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再び再起動


 ロイドは意識が覚醒していくのをうっすらと実感していた。

 右目は完全に見えず、左目はぼやけていてほとんど光が入ってきているという事しかわからず今がいつなのかもよくわからない。


 死んだんだと自分に言い聞かせたロイドは、では何故今生きているのかと疑問を浮かべた。


 身体の感覚が僅かに戻ってきた所で誰かを抱きしめている事にロイドは気がついた。


 そしてしばらくぼんやりとしていたものの正常にはっきりといつの間にか見えるようになっていた視界が誰を抱きしめているのかを理解した途端顔をしかめた。


 それがゾンビだったものだからロイドは慌てて飛び抜き腿のホルスターから拳銃を取り出そうとしてその手はからぶった。


 「うぇあ!?」


 そして距離をとって身体は噛まれていないかとチェックした所自分の腕が白く細い事に気がつきそういえば声もかなり高い声だったとロイドは疑問を抱いた。


 それから数分後ロイドはようやく自身の身体がAT05G3になっている事と目の前の生き生きとしたゾンビがかつての自分だという事を理解した。


 「えぇ…なんだよこれ…つかとりあえず元俺をどうにかしねぇと」


 AT05G3の身体は外見は人間だが中身は機械の塊の為ほとんどの場合ゾンビに襲われることもなく元ロイドのゾンビはぼーっと側に佇んでいた。

 ロイドはもしかしたらいつか治療法が見つかり戻れる可能性もあると考え縛って腐敗を防ぐ為にどこか温度の低い場所はなかったかと思案した。


 そして元々バリケードを作るために使っていたコードを数本手頃な長さの物を他の部屋から見繕ってくるとロイドゾンビの手足を縛りつけた。


 「まさか自分を縛る事になるとはな…つか片腕だと結びにくいな…それにしても……ドMのジェイクの事を笑えねぇな」


 あいつ最後は俺ら庇って殿つとめていたっけか、ドMらしい最後だったが案外生きていそうだとロイドは苦笑した。

 

 ちなみにはたからみたら笑みを浮かべながらゾンビを片腕で縛るぼろぼろのオートマトンというホラー映画並みの不気味さを撒き散らしていた。


 幸いロイド以外にはこの場にはいなかったので杞憂に終わったがもしいたら相当引かれていたに違いない。


 そしてロイドが片腕で悪戦苦闘する事数分、やっと結び終えた時頭の中に懐かしい声が響いた。


 『システム再構築完了しました、サブ電子頭脳起動します…ロイド!無事ですか!?』

 

 「うぉ…エーティか!無事だったのか!」


 驚きながらもロイドはAT05G3が無事だった事にホッとし、顔を綻ばせた。


 『えぇ、賭けに勝ちましたよ』


 「賭けって言うとアレか?』


 『アレですね、正確に言うとアレはもう抜け殻みたいな物ですが』


 ロイドが指差した先には成人男性のゾンビがいた、元ロイドである。


 「なんか…普通のゾンビと違う気がするんだが」


 ロイドが言った通りにロイドゾンビはじっとたたずみどこか遠くを見ているような様子だった。


 本来なら鼻を鳴らしうめき声を上げ人を探し這いまわっている物だとロイドは理解していた為疑問に思った。


 『3割...』


 何か思うところがあったのかAT05G3が呟いた言葉は身体を共有してる為はっきりとロイドに伝わりロイドはすぐさま反応した。


 「3割?何が3割なんだ?」


 AT05G3から伝わってくる焦りなような感情がロイドにはとてつもなく不安になった。

 AT05G3が焦った事など数回ほどしかないのだ、それも身内が危機に晒されている時だけという。


 「エーティ!3割って『貴方の記憶の移動の際にアレに残された記憶の割合です』」


 「うそ…だよな…」


 言葉に被せるように返答したAT05G3からロイドに申し訳ないという感情が共にぶつけられた。


 たとえ大切な記憶があった事すら感じられずもう二度と取り戻せないかもしれないと考えるとロイドは無性に悲しくなり、許せなかった。


 人は死んだら他の人の中で生き続けてると仲間達と泣きながら弔った。


 覚えている人がいなくなった時それが本当の死だと、お別れだと、仲間が言っていた。


 忘れてしまったこの文明が崩壊してからの仲間の記憶はたとえ一欠片でもかけがえのないものだった。



 「クソっ!何を忘れた!?何を失った!クソ………」


 『ロイド…』






 しばらくロイドは化け物に荒らされた部屋や辺りの死体なんて見たくなく顔を膝に埋め無事な片腕は力なく床に垂れ下がらしていた。



 「なぁ…エーティ…俺弱っちいな…」


 ぽつりと、ロイドは弱々しく呟いた。


 『ロイド、貴方は弱くなんか』


 「弱いさ、まるで10代の小娘だ」


 以前だったらこんなに感情が荒ぶるはずもなかった、それこそ仲間が死んだとしても。

 仕方ないと、思えるようになってしまっていた。


 『見た目はまさに10代の小娘ですからいいのでは?それにロイドは電子頭脳に慣れていないせいか感情がすぐ行動に出ているようですよ』


 「そうだな…」


 『なんならいっそ10代の小娘を演じてみたらいかがですか?その見た目で俺と言うのもやめてほしいですしね』


 元そろそろ40が間近な筋骨隆々なおっさんがか?と冗談じゃねぇとロイドは悪態をついた。


 ロイドはこんな自分を励ましてくれているエーティにありがとうと、心の中でお礼をした。


 「まぁ、俺って言うのはやめとくさ、変に勘繰られても困る」


 『なんせゾンビに傷を負わされても変化しないですからね』


 だいぶロイドも調子も元に戻ってきたのをAT05G3は感じ取ったのか心なしかロイドに感情が伝わってきた。


 「だな…」


 ロイドは元ロイドのゾンビの腿のホルスターから拳銃を取り出して構え一発発砲した。


 放たれた弾丸は部屋に入ろうとしてドアをくぐったよその生存者だったゾンビの頭に吸い込まれるように飛んでいき、力を無くしたゾンビはドサリと仰向けに倒れ込んだ。

 

 ゾンビになった仲間を手ずから弔った事が幾度もあるロイドはまだ動き考え戦える事の奇跡を改めて感じた。


 『ロイド…失った記憶は、私が見聞きしていた事に限りますが』


 「いや、無くなった物ならもういいさ、他人視点で教えられたって悲しくなるだけだ、それにまだ生きているかもしれない奴らを探して新しい記憶を、思い出を作る方がよっぽどいい」


 『なるほど、さすがロイド、臭いセリフをよくもまぁツラツラと言える物です」


 うるせぇ!とロイドは返したが顔には笑みがあふれていた。

 

 「まぁとりあえず元俺の処理だけでもしちゃうとしますか」


 『ロイド、俺じゃなくて私です』


 「あ…」


 

 その後ぼろぼろの部屋の中には女の子らしい動作や言葉遣いを必死に繰り返し練習する光景があったとかなかったとか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がオートマインの中に入り込んでという始まりが、とても興味深いですね。 まだ3話ですが、惹きつけられるものがあります。 これからが楽しみです!
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