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紅茶



 「いやぁひさしぶりだねジェイク、元気にしてたさね?」


 「まぁ…そこまで元気にはしていられなかったかな、可愛くて攻めてくれる女性が居なくてね、常に不調だったよ?」


 「そうかいそうかい、じゃあクティにたんまり虐めてもらうさね」


 「いやだよ!?」


 クティ達は騒がしい声を上げながら街中を中央政府へと歩いていた。

 もちろんそんなバカな事をすれば普通はゾンビが襲ってくるもののどうやらこの付近のゾンビはあらかた彼ら軍のオートマトンが掃討してしまったらしかったのだ。

 その為出てきても数体いないかいるかの特に行動に支障をきたす程の問題にはならなかった。


 愛銃を一発撃ち前方にいたゾンビを撃ち殺したクティはそう言えば、とバックから一冊のノートを取り出しドクへと差し出した。


 「これ…無事出所できた事だしお祝いに渡すよ、私じゃなくてドクが持ってるべき物だから」


 「何さね、これは」


 受け取ったドクはペラペラと今時珍しい紙のノートのページをめくった。


 そしてそのノートが何かを理解したのか立ち止まり必死に目を一文字も逃さないと言わんばかりに尖らせ集中し始めた。



 「クティ、ドクがそこまで集中してるのなんてひさしぶりに見たぞ?それは…いったいなんなんだ?クティの写真集なら僕も見たいんだけれど」


 「写真集ではなくある人物の日記ですよ、クティの写真集は十万でどうですか?デジタルデータとして今度送りますよ?」


 「買った!支払いはまた今度でいいかな、今手持ちがないんだ」


 「いいですよ!まいどあり!」


 さらっとクティの写真を売ったAT05G3と買ったジェイク二人へとゴミを見るかのような目線を向けると二人とも歓喜の表情を浮かべた。



 「エーティ?そもそもお金なんてこの世の中使い道なんてほとんどないでしょう?特にオートマトンのエーティならなおさらに」


 人間ならお金を集めてまだ稼働している無人販売所での買い物で食料品やら消耗品は買えるもののオートマトンのAT05G3には必要ない筈だよねとクティはなにに使うのだろうと悩んだ。


 アクセサリーや服を買いたいのかといえばそうでもない、そもそも今のAT05G3は顔さえ出ていない全身を装甲に包んだ身長のやや低いずんぐりむっくりな体型なのだ。


 そして出した結論はどうせろくでもない事に使いそう、だった。


 クティの中でのAT05G3の株は急降下していたのだから当然とも言える結論だった。


 「ろくでもないとはなんですか、私にだってお金は必要なのですよ」


 「じゃあ何につかうのさ」


 「そ、それは言えませんね、そうだクティ、そろそろ今日の宿を探さないといけなさそうですよ」


 話を逸らしたAT05G3へとジト目を向けそのあと空を見た。


 確かに日がもう落ちる直前の真っ赤な空が広がっておりAT05G3の言い分ももっともな事だった為頑丈そうなビルへとクティ達は進路を変更した。


 ドクはずっとノートへと視線を落としたままだった。






 ビルの中の安全そうな一室に入って入り口にバリケードを置き終わった時だった。


 外から凄まじい雨の音が聞こえてきたのは。



 「あれ、また雨だ…」


 「最近多いですね、天候管理システムが壊れてなければいいのですが」


 「なにそれ」


 「言葉通り天候を管理してるシステムだよ、シティの範囲内の雨雲をコントロールしてるのさ、中央政府に置かれてる、というかクティは知らなかったのかい?」


 「名前だけは聞いた事があったような気もするよ?でもしっかりどういうものかは聞いた事無かったよ、ありがとうジェイク」


 「いや、僕も最近あそこで知ったばっかりだからね」


 「あの軍で?そうだ、なんであそこにいたのか知りたかったのよ」


 部屋の中にあったオフィスチェアへと腰を下ろしたクティは隠し持っていたクッキーをジェイクへと数枚手渡した。


 「ありがとう、それと…本当になり行きでとしか言えないんだ、しんがりをした後ゾンビに囲まれていて絶体絶命になって、そこを助けられて入っただけだよ」


 それくらいしか生きる道もなさそうだったからねと付け足したジェイクはカップとビンをバックから取り出してクティの前へと差し出した。


 「コーヒー飲むかい?それか紅茶でもいい、くすねて来たんだ、だからたっぷりとある」


 「へぇ、コーヒーはひさしぶりね、ミルクと砂糖はあるかしら?」


 「ミルクは無いね、でも砂糖ならある、それにジャムを入れるのもありだ、量はこれぐらい持ってきてある」


 そこそこの大きさの沢山のビンに大量に詰められたジャムや角砂糖を取り出したジェイクは机の上へと置いた。


 「ミルクは無いのね…じゃあ紅茶に、まだ飲んだことがないのだけれどジャムを入れて欲しいわ、ちょっとした挑戦ね」


 「うん、わかったよ、ドクとエーティも飲むかい?」


 「私は紅茶をストレートで」


 「あたしはコーヒー、ブラックでいいさね」


 「はいよ」


 続けて取り出した携帯用コンロへと折りたたみ式の鍋を乗せて湯を沸かしはじめたジェイクを横目にクティは窓の外へと視線を移した。


 どの角度からどう見たとしても人類はほとんど滅び、徐々にシティの景観がかつてあったモノから既にかなり変わって来ていた。


 お金の話をした時クティは思い出したのだ、お金で動きお金で回るシティと人々の姿を。


 でもそんな光景のほうが珍しく今となっては銃弾や運に少ない食料によって人々は生き延びている。


 前者は安全が確約されている代わりに息苦しい世界、後者は自由と言う名前の無法地帯が広がる世界なのだ。


 もしかしたら後者の世界を歓喜している者もいるのかもしれない、その一人としてクティだってそうだ、この世の中なりに楽しんで今まで生きてきた、それでも、それだとしても。







 「それでも…私は…君と…」



 クティの脳裏にはジャムのビンを手に持つあの夢とも現実ともつかない世界で話した大事な女性が映し出されていた。



 ドクのページをめくる音やジェイクがお茶を入れる音に混じって、クティの小さな呟きは溶けて消えていった。


 

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