スポッター
「ウソだ…」
震え掠れた呟きが珈琲屋の口から漏れていた。
何度見間違いだと自分に言い聞かせたのだろうか、気がつけば娘が民間人を的確に最小限の弾丸で殺戮をし始めていた。
衝撃はそれだけではなかった、それを見てスコープから目を離した珈琲屋には中央政府付近のオートマトン達が次々に生きている人を襲い始めている光景が視界一面に流れ込んできた。
「何が起こっている!?中央政府と連絡は取れ………」
オートマトンの暴走を同じく見ていた中央政府側の屋上の端にいた治安維持部隊の1人が声を荒げたものの突如倒れた。
他の軍人達に緊張が走り即座に倒された隊員付近へと銃口を向けるとまた1人、また1人と音もなく倒されていった。
何者かに襲撃されていると判断し、このままではまずいと理解した珈琲屋は最後のマガジンを狙撃銃に装着して下の階層へと続く階段へと駆け込んだ。
「何なんだってんだクソ!老ぼれの身体が憎いなぁおい!?今日は最悪な日だ!何もかもな!」
全盛期と比べブランクの大分ある身体へと悪態をつきながら珈琲屋は階段を駆け下りながら先程の出来事を鮮明に思い出そうと頭を回らした。
「攻撃は中央政府側からだ、間違いない、それにあいつら全員頭を抜かれてた…」
狙撃銃の弾丸の残りを確かめながら三つほど下の階層に移動した珈琲屋は窓辺に移動し割れたガラスを手に持ち外の光景を反射させながら攻撃してきたモノを必死に探した。
「撃ち抜かれても出血は無かったからおそらく実弾じゃあない、熱で焼かれたんだ、エネルギー系統の狙撃銃だろうな……」
珈琲屋があまり好まないエネルギー系統の狙撃銃という事もあり詳しくなく銃のスペックがさっぱり分からずどう対応したらいいのかと頭を悩ませていた時だった。
ドタバタと足音を響かせながら誰かが近づいてきたのは。
「やったまだいた!ほ、報告します!お、俺…あ、いえ、私と数名以外の隊員は全滅!そ、その命令をお願いいたします!」
そして珈琲屋が警戒をあらわにする中、部屋へと体格のかなりゴツい若い隊員が1人慌てて入ってきた為珈琲屋はあっけに取られた。
その隊員を上から下まで見てどこか治安維持部隊の制服が似合ってない事からなんとなくその理由と何故今ここまでわざわざ自分を求めてきたのかという事情を察した。
「お前さんニュービーか?上官はどうした、俺は退役軍人だ、お前さんの上司じゃあねぇ」
「そ、そのことごとく不可視の攻撃にやられまして、残った上官もこのビルから逃げ出した瞬間に…」
「ステルスタイプの敵だと勘違いしやがったな…」
一応聞いてみたものの予想通りの最悪な展開に頭痛を感じた珈琲屋はやらなきゃならないことが多すぎる事に文句を言いたくなった。
が、指揮を下げる訳にもいないと寸前で踏みとどまった。
そして珈琲屋は一つため息を吐き無線を起動した。
『こちら中央政府から南西の科学者共のわんさかいるビルの部隊の臨時指揮官だ!中央政府側から攻撃を受けている!狙撃かと思われる!それと無音だ!音のない攻撃だ!アウト!』
現在生存しているであろう治安維持部隊と外輪部隊へと向けて中央政府付近の危険性を伝えた珈琲屋は若い隊員へと振り返った。
「んで何人残ってる、それにしてもその様子だと壊滅近そうだな…」
「は、はい!最初は30人ほどいましたが今は戦闘を行える者はお、私を含めて同期の6人程かと!」
「言葉使いなんて気にするな、俺は臨時の指揮官だってのを聞いてなかったのか?堅苦しいのはやめろ」
「わ、わかりました!」
「んでだ、しばらく窓辺に近付かずにあの死人共の侵入を阻め、それと2人1組でだ、押さえきれないところはその辺で震えてる学者共に銃を持たせて守らせろ」
「了解です!」
元気よく返事をして去っていった新人の治安維持部隊隊員を横目に珈琲屋は先程まで銃声を響かせていたグループが完全に沈黙している事に気がつき舌打ちを思わずしてしまった。
「とんだ無駄足に終わったって訳か…カシュリーもどうなったのかわからん、加えて狙撃してくる奴もいるときた、どうにかなっちまいそうだな…なぁカシュリー…」
カシュリーと、娘のオートマトンの名前を愛おしそうに呼んだ珈琲屋は疲弊しきっていた。
それは肉体ではなく精神的な疲れが大半を占めていた。
カシュリーと珈琲屋は外輪部隊で共に狙撃の任務についていた。
カシュリーがスポッターとして、珈琲屋が狙撃手として幾度なく敵の荒波を乗り切ってきたのだ。
カシュリーは学習型の人工知能を搭載されており経験を元に学習していく機能を有していた。
酷く合理的な思考を持つ一面もあったがカシュリーは珈琲屋の事は信用にたる父親のような存在と認識していた。
そこまで到達するまで人工知能の完成の為休みの日に共に出かけたり相談しあったり喧嘩をしたりもした。
「なぁカシュリー…敵を探すのはお前の仕事だろ…助けてくれないか…」
いつぞやか、そちらの方が正確に情報を伝えられるとカシュリーに言われ差し替えた右目の義眼を軽く叩きながら珈琲屋は弱音を吐いた。
返ってくるはずのない問いかけだった。
ただの隊員が居なくなってつい漏れた弱音だった。
絶対に届くはずのない独り言だった。
だから。
義眼に映る視界に二つの光点が現れた時、珈琲屋は目を見開き驚きに顔を染めた。
それは一つは狙撃をしてきた者だった。
そしてもう一つの光点がカシュリー自身を指しているのを、何故か珈琲屋は理解してしまったのだった。




