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親子揃って


 珈琲屋はコーヒーショップの裏手にて片方の手をリリアの頭へ、もう片方の手をだらりと垂れさせ大型のゴミ箱へと寄りかかっていた。


 「あのね、ママもころしてる、ジェイクのおじちゃんも…そしてあたしも」


 「だろうな、こんな世の中だからな、手の汚れてないやつ程信用出来ねぇ、じょうちゃんはこんな俺を励ましてくれてんのか、いい娘っ子だこと」


 「あたしは!あたしだって…」


 「いいや嬢ちゃん、嬢ちゃんは乗り越えてここまで来てる、そう見える、俺とは違うってな、でも俺は違うんだ、いや変な事をいっちまったな、忘れてくれ」


 口をつぐんだリリアの頭をガシガシと再度強めに撫でた珈琲屋はその手を懐に入れてあるライターへと向けた。

 もう残り少なく数本残ったタバコケースを眺め見た珈琲屋はその内の一本を別の手で取り出し火をつけた。


 「ここにくる前にね、あたしママから銃の使い方教えてもらったの」


 「へぇ」


 煙を先程嫌がられたのを思い出しリリアとは別の方向へと吐き出した珈琲屋は銃ねぇと呟いた。


 「うつ相手はゾンビだったの、でもちゃんとねらえなかったの、怖くて怖くて」


 「ゾンビねぇ、ありゃ確かに腐ってておぞましい見た目してるからな…」


 「ちがうの、そうじゃないの」


 どういう事なんだと、なら何に、とリリアの顔を見た珈琲屋は出かけていた言葉が喉元で止まってしまった。

 リリアは目尻に涙を浮かべ唇を噛み何かに耐えている様子だったのだ。


 「重なるの、私がころした人たちと」


 リリアは薄らぼんやりとではあるものの自分が狂ってマシンガンを乱射していた時のことを覚えていた。

 物資を集めるために襲撃した野盗のキャンプで響き渡る銃声と悲鳴。

 殺さないでくれと泣き叫ぶ野盗を容赦なく蹂躙する勝手に動く自分の身体。

 どれだけ嫌でも強制的に繰り広げられる虐殺にオートマトンの身体に保存されていた涙が文字通り枯れるまで涙はこぼれ落ちていった。


 「クソみてぇな世の中だ」


 肩を震わせるリリアを見て何かを察した珈琲屋はそう呟くと頭をガシガシとかき大きなため息をついた。


 「だからあたしはもうころせないの」


 そして絞り出すかのように、弱々しく呟いたリリアの事を見て珈琲屋は世の中の理不尽さに再度気付かされる。

 手の汚れてないやつなんて信用出来ない、そう考えていた珈琲屋は頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けた。


 「嫌な世の中になったもんだ…そうだ、確かまだアレがあったはずなんだが…お」


 そう言って珈琲屋はズボンのポケットへと手を突っ込むと小さな包みを取り出しリリアへと差し出した。


 リリアはその包みを一眼見て沈んだ表情は一気に吹き飛んだ。


 「アメだ!いいの?」


 「あぁ、もちろん、そうだ、煙たいのは嫌だろう?うちはガキが多いからな、遊んでくるといい」


 「うん!おじちゃんありがとう!」




 元気に駆けていくリリアをぼんやりと眺めながら珈琲屋は一つ大きなため息を吐いた。

 短くなってきたタバコを大切に吸いながら壁の隙間から見える荒れ果てたシティを眺め、先程リリアと話していた途中から感じていた気配へと話しかけた。


 「なぁクティって言ったか?オメェ人間じゃないだろ」


 「どうしてそう思ったのかな?理由を聞かせて欲しいよ?」


 そう言いながら先程リリアが来た方とは別方向のコーヒーショップの角から心底不思議だと言わんばかりの表情を浮かべながらクティが姿を表した。

 

 「いや簡単だろ、むしろなんでバレないと思ったのかが不思議でたまらない」


 「あー…うん、そうかな、えぇとどれどれ?」


 AT05G3へと戦闘データの閲覧を求めるとクティの視界にはAT05G3が地形スキャンの応用を使い保存された映像が流れ始めた。


 『久しぶりの戦闘でしたので多少アラはあると思いますがなかなかの人間を演じれた筈ですが…』


 何がいけなかったのでしょう?と疑問をAT05G3は浮かべた。


 流れる動画には最初の奇襲にいち早く気がつきながらもあえて騙されたフリをしながら油断したローグスから素早く逃げるクティが。

 そして次々と少年少女達を気絶させていきものの数分で制圧していた。


 『ねぇエーティ、本当にどこでミスをしてるのかわからないよ?エーティが完全に人間を演じている光景しかおさめられてないよ?』


 どれだけ真面目にその映像をリピートして隈なく探してもどこがおかしかったのか分からず首を捻るクティとAT05G3だった。

 それもそのはずで2人は10代の少女が出せる力の限界なんて知らなかったのだ、クティは30代男性の腕力が前提で映像を見ていたしAT05G3に至っては10代の少女だと言う外見が意識にすらしていなかった。


 一向にどこでヘマを犯したのか悩み続けるクティに信じられないとでも言いたげな視線を向けた珈琲屋だったがやがて耐えきれなくなったのか答えをクティへと伝える事にした。


 「いや勘弁してくれ、あんたの外見は少女だろ?それもかなり軽装の、少女が機械の補助も無しに大の男に力で勝てるわけがないからな」


 スコープ越しにでも珈琲屋には筋肉のそこまでついてない10代少女が成人男性の拘束を力で上回り強引に抜け出したかのように映っていたのだ。


 「あっ!あーーー!たしかにそうじゃないの!」

 

 今更それに気がついたクティは確かにそうだと驚きに顔を染めた。

 今更すぎである。


 「あ、あのね!隠してたのは余計な面倒事を起こさないようにする為であって危害を加える為じゃないの!だからソレに手を伸ばすのはやめて欲しいと言うか…」


 人間では無いと認めたクティへの対処なのか珈琲屋は今にも腰の後ろのベルトにしまってある拳銃を抜き取ろうとしていた為慌ててクティは両手を上へと上げた。

 

 気が短すぎるでしょう!?と心の中で悪態をつきながらクティは冷や汗が頬を伝わるのを実感した。


 「争うつもりは無いのよ、加護してくれとか、助けてくれとか、そういった縛りが嫌で偽装してるだけなの」


 「いやなに、用心に越した事はないからな、保険と言うヤツだよ」


 「保険ね、保険、うん確かに大事、それとこれなんかどう?私タバコは苦手で、あぁそれと私はオートマトンよ、色々訳ありだけれども」


 「ちげぇねぇ」


 笑みを浮かべ自身の事を訳ありと言ったクティに同意するように笑った珈琲屋は極限まで短くなったタバコを地面へと落とし足で揉み消した。


 久しぶりに楽しそうな時間が来そうだと感じたクティは脇腹のハッチを開き隠し持っていたウィスキーを取り出し珈琲屋へと差し出した。


 「なんだ?何かが欲しいなら恩は充分受けたからな、そんなの出さなくても言ってくれればいい」


 「あいにく()()は飲めないからな、持っててもしょうがない、こっちはジュースだけれども久しぶりに誰かと飲みたくなった、それだけだよ」


 「それが素か?驚いたな」


 口調を大きく変えたクティに驚いた珈琲屋に続き男言葉を意識しながら久しぶりに使ったクティも驚きを隠せない違和感を感じてた。

 なんと言うか、クティはコレじゃ無い感を大きく感じていた。



 「いや、素っていうかアレだ、少しくらい過去に戻った気持ちになりたかったんだが…んんっ、すこしつかれちゃいますね…過去話聞かせてくれよ?少しは楽になるかもしんねぇですよ?」


 「混ざってるな…それよりどこから盗み聞きしてたんだか…」


 コーヒーショップの裏手で酒の蓋を開けるキュポンという音が響いたのだった。

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