失ってから
今週二話目の投稿です。
「これから何をするかなんてもうわかったさね、アンタは私のコピーを作りたいんだ、何でかは知らないし知りたくもないけどね」
ドクは自身の頭に装着された一本のケーブルを見ながら言葉を吐き捨てた。
そして全面の強化ガラスの向こうに折りたたみ式のボロい椅子に座って多数の研究者らしき者達へと指示を出しているアメリーのコピーを睨みつける。
『よくわかったわね、その通りよ』
ドクの声は聞こえていたらしく部屋の隅からアメリーのコピーの声がスピーカー越しに聞こえてきてそちらへと視線を向けるとこちらもサビの付いた古い物だった。
彼らの身につける装備とこの場所の設備に差がかなりある事からこの場所は普段は使っていない場所なのだとドクは冷静に判断した。
何とかして脱出するか、最悪脱出出来なかった時の為、この場所をクティ達へと伝えなければと何かいい案は無いかと思案するも何も浮かばなかった。
死のカウントダウンはもうかなり近くまで迫ってきているものの未だに何も解決しない事の焦りから一筋冷たい汗が頬を流れた。
それにこの部屋に移される際に気絶させられ服装は全て囚人が着るような真っ白い貫頭衣に着替えさせられていた。
『あぁそう言えば、私に協力してくれればコピーもせずメリア、貴女を殺さなくても済むわ』
「へぇ…協力さね…どうせ碌でもない事をやらされそうだね、一応聞いてはみるけれどどんな事をやらされるのさね」
『そうね、もうこの際いいかな…やってもらう事は魂の取り扱いって言えば…わかるかしら?』
「魂…あぁ読めてきたよ、あんたらの狙いがね」
AT05G3とATαの雷雨の夜の会話を狸寝入りをして盗み聞きしていた時の事を思い出したドクは直ぐに狙いを理解した。
つまりあんたらは永遠にこの世界で生きていたいって事さね、と心の中で呟いた。
オートマトンによるニューラルリンクは長時間使用すると人間側の負担により永遠には続けられない事を開発に関わっていたドクは知っていた。
それは長くて数日、個人差があり短いと半日も持たないのだ。
記憶をオートマトンへとコピーしてもしかり、ATαの言葉を信じるのなら二十年は持たないと言うのだ。
今のこの世の中、自給自足可能な安全な場所がない限り外へと出て物資を探し集めなければならない。
この正体不明の軍はその場所が無いかギリギリかのどちらかなのだろうと、そしてそれを解決する為に感染しない長く動ける身体を欲しいと行動しているのだろうとドクは予想した。
『鋭いね、さすが頼れる姉さんだ』
嫌な笑みを浮かべながらわざとらしく姉さんと呼んだアメリーのコピーにドクは自身の額に青筋が浮かぶのを感じた。
「魂なんて物は触れもしないし移動すら出来ないさね、それとあんたに姉さんって呼ばれると虫唾が走るね」
『わざとよ、嫌がってくれた様でなにより、で、それと私なら出来るはずよ、理論はもう完成しているしね、答えを聞きたいわね』
「ノーと言いたいね、でも本当に生き残る道がちゃんと用意されているならイエスさね」
そうドクがアメリーのコピーへと返答した時だった。
一発の銃声がダクトを通過してドクの耳元へと聞こえてきたのは。
それに合わせて慌て出した強化ガラスの向こうの景色をドクは何が起こったのか分からず見つめる事しかできなかった。
『何事だ!』
『そ、それが仲間の一人が突如何を血迷ったのか銃を向けてきまして、今拘束しますのでご安心ください』
アメリーのコピーないる部屋へと一人の軍人が入ってきて説明する声がスピーカーから聞こえてきた。
軍人がなにやら手持ちのデバイスを使って場所やどの様な人物かを説明しているのを横目にドクは思考を巡らせていた。
あのアメリーの事だ、何にせよ近いうちにコピーさえしてしまえば自身の命は無くなるだろうと予想をした。
そしてなかなか始まらない記憶コピーに、ドクは生きている時間が少し伸びたねと銃声を鳴らした軍人へと心の中で感謝の言葉を述べた。
『念のため戦闘用オートマトンを送りなさい』
『し、しかし一人なのでそこまで』
『念の為よ、今何が動かせるかしら?』
『ええと、捕獲した者の洗脳した記憶を搭載した二世代前のオートマトンが一体あります』
『アレしかないの?嘘でしょう?』
『主要な物は全て出払っておりまして…』
しばらく手を目に当て上を向き悩んでいたものの仕方ないかと呟きアメリーのコピーは何か手持ちのデバイスを操作し始めた。
『これでいいはず』
『はい、では起動してきます!』
入ってきた軍人がアメリーのコピーとの会話を終了して部屋から消えた。
その軍人と入れ替わりに二人の軍人がアメリーのコピーのいる部屋へと入ってくると部屋の中を警備し始めその様子を見ていたドクは笑みが溢れてきた。
「ずいぶんか大事が起きてるそうじゃ無いか」
笑顔を浮かべながら強化ガラスの向こうのアメリーのコピーへと言葉を投げかけるとアメリーのコピーは苦虫を噛み潰したような表情をした。
『人材不足でね、急遽集めた者達もいるのでどうしようも無い奴らも混ざっているって事だね、片目を隠したキザな風貌の男に見覚えは?』
「片目を隠したキザな風貌の男ねぇ…そこにどうしようも無い変態って情報が加わればまぁ、知り合いかもしれないね」
ワイズエッジホテルのジェイクを頭に浮かべたものの変態じゃ無いとなると人違いだと結論付けた。
どんな場所でも常にドM全開のジェイクがおとなしくしている所なんてドクは見た事なかった。
『女児愛好者のメリアが言うほどの変態ね…なら関係なさそうね…それにしてもまだ捕まらないのかしら、始められないわね』
「酷い言いようだね、それとやっぱり結局コピーはするんだね、アメリーらしいさね」
『何?昔懐かしむような、話の切り出し方しちゃって、私と和気藹々とお話しがしたいの?』
顔に苛立ちを張り付かせたアメリーのコピーは煩わしい物を見るかの様な目でドクを見た。
「まぁ、そうと言えばそうさね、アメリーのコピーには少し興味があるさね」
コピーだとしてもドクは死ぬ前に、コピーされて用済みとなる前にアメリーと話をしたかった。
『アメリーらしい、ね、そこまで似ているもの?本物に』
「まぁ、アメリーぽさがあるくらいさね、よく見たら全然違うさね、一年はたっているんだろうね、コピーされてから」
ドクからしたら目の前のアメリーはアメリーであってアメリーでは無い様な物に見えていた。
仕草や言葉使いに考え方は面影があるもののどこか他人にも見えた。
『正解、よくわかったね、それと私はアメリーだった頃の記憶はほとんど無いからね』
「さっきの言葉で薄々感づいてはいたさね、いらないからって消されたね、八歳の時にお漏らしした事とかを話そうと思ったのだけれども、本当に残念さね」
『今ここで言うのをやめてくれないかしら、記憶には無くとも恥ずかしいのよ』
顔を赤らめるアメリーのコピーは六十代頃の顔なのに何故かふとドクは幼さと懐かしさを感じた。
「へぇ、そうかいそうかい、その表情懐かしいね…さっき言ったお漏らしの時の表情と同じさね」
『やめて、こんな人のいる所で、本当にやめてちょうだい』
「そうだね、でも懐かしい顔が拝めてあたしは嬉しいね、うん、だいぶ満足さね、でだ、やっぱり本物のアメリーは死んじまってるのかい?」
『一年と半年前までは生存を確認出来ていたけれどその後死んだと聞いているよ』
「へぇ…そうかいそうかい…クソッタレでも死んじまうとさみしいね…」
ドクは笑みを消してどこか遠くを見ながら悲しみを含んだ表情をしてた。
一度真面目に話し合いたかった、このまま何も相手の事情や感情も知らずに感情に身を任せ絶交したままで永遠に別れたくなかった。
ちっぽけなプライドが邪魔をして、ドクが予想と偏見で作ったアメリー像を敵視していただけかも知れないと、今更ながらに気がついた。
何もかもが終わってしまった後で、気がつくのが遅すぎた。
どうしようもない悲しさと虚無感が胸の内に溢れかえり枯れた涙さえもう出ずにただただ辛さが広がっていった。
『それとメリア、貴女と話していると少しだけアメリーの事が羨ましくなったわ、私は道具でしか無いから大切にされた事はないもの、けれどアメリーと言う人はよっぽど大切な人だったのね』
「…大嫌いさね、あんなやつ」
その後ドクはじっと、それこそ瞬きすらほとんどせずに部屋の一点をドクは見つめ続けていた。




