コピー品
ロイド達は元ロイドゾンビを地下室の一室に放り込み使えるものを回収し外を散策していた。
「で、つまり新しいバッテリーが必要なわけね」
どうしてAT05G3の身体を動かす事になったのかをAT05G3にロイドは聞いていた。
『そうです、この先何が起きるかわかりませんから高出力のバッテリーを確保しておきたいです。場所に目星はついていますから視界の隅に表示されるナビに従って進む事を推奨します』
ちなみにロイドはAT05G3の保存データから少女らしい言葉使いや仕草をインストールさせられている。
どうしても素が出てしまうロイドにAT05G3が助け舟を出した結果だった。
そして表面は強制的に補正されているだけでありロイドはかなり恥ずかしがっているのだがそんな事は関係ないとばかりに補正される身体にロイドは顔を赤らめた。
「はーい…それにしてもこの身体は便利ね」
そう言いながらロイドは数刻前まで中の機械部品が丸見えだった腕の箇所をマジマジと見た。
機械部品が丸見えだった箇所には人間の皮膚にまるで傷がついたかのように擬態されていた。
『潜入に使う人間に擬態する機能です、主にオートマトンだと疑われない様使用するほか、顔やある程度なら体格も変えられます』
「性別は?」
『スケルトンアームを丸ごと変更しなければ不可能です』
「そっか…」
ロイドはそこまで利便性が高いならと思ったものの不可能だと説明されて項垂れた。
「まぁいいや、所で向かってる場所って?嫌な予感しかしないんですが」
ロイドはこのままナビに従って進むと軍のキャンプがあり、感染初期に難民キャンプと化していた事を思い出した。
あそこは早い段階で内部で感染が広まりゾンビパラダイスになっていた。
物資も豊富に残っているがゾンビも大量にいた為以前偵察に来た時諦めた事があった。
「ゾンビは音や匂いで寄ってくるでしょう?枯れ枝一本踏んだだけで付近にいる数百のゾンビに押し潰されるんですよ?行くって本当ですか…」
『匂いは問題ありません、人間ではないので。音は私がこの身体を操作する事が出来れば問題ないでしょうがロイドには難しいでしょうね、最悪損傷覚悟で突っ込んでください』
ゾンビを押し除け腐肉や汚い液体でべちゃべちゃになりながら進む姿を想像してロイドは顔をしかめた。
誰だって自ら汚れに行く事はしたくない、綺麗な水さえ貴重な世の中だからこそ思いは強かった。
「汚いのは嫌だなぁ…」
『軍のキャンプには給水車があったはずですので水が残っていればシャワーは浴びれるはずですよ』
「それってゾンビを殲滅する事が前提になってないかしら」
シャワーの音で大量にゾンビが集まる光景がロイドの電子頭脳に再生された。
『そうですね、そうなりたくなかったら音は極力立てない様努力してくださいという事です』
「はぁ…」
まだロイドはこの身体に慣れておらず物音を立てずに歩く事なんて不可能だった。
ロイドがため息を吐くのもしょうがない。
そんなロイドを見兼ねたのかAT05G3はいい情報がありますと声をかけた。
『軍需物資の中にパワードスーツ専用の武装がかなりの確率で含まれているでしょう、もちろんこの身体なら高出力のバッテリーに変更すれば使えます』
「それで薙ぎ払えばいいと?」
『えぇ、高出力のバッテリーが無ければただの鉄屑なのを忘れないように』
パワードスーツ、身体に取り付ける事で戦闘のサポートをするいわば力持ちになれる補助アームと補助レッグの事である、ちなみに装甲はない。
装甲がないせいで、群がってくるゾンビに噛まれ、戦争の初期段階で、かなりの数のパワードスーツ着用者やパワードスーツ自体が失われてしまっていた。
ちなみにパワードスーツ専用の武装はものすごく重たい。
重たいが高火力で高い殲滅力を誇るものや戦闘継続能力の高いものなのが存在している。
「腕のスペアとかも見つからないかな、あと目も」
『ATシリーズは最新の機械人形では無いんですよ、見つかりづらい腕よりもエネルギー駆動の歩兵銃の入手の方が優先度は高いですね』
確かにこれじゃ再装填に時間がかかるよねとロイドは残っている手をヒラヒラと振った。
エネルギー駆動の銃はオーバーヒートする事があるものの基本的にバックパックに取り付けるバッテリーからエネルギーを補給し、半永久的に撃ち続けられるという利点がある。
「じゃあキャンプ内の寄る場所は武器庫と…」
『パワードスーツの保管場所は武器庫と同じ場所のはずですので一箇所だけで大丈夫そうですね、バッテリーもパワードスーツ用の物があれば事足りるでしょう』
それから歩く事数時間。
「武器庫…どこだかわからないね…」
ナビの通りに進んできたロイドだったが、キャンプのメインゲートから先のナビが途絶え、その先に広がる光景におおきな困難が待ち受けていることを察した。
メインゲートから数百メートルの範囲は、ゾンビの大群で埋め尽くされていて、侵入することすら困難な状況になっていたのである。
『申し訳ありません、内部は一度も訪れた事がない為不明でして、それにまさかここまで群れているとは思いもよりませんでした』
「いいよ、エーティここまでナビありがと、今日はこれくらいにして休む事にするよ」
『えぇ、一度スリープモードに移行するといいでしょう』
「スリープモードね、やり方がわからないわ」
『こちらで変更出来るので合図をお願いします』
ロイドは屋内の適当な壁に寄りかかりお願い、と小さな声でAT05G3に話しかけた。
夜は特段ゾンビが凶暴になる事もないものの視界の悪さによる色々な悪影響や精神的疲労を考えると今日はここまでとロイドは判断を下したのだった。
ロイドは、未だ機械の身体にも機械の脳みそにも慣れていない為、普段の倍以上は疲労していた。
さらに身体は通信機に使用していた低出力バッテリーを使用していた為思うように力も出さないでいた。
それこそまるで見た目そのままの10代の少女と言っていいほどの力に抑えて。
身体的疲労はないのが唯一の救いとも言える。
ロイドの意識は、だんだんと薄れていき、やがて力を失った手足はだらんと投げ出された。
しばらくして、人間に擬態している最中のロイドの口から可愛らしい寝息が聞こえてきたところで、AT05G3はようやくホッと一息ついた。
『ロイド…貴方は…もう…』
AT05G3はスリープモードのメインの電子頭脳、ロイドの脳みそとも言えるものをそっとスキャンした。
本来のニューラルリンクは双方が生きていなければ成立しないシステムであって生身の人間が死ねばその人間はATとして生きながらえる事はできないしもちろんATのサポートも死んでしまえば受ける事は出来ない。
なら何故ロイドはAT05G3の中にいるのか、それはAT05G3がロイドの記憶が完全に壊れる前にコピーしてそのコピーした物を電子頭脳にインストールしただけだった。
故にコピー前の、本物のロイドは死んでしまっているのだ。
それはAT05G3が大切な人を手元に残しておきたいというただのわがままだ。
AT05G3のエゴでありそれ以下でもそれ以上でもない。
いつかロイドに知らせなければいけない時が来る事を考えると不安が心に広がった。
拒絶されるのではないか、罵倒されるのではないかと。
もしかしたら受け入れてくれるかもという可能性も捨てきれなかった。
大切な人に嫌われたくない、そのためにAT05G3はしばらくサブの電子頭脳をフル回転させるのだった。