最悪な作戦と仮説
結局何も解決する事は無く、完全に行き詰まったクティは気落ちして1人でかすかにシティの中心部付近にチラホラと灯る自家発電による地上の星とも言える夜景を眺めていた。
その光の中には中央政府も含まれており一際明るい光を灯していた。
目の前にだいぶ近づいてきた中央政府があるのに辿り着くことがほぼ不可能な悔しさ。
それを不可能としている自身の身体と武装に嫌気がさしたクティは口をキツく紡いだ。
そして自身の左腕があったであろう箇所を忌々しげに眺めながらため息を吐くのだ。
今までは片腕が無いというハンデも慣れてきておりそこまで問題にならなかったがこれからは違う。
敵は今までの人間や力だけのオートマトンとは違う。
正確に戦況を把握して最善の行動を取る多数のオートマトンなのだ。
ナイフの刃は通らず重量タイプでなければ多少は効く拳銃も片腕の再装填の速度では仕留めきれない。
武装を奪おうにも大抵、専用の装備はそのオートマトンにしか使えないようにロックされている事がほとんどでどうしようも無かった。
「諦めるのだけは…絶対いやなのよ…」
クティは中央政府付近の明かりへと視線を戻しその明かりが灯されている場所を拡大すると、オートマトンが豊富な武装を携え周囲を警戒しているのが視界に映された。
『一つだけ、最悪…最悪クティと言う存在が消えてしまう可能性がありますが中央政府に入り込む事は可能ではあるんです』
完全に意気消沈していたクティに居た堪れない気持ちになったAT05G3は以前からずっとそれだけは選んではいけない選択肢として心に秘めていた事を話す事を決意したのだった。
「危険性に関してまず教えてちょうだい」
『先程も言った通りクティという存在が消える可能性があります、最悪AT05G3という私の存在も、そしてこれはおそらく確定とも言えるほど高確率で起こり得るでしょう
クティはAT05G3の言葉に一瞬驚き、そしてすぐに冷静になってAT05G3の言葉に耳を傾け聞き逃さないようにと集中し始めた。
『方法は簡単、アレの仲間になり近づくという単純明解な方法です』
「高確率で失敗ね、僅かなら可能性があるのね…それってどうしたら出来る事なのかしら、やるわけじゃないわよ、本当に行き詰まったらの保険として聞いておきたいのよ」
クティという存在はおろか長年の相棒であるAT05G3までもが消えてしまうのは流石に返事一つで決定できるものでは無い。
なのでこれは他に思いつかなかった時の保険、最終手段として行わなければいけないのはクティも充分理解していた。
それに消えてしまえばもう二度とこのシティの地面を踏みしめる事も出来ず、ロイドの記憶を思い出すという目的すら達成する事ができなくなるのは明白だった。
それでもクティには方法だけは聞いておかなければならなかった、自分を残したままあの光が僅かに灯る中央政府へと行く方法が少しでもあるのならと。
『方法は至って簡単な事です、先程の珈琲屋との会話にて確信に変わりましたがこの辺りに漂っている異物と先程言った電子データですがオートマトンを強制的に操る効果があるのです』
「それってそのまま紛れ込まないものかしら、こうさらっと仲間ヅラして行けば…」
『オートマトンを強制的に操る事のできる技術を持ったウイルスを撒く敵ですからバレるでしょうね』
「そうだよね…」
落ち込むクティを記念に一枚写真に収めAT05G3はほぼ実現不可能な方法はさておき、と話題を変える。
『先に伝えておきます、これはかなり重要な話になります』
AT05G3が改まって真剣な雰囲気が伝わってきて思わず背筋をピンとクティは伸ばした。
『そこ内容ですが以前私の身体の通信機は受信機能が壊れていると言いましたが覚えていますか?』
「えっと、うん覚えてる、それで他のオートマトンと連絡取れないとか」
いつぞやか話したことを思い出したクティはそれがどう重要な話につながるのかと疑問を浮かべた。
『解析によるとどうやら意図的に封鎖されていたようなのです』
「意図的に?それって誰がそんな事を」
『この身体の製作者、つまり私の産みの親とも言える存在の誰かが大規模サイバー攻撃に対して遠隔操作にて通信機能の一部をシャットダウンする機能をつけていたようですね』
サイバー攻撃、数年前にクティがロイドとして生活し治安維持部隊にいた頃、電子ドラッグが流行っていたあれもそうなのだが、その時以来に聞いた単語にクティは疑問を抱いた。
そんな事ゾンビパニックが始まってからいつ起こったのかと。
「で、でもサイバーテロって」
『いつ起こったのか、それは今もですよ、その証拠に付近を漂うデータに巧妙に偽装されていますが異物が混じっています、とはいえ気がついたのはごく最近なのですけれども』
そこまで言われたクティはある仮説が頭によぎった。
そんな事があるわけがないと否定したものの現に全て当てはまっている状況に冷や汗が流れる。
「それが、それがあり得ると言うの?まさかそんなことが?嘘でしょう?」
『気がついたようで、残念ながらそれだと全てあり得てしまうと言うのが現状なんです』
傷をつけられると感染するウイルス、では最初の感染者はどこから、そもそもオートマトンが感染せずマイヤーが倒れたのは何故、と。
考えれば考えるほど仮定は定まっていく。
「ナノチップ…ナノチップが、まさかそんな…」
この予測が真実だとしたらもう今の人間にはどうしようもないことにクティは気がつき恐怖した。
その予測とは、今現在考えられるゾンビウイルスの正体はすでに似たものが数年前流行っていたことになる。
電子ドラッグというナノチップを介して人体に影響を及ぼす、ただのデータでしか無いモノ。
電子ドラッグは自己の意思で取得するものに対してゾンビウイルスは正反対。
しかし。
取得すると人体に影響を与え幸福感を再現するデータ。
取得するとサブカルチャーにあるゾンビウイルスというサイクルを再現するデータ。
最初の発信したドラッグ元が広め際限なく広まるデータ。
最初の1人が発症すれば際限なく広まるデータ。
ナノチップを埋め込まれている人間とナノチップで身体が構成されている人間には効き、ナノチップが存在しないオートマトンには効かない。
どちらもウイルス性のデータと見れば似ているところがある、それがクティとAT05G3の予測したゾンビの正体だった。
『考えすぎかもしれません、全てが間違いかもしれません、ですが』
「オートマトンを強制的に操る効果まであると、それ以外考えられなくなるわよ…まるで世界を意のままにしたいって意思を感じるわ」
『そう、ですね』
「もう…問題が沢山あって、どうすればいいのかわからないよ…」
中央政府へとたどり着く方法も、この世界の現状を起こしているのは誰なのか、そもそも誰かそうした者がいるのかすらもわからない。
クティはしばらく言葉をそれ以上発すること無く心に渦巻く様々な感情を処理するのでいっぱいいっぱいだった。




