それだとしても
珈琲屋と話をしてから数時間後、子供達と遊んだりゾンビの処理を手伝ったりしてもう日が落ちかけてきた。
そしてクティは心の底で話さなければと思いながらも先延ばしにしていた事をようやく実行に移していた。
それは単なる質問に過ぎない、だとしても今後に多大なる影響を及ぼす大事な話だった。
そしてクティはこんな時間になってようやく決心がつき、マイヤーと2人でクティへと割り当てられた空き部屋で向かい合っていた。
「時間をとってくれてありがとうマイヤー」
「私に聞きたいことがあると珈琲屋から伺いましたが、それはどう言ったご用件でしょうか」
数分前、ここへ案内してくれた珈琲屋がいれた珈琲に砂糖とミルクを混ぜるクティの手はぎこちない。
今出来ることは少ないとはいえシティの絶対的管理者と2人きりと言う状況に流石のクティも緊張を隠せなかった。
珈琲を一口飲み、心を落ち着かせ肝心の質問を投げかける。
「単刀直入に質問するわ、今この場で私の封じられた記憶は取り戻す事は可能かしら」
「不可能です、数刻前に言った通り私はほとんど人間、中央政府への連絡はともかく直接のアクセスは不可能です」
「そう…ならあの大量のオートマトンを突破する方法を!その方法だけでもっ!」
帰ってきた返答にクティの心には安心半分、残念半分が占められた。
安心はまだ真実を知らなくていい事から、残念さは事情により実現ほぼ不可能になってしまった事からくるものだった。
中央政府に近づくにつれ、クティはAT05G3からのスキャンにて中央政府付近に多数のオートマトンが常駐している事を知らされていたのだ。
「それも不可能に近いでしょう、専用の装備を携えたオートマトンが百は存在しているのを確認しています、代替品のパワードスーツ専用武装はおろか、オートマトン専用装備すら持たない貴女に突破できるとは到底…」
専用装備、オートマトンの半数が所持していると言われ、AT05G3もかつては持っていたモノで今はどこにあるのかなどわからない。
治安維持部隊の生き残りがいた施設にも手頃な代用品は結局見つからず今の今まで無しでここまで来た。
もっと真面目に装備について考えていればとクティは唇を噛み締め自身の武装を再度見る。
愛銃一丁、弾の少ない鹵獲品のアサルトライフル一丁、手頃なブーツナイフ一本、数個のグレネード。
とてもではないが百数体のオートマトンを相手どれるとは思えない貧弱な装備だった。
「なんとか!なんとかならないの!?ここはアナタのシティでしょう!?」
「私は今はもうその権限は持ち合わせていません、正確には放棄したと言う方が正しいのでしょう」
「でも!それでもどうにか!」
「無理ですよ、今の私は貴女にすら容易く機能を停止する事が出来るただの人間と変わらない、私が同行したとして大量のオートマトンに守護された中央政府に近づけるとは到底…」
悔しそうに顔を歪ませるクティに申し訳なくてマイヤーは目を伏せた。
もっともそれは人間同然のマイヤーに解決出来る問題だとはクティも思っていなかった。
ただクティはもしかしたら、という希望に賭けていた、諦めきれなかった。
「巻き込まないのよ、せっかく今の今まで生き残ってきて友好な関係を築き上げた人達を…」
いかにAT05G3のサポートを受けたクティのオートマトンと言えど数の暴力には容易く討ち取られてしまう、それがオートマトンの大群なら尚更。
ならばこちらも数をと言えども、歯を食いしばったクティの脳裏には決して失いたくない今の今まで生き残ってきた親しい人達以外に浮かぶ事は無かった。
「貴女は少し特別なの、一緒に私達と行くのもいいの、時間は無限大、無理してあそこへ行かずとも」
「…っ!それじゃ!それじゃダメなのよ!少しは人間として過ごして理解しているんじゃない!?人間の諦めの悪さを!」
マイヤーの言った言葉も一理ある、一番クティ自身も傷つかず死ぬまで幸せかもしれない。
でも、それでは今まで積み上げてきた苦労の旅路を全て無に返す事に、ましてやロイドとしての人生に悔いを残したままになる事がクティはどうしても許せなかった。
クティは部屋の外まで自身の声が響くほどに荒々しく言葉を投げ返している事に気が付くこともない程心は果てしない荒波に囚われていた。
目前にあるのに、手が届かない歯痒さからクティは窓の外に見える中央政府を強く睨みつけた。
そんなクティをマイヤーは子供をあやすような口調で話しかける。
「確かに私は人間として過ごした日々は少ないのかもしれない、ですがそれでも私の命の恩人である貴女に生きてほしいと、私自身の幸福を増やす為だけの発言でした、気を悪くしたのならすみません」
「そう、でもね。私も私の目的の為に意思を変えるつもりなんて誰になんと言われようともそんな事ありえない」
「そう、ですか…」
「だからね、少しでも可能性があるならそれを教えて、中央政府に侵入して記憶を取り戻す方法を!」
何があってもやり遂げるという執念を目に浮かばせたクティをマイヤーは記憶を取り戻すにしろ志し半ばで力尽きようと。
どちらにせよ状況や情報、推測から察するにクティがバッドエンドに陥る事しか予想出来ず悲しげに悩みの目線を返すしか無かった。
どうしてそこまで諦めきれないのかと、どうしてそれ程に残りの人生を捧げられるのかと。
ただそれだけの疑問がマイヤーの目にはありありと浮かんでいた。
人間の心を学び始めたマイヤーにはわかるはずもない答えだった。




