ロストテクノロジー
「でだ、本題に入りたい、情報をペラペラ喋っちまったそこのアホの言う通り1人重傷者がいる、そいつを少しでいい、見てやってくれないか?」
「私を信用する事にしたの?」
クティはカフェオレをズズーっと一気に飲み干すとキメ顔をした。
真面目で渋い顔を作ったつもりが生意気そうなわからせてやりたい表情になりAT05G3は興奮した。
AT05G3は激写した。
「まぁ、こっちは後が無いからな、ここで信用しないと完全に詰みだ」
「私達の持ってる食料やら物資やらを強奪すればいいのに」
「それじゃあいずれ終わりが来るからな、それにせっかく医者らしき人物が来たから殺すには惜しい、つか倒せる気がしない」
あの動きを見た後じゃなおさらな、と珈琲屋は深いため息を吐いた。
そんな珈琲屋へとクティはケラケラと笑いながら隠し持っていたクッキーを一つ投げ問いかける。
「こんないたいたげな傷だらけの少女が本当に医者だと信じたの?」
「その望みにかけるしか無い状況なんだ、それとこれは…おおクッキーか、久しく食べていないな…」
「ふぅん…まぁいいや、それでそちらの出せる報酬は?」
「無いな、これと言った物は」
珈琲屋の堂々とそう言い放ったあっけらかんとした雰囲気にクティは一瞬何を言われたのかわからなくなり数秒固まってしまった。
そしてようやく珈琲屋の言ったことを理解したクティは思わず笑いが止まらなくなってしまった。
そんなクティを見て珈琲屋は笑われているのだと、格下に見られているのだろうと心苦しそうに目を伏せた。
「いやはや、食料も弾丸も出せない、かと言って戦力はどうかと言われればこちらも役には立たない、子供達をやるわけにもいかないからな」
「ううん、バカにしてるわけじゃ無いの、報酬なんていらないわ!貴方ってすごい真っ直ぐな話し合いも出来るのね、こんなに愉快に笑ったのは久しぶりだもの」
「ほ、本当なのか!?」
「うん、それに元々誰かさんの独断で助けるつもりで来たしね」
『はて、そんな勝手に一人で方針を決めるろくでもなしはどこにいるのでしょうか』
『次やったら私の写真データ全削除』
『そんなぁ!』
「さ、その重傷者の所へ案内してちょうだい、やれるだけはやってみるわ!」
とぼけるAT05G3へと釘を刺したクティは取り出したクッキーを一枚リリアへと渡し、もう一枚は口の中へと放り込みソファから立ち上がり宣言したのだった。
場所は変わり一度外へ出たクティ達は駐車場に停車している救急車まで来ていた。
「この中に今は拘束しています、恩人に何かあってはならない為なるべく近づかない事を推奨する」
「拘束…?」
「っす、ちょっと暴れる事があるんで拘束してるんすよ、開けるっすよ?」
「う、うん」
違和感を覚えたクティは首を傾げながらローグスの手により開かれていく救急車の後部ドアをじっと見つめ続けた。
だいぶ硬く閉じていたのか汗を滲ませながらローグスが後部ドアを開け切ると救急車の中から薬品の独特な匂いが漂ってきた。
「姉御、左側に見える簡易ベットに寝かせてるっす、なんで右側から回ってく感じで」
「わかったわ」
言われた通りにクティがベットへと近づいて行くと大人しく眠る美しい女性がベットへと拘束されているのが見えた。
「今は落ち着いてるっすね…怪我はそこの毛布から出てる左腕っす」
「これ…どう言う事なの…?」
左腕へと視線を向けたクティは普通ならありえない状況になっている女性へと驚愕し一歩後ずさった。
「彼女は外の世界から来た人っす、化け物に噛まれてもずっと死んじゃいし腐る事もないんすよ、でも寝ている時以外気が触れたかのように暴れ回るんす」
女性は左腕を一部噛みちぎられているのにも関わらずその部位は再生も腐敗もせずそのままの状態を保っていた。
そしてローグスの言葉の中に聞いた事の無いワードを見つけたクティは問いかけを投げかけた。
「外の世界って他のシティって事?」
「違うっす、そのままの意味でシティの外、つまり死の荒野で暮らしている人々っすよ、初めて接触出来たとかで俺は中央政府へとこの人を送り届ける任務をしてたんす」
「え!あの外輪部隊で流行ってた噂話って本当だったの!?て言うかその話本当なんでしょうね!」
「本当っす、未知の言語を喋り俺らとは違う身体の作りをしているとか…ってその話より今は治療の話っす」
「え、えぇそうね」
『エーティ、何かわかることある?』
『まぁいくつか』
診察する振りをしながらAT05G3へと全力で頼り切るクティへとAT05G3は呆れながらも女性のスキャンをし終えた。
『まず第一にシティに存在する住民ならスラムの者でも装着しているはずのナノチップが存在していません』
『ナノチップ装着していないってあり得たんだ…』
ナノチップには機能がいくつかあるがその一つとしてシティ内で誰だとしても生まれた時や装着していない人物がいた場合、自動的に近くのナノチップが分裂し装着される機能があるのだ、中央政府に続いてのロストテクノロジーだったりする。
『他にはシティの人間との違いはありません、挙げるとしたら再生が止まっている事でしょうか』
『再生が…止まってる…?』
『ええ、元々再生しない構造と考えた方が良さそうですね、その事から考えるにこれはおそらく…クティ、他の人を外へ出してください、試したい事があります』
『えぇ、わかったわ』
『クティ、何が起きるか不明です、気をつけて』
AT05G3にも分からない事がと驚いたクティは今一度冷静になり視線を愛銃へと向けいつでも抜ける位置にあることを確認して見守っている観客達の方へと振り返って口を開いた。
「ちょっと試したい事があるの、男性の方は出ていってもらってもいいかしら?」
『ジェイク、何が起きるか分からないわ、いつでも撃てるようにしておいて』
じっと見守っていた珈琲屋とローグスへと退出を促すとクティはジェイクへとナノチップでの通信を入れてドアを閉めた。
しんと静まる車内にてクティはAT05G3に言われた通りに女性の左胸を直に鷲掴みしていた。
元男のクティである、立つものがない事に少し残念な気持ちになりながらそれを上回る羞恥心に顔を赤く染めていた。
『ね、ねぇエーティ?まだ?』
『あと数秒お待ちを、準備は万端なのですがまだいいアングルの写真が撮れてないのですよ』
『そんなのどうでもいいんですけど!?』
『どんでもいいとはなんですか、あ、その表情ナイスです、これで準備は整いました』
『そ、そう、なるべく早めにね?』
『サーイエッサー』
どんな時でもクティに夢中なAT05G3も最後は悪ふざけ無しに真剣な雰囲気がクティにまで届いてきた。
『行きます!』
そしてのAT05G3掛け声と共に車内はクティの手のひらから放たれた放電で溢れかえったのだった。
「蜀崎オキ蜍…蜀崎オキ蜍」




