エーティの天使
更新しない期間が空いてしまい申し訳ありません。
先週からリアルが忙しくなってまして更新ペースが告知も無く落ちてしまいました。
今週もそこそこ忙しい為この話を含めて3話程更新予定です。
8月に入れば更新ペースも安定すると思いますので7月末まではご不便をおかけします。
これからもどうかよろしくお願いします。
その部屋は何か大きな爆発が起きたのか部屋の調度品は元が何だったかわからないほどに粉々に砕け、割れ、床に散らばっていた。
床には薬莢が散乱しその上には降り積もった埃がうっすらと覆い被さっていた。
そしてその荒れた部屋で今起きあがろうとしている者がいた。
歪み弾痕が多数残る鉄製の冷蔵庫の影に蹲っていた人物が、眼から血を流しながらよろよろと冷蔵庫を支えに立ち上がった。
「けほっ…ドク…エーティ…」
『はい、AT05G3です、現在擬態機能の仮死状態からの復帰により平衡感覚に異常が発生しております、一時的に擬態を解きますか?』
「や、そのままでいいよエーティ、人間の身体にもし戻れた時の為に人間らしい感覚は覚えておかないと…それよりドクは」
クティがなんとか頭にかかったモヤがとれ、あたりを見回すと荒れた部屋が目に入ってきた。
そしてドクの姿はどこにもなく身体に積もっていた埃が空中に舞った。
その埃に部屋の入り口からの光が当たり差し込む光に当てられるいたいけな傷だらけの美少女という光景が完成した。
ちなみに現実は廊下の非常灯と埃と中身がおっさんというトリプルアウトな非常に残念なシチュエーションだった。
『この部屋にはもういないようです』
「そっか…うぇ…そもそもなんでこんな埃だらけなの?」
クティは口に入ってきた埃を唾と一緒に床に吐き出すとこれ以上この部屋にいられるかとばかりに部屋をすぐさま出ていった。
ちなみにつばを吐く動作が完全におっさんだったクティである。
『どうやらグレネードにより積もっていた埃が吹き飛ばされたようですね、あとクティ、左目の処置をお願いします』
「左目?…え…なにこれ、血?なんで?」
左目に手を当てたクティは手に伝わってきた液体の感触に驚き硬直した。
そして触れてようやく主張を始めた傷の鋭い痛みにクティは顔をしかめた。
『飛来した銃弾が左目のそばの人工皮膚を通過して頭蓋のフレームにまで達した為これ以上の戦闘は不可能と判断し死体へと身体を偽装させました』
「へぇ…ドクを犠牲にするって言う判断をしたんだ?」
クティは眼球付近の再現された血液をボロ切れで拭き取る手を止めてAT05G3へと意識を向けた。
クティはやっと会えた大切な仲間とすぐ離れ離れになってしまっている現状に苛立ちを覚えた。
『それがクティ、あなたが生き残る優位の手段でした』
AT05G3の返答に歪んだ顔から血液で汚れたボロ切れを剥がし部屋の隅へとクティは放り投げた。
壁際まで飛んでいったボロ切れは壁に赤いシミを作り床に落ち埃を舞い上がらせた。
「そこまで私に忠実に奉仕してくれるのは嬉しいけれども、仲間を駒として見るのは流石にしないでほしいよ?それともドクの行方はちゃんとわかってるとか?」
『ええ、眼球型デバイスをズボンのポケットに入れておきました、視界に位置を表示させます』
「そう…」
視界前方に3Dマップが表示され始め、クティ達のいるマイヤーシティの全貌が表示されると赤い点が一つ光を放った。
その赤い点がかなりの速度で外輪部分へと移動していくのを見ながらクティは自分はどうしてしまったのかと思案していた。
こうやって移動する赤い点を眺めていると先程までの苛立ちが嘘のように引いていくのを実感していた。
数週間前のワイズエッジホテルで過ごしていた時ならこんな些細な事で感情が荒ぶる事も無かった。
私情を挟まず冷静に状況を分析し最適解を導き出せている筈だったのだ。
そして先程AT05G3にきつい物言いをした時の事が脳裏によぎった。
「エーティが…エーティが正しかったのになんで…」
この身体になってからどうも自身の気持ちを抑える力が弱まってきているのをもうすでに以前からクティは実感していた。
楽しそうなものが有ればそれに没頭し嫌な事があれば駄々をこねるようなことをしたり。
そして今回、ぼうっと赤い点を眺めながら若干AT05G3へと怒りをぶつけてしまっていた事に気がつきとてもナイーブな気分になっていた。
『クティ、どうやらかなりの速度で移動しているようです、場所からするに元々地下鉄が通っていた今は使われていない廃線をつかっているようです、クティ?聞いていますか?』
「何が原因…?身体が……それとも………」
『クティ!!』
『わ!?きゅ、急に大声ださないでよ…てあれ?』
考え途中に大声で呼ばれたクティは、驚き手が滑りドクの持っていたバックを倒し中身を散乱させてしまった。
慌てて片付けようとしたクティはその中に入っていたものの一つがふと目に止まって手に取って見てみた。
「これ…写真?」
今時珍しく紙に印刷された小さめの写真をクティはまじまじと見つめた。
少し今より若いドクにしわくちゃな五体不満足の軍人が車椅子にのりドクよりも少し若い年配の女性が軍人の肩に手を乗せていた。
写真の中のドクは心底嫌そうな顔をしており写真越しでも怒りや不満が伝わってくるほどだった。
『クティ?いつ彼らが戻ってくるかわかりませんからさっさとここを脱出しなくては、クティどうかしたんですか?』
「なんでもない、なんでもないよ」
クティは大事そうにその写真をバックの内ポケットへと戻すと残されていたドクターコートを床から手に取り今来ている上着を脱ぎいそいそと羽織始めた。
『クティ?なにをしているんですか?』
持っていってあげないと、それにこれ便利だしと防刃性能のドクターコートの裾をひらひらと波撃たせたクティは顔がにやけていた。
本当の理由は先程の悩みなど吹き飛び一回着てみたいという欲望が爆発しただけなのだがそう言うのは少し恥ずかしくてそれとない理由を言ってみたクティだった。
着れて嬉しいのか裾をひらひらと波打たせておりさらに表情からもバレバレだったがAT05G3はそうですねと返しておいた。
『こ、この感覚は…?』
「似合うんじゃないかな…似合うよね…最高じゃない…?」
そしてAT05G3は衝撃を受けた。
先程とはちがい、今度は汚れも流血もほとんどない白衣の天使がそこに存在していたのだから見入るのに必死だったのだ。
ブカブカのドクターコートの裾を一生懸命めくる天使だった。
AT05G3はかつてないほど擬似的にだが強い胸の鼓動を感じていた。
AT05G3はそれはもう部屋の隅の割れかけた鏡に映った光景を保存するのに必死だった。
鏡に映った元自分にドキドキするオートマトンと元おっさんがドクターコートの裾をひらひらさせて微笑む少しよくわからない光景はしばらく続いていたとか。
どちらにせよ現実を知る者がここにいなくて二人とも救われたのだった。
補足
クティはエーティの女性的な感覚が、エーティはロイドの男性的な感覚がそれぞれ微妙にデータを移動した際に混じっています。




