珈琲屋は嘆く
「まぁ、驚かれるのは無理もないですよね…あんな事があれば尚更、私はこう言う物で構成されているんです」
ベットの側に落ちていた少し光を残している何かをマイヤーは拾い取ると呆然としているクティ達へと見せた。
すかさずAT05G3がソレをスキャンしたのだがAT05G3は予想外の物すぎて驚きを隠せずクティまでそれは伝わってきた。
『エーティ、あれは…なに?』
『ナノチップの集合体のような物です、でもよく観察すると一番近いものがソレというだけで別物のようです』
じゃあ私達にはまったく未知の技術じゃないの、とクティは心の中で悪態をついた。
ソレはもし何かあった時どう対処すればいいのかまったく見当がつかない事を意味していたのだから。
「荘園…管理人…」
「えぇ、荘園管理人です、貴方達にわかりやすく言い換えれば中央政府の頭脳とでも呼ぶべきでしょうか…」
ローグスの漏らした呟きにさらっと答えたマイヤーはその内容などどうでもいいとでもいいさげに外から覗いていた子供達を手招きした。
恐る恐る近づいてきた少女のひとりの頭を優しく撫でながら笑みを浮かべたマイヤーは先程から睨みつけてきていた珈琲屋へと視線を移した。
「珈琲屋さん、そう睨まないでちょうだい?危害を加える必要なんてどこにも見当たらないのだから、むしろその逆よ?」
「信じるからな…クソっ…」
それだけ言って珈琲屋は頭をガシガシとかきながら救急車を出ていったのをマイヤーは申し訳なさそうに見送っていた。
「多分、その人は問題ないよ、私にはわかるから大丈夫」
そして少し落ち込んでいるマイヤーを見てクティは思うところがあったのか去りゆく珈琲屋の背中へと言葉を投げかけた。
「何故わかる…」
その言葉を聞いた珈琲屋は一度立ち止まりクティへと返答を返すと肩を震わせ俯いた。
「根拠はあるけど…あるけど…」
「話せないんだな…」
「うん、それに信じてもらえるかもわからない」
マイヤーを強制再起動した時に流れてきた断片的な記憶はおそらくマイヤー自身の記憶なのだろうと当たりをつけた、そしてそれをクティが話すのはお門違いかと口を閉じるしかなかった。
それに話しても他人の記憶が流れてきましたなんて眉唾な事信じてもらえるはずもなかった。
そうか、と最後に呟いた珈琲屋はそのまま一度も振り返らずにコーヒーショップへの裏へと去っていった。
手を少し伸ばしたクティへとローグスはその手を制しながら首を振り1人にしてやってくれと目線で訴えかけた。
「姉御、おやっさんは誰よりも此処が大事なんすよ、俺には分からないんすけど何があっても、どんな事が起きても絶対にここを守るって決意してるらしいっす、俺にはあんな…」
ローグスは珈琲屋の何かを知っているのかそこで口をつぐみマイヤーへと向きなおった。
この世界、誰だって大きな悔い切れない程の出来事はある、それはローグスも同じで深い詮索は仲違いになるのを理解していた。
それでもローグスは振り返った先にある光景を一目見て難しく考えるのは馬鹿馬鹿しいと張り詰めていた空気が霧散するのを実感した。
マイヤーはいつの間にか増えた子供達に囲まれてもみくちゃにされていてローグスは少し笑いが漏れてしまったのだった。
「マイヤーさん、以前その…重大な事を話してくれなかったのはもう問題ねぇっす、最初から話して欲しかったなんてわがままは言わないっすよ、だからその、子供達の事これからもよろしくたのむっすよ?」
「えぇもちろん!任せてください!」
マイヤーは顔一面に笑顔を浮かべ元気に返事をしたのだった。
場所は変わりコーヒーショップの裏手、もう使われていないゴミ箱に腰掛けた珈琲屋はもう残りの少なくなった数本入ったタバコケースから一本取り出して火をつけていた。
「なぁ、俺はどうすればよかったんだろうな…」
「ばれちゃってた…」
一息ついた珈琲屋は煙を吐き出すとこっそりとついてきていた客人へと語りかけた。
物陰からこっそりと珈琲屋の事を伺っていたリリアは珈琲屋に話しかけられて恐る恐る物陰から出てきた。
「どうしたらよかったんだろうな…」
「あたしにいってもなにもわかんないよ?」
「そうだな、あぁそうだおめぇさんはまだ子供だしな…所でママは優しいかい?」
「うん、いまのままも大好き、私を助けてくれて、優しくて強くて頼りになるの」
多少驚きはあった物の今のという点には触れずにリリアの頭をガシガシと強めに珈琲屋は撫でた。
「今のママね、んや、そりゃあいいこったな、自慢のママじゃねぇか」
「うん!あ、そだ、おじちゃんはどうして落ち込んでたの?いいこいいこって、なでなでする?」
「いや、遠慮しとく、つかあの子がママって呼ばれててすげぇ疑問だっけど本当の母ちゃんじゃねぇんだな、いや納得だわ、どうやって出会ったんだ?助けてもらったって言っただろ?」
「そ、助けてもらったの!いたくてつらくて、でも何もできなくて、すごく嬉しかったの、だからママが助けてってなった時、あたしは何があっても助けるの!」
指で銃の形を作りパーンパーンと助けに来たクティのモノマネをしながらママ自慢をするリリアに珈琲屋は心の棘が幾分か引っ込んだ気がしてきていた。
「そりゃあママはヒーローだな!すげぇじゃねぇか」
「うんうん!でね!一緒に旅してたらね、ママじゃなかったの」
「そりゃあどういう…」
「ママなんだけどママじゃなくてね、ママが言ってたママのお姉ちゃんだったの、多分!でもママなの!」
「そ、そうなのか…複雑な運命辿ってるんだなぁ」
怒涛の展開に珈琲屋は驚きながらリリアの頭をガシガシと撫でるためリリアの頭はボサボサになりはじめていた。
「ふぅー…」
「けほっけほっ…おじちゃんそれけむたい」
そして珈琲屋はタバコを地面に落とし靴で揉み消した。
なんでかはわからない、でも健気に生きるリリアの話を聞いていた珈琲屋はどうしようもないくらい気が緩んでいたのだろう、疲れていたのだろう、吐き出したかったのだろう。
「俺はな、俺は…娘を殺したんだ、この手で…俺はどうしたらよかったんだ…俺は…まだ乗り越えられないんだ…」
だからなのか。
気がつけば自分よりはるか年下の少女へと、そう語りかけてしまっていた。
話してしまっていたのだった。




