」
リリアを自身の膝の上に乗せ優しく頭を撫でながらクティは呟いた。
クティ達はマイヤーを再起動させた時に少しだけ知識を得た、ナノチップに干渉するものやオートマトン操作に関する知識を本当に少しだけ。
元人間のリリアが操っているオートマトンは正式には許可されてない運用法であり、手に入れた知識なら操作権を奪う事が出来たのだ。
方法は単純で、クッキーに忍ばせたナノチップからリリアの身体をハッキングするだけなのだった。
「お願い、エーティ…絶対に、絶対に意識はシャットダウンさせて」
二度と同じ状況を作り出さないよう、二度と同じ恐怖を味合わせないようにクティはAT05G3に頼み込む。
『人の自由を強制的に奪う、かつて世界が滅びに向かう前だと、重犯罪者ですね…』
「ちがいない、それも理由が私利私欲のためときたから救いようがないね」
『罪に問われる時は私も一緒ですよ?ではいきます』
クティは今から行う事が自身の私利私欲のため、完全なる自己中心的な行動である事は分かっている。
それも娘の身体を強奪する最低最悪な行動だとも。
リリアはクティ達に解放され、自我を取り戻し自分という意志のもの動けるようになったのをこれでもかと喜んでいた。
そんなリリアをまた縛る事になるのだって理解している。
だからこそ、そうするしかないクティは歯を食いしばり拳の内側を爪で傷つく程握りしめ自身を呪いながらも身体の強奪が完了するのを見守るのだ。
「不明なエラー、不明なエラー、不明なエ…ま、まの…ため…なら、あ…たしは………あ…り…が…」
AT05G3の掛け声と共にリリアの口から抑揚のない機械音声が聞こえてきてすぐリリアと思われる言葉が流れてきて…
「少しだけ、少しだけ身体を借りるよ…おやすみ…リリア…」
リリアのほっぺたへとクティの涙がポタポタと流れ落ちては濡らしていった。
「クティ、成功しました…ところでなぜ泣いているのでしょうか?」
膝枕したリリアの身体からAT05G3が疑問を顔に浮かべてクティを見ていた。
「泣きたい時なのよ…絶対に、絶対にその身体とデータは壊さない事を誓ってエーティ…これは命令よ」
リリアの身体とデータは目的を完遂するその時まで何があっても絶対に失ってはならない事をAT05G3へと念を押したクティの機械の心は、どうしようもないくらい痛くてしょうがなかった。




