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成長


 AT05G3はそれからしばらく外の景色を眺めていた。

 窓を叩く雨、遠くから聞こえてくる雷をBGMにじっと外の景色を眺め続けていた。

 そしていくばくか経った頃AT05G3はふと口を開き何かを呟こうとしたもののすぐに口をつぐんだ。


 窓の外には灰色のビル群が見えておりその向こうには一際背の高い台形のビル、中央政府が顔を覗かせていた。


 ドクの言った地下道の出口を考えればゾンビを倒しながらでも到着はだいぶ早くなる。

 その分AT05G3からすればクティに真実を伝えるタイミングも必然的に少なくなってしまうことは明白だった。


 「何を知りたいと…何を知りたいと考えているのですか、何を思い出しかけたのですか…そもそも魂とは一体何ですか…」


 AT05G3は弱々しく呟いた。


 どれほどロイドに面と向かって聞けたらよかった事か。

 バックアップのロイドの記憶に聞くとしてもクティという存在を、消去しなければいけない。


 データの移動には移動先にコピーをして、問題がない事を確認してから元のデータを消去するという手順を取らなければならなかった。


 データがうまくコピー出来なかった時の事を考えての安全策が裏目に出ていた。


 「クティ、私はあなたの事も大切なんです、生きていてほしいと思っているんです、今更ロイドの事が恋しくなった私にはもうどうすればいいのか…」


 そして言い終わった時、項垂れたAT05G3はドアの前に誰かが来ていたことに気がついた。


 「ヒとハ、ミナしんダらガガガ…ツチニ…かエるのガ…タダしイ人生ダと…ワタしワおもいマす」


 AT05G3は素早くロイドの愛銃を引き抜き構えると声が聞こえて来た扉の向こうへと銃口を向けた。


 「誰だ!」


 「コピーヒんハ、きどウしてカら…ニジゅウネんも…モタない…タマしイが…そんざイしないカら」


 「誰だと聞いている!」


 AT05G3は謎の声の言っている事を一字一句聞き逃さずに情報をできるだけ集めようとしたが読み取れたのはAT05G3には絶望感を植えつけるような内容だった。

 そんな根拠が何か聞けてない話を信じたく無かったAT05G3はつい大声を出してしまった。


 声を荒げたAT05G3に反応してドアを勢いよく叩く音とゾンビの唸り声が聞こえて来た、が。

 すぐさま響いたサイレンサー付きのくぐもった二発の銃声にゾンビは沈黙した。


 「わタしは正式名称ATα、オートマトンあルふァ自リツシケん最しょキがタ、最終とうろク日二千五百九年五月二十八日ごぜン三時二分、とうロくサレた記憶はアめリーのもノものデす」


 AT05G3は警戒を強めた、ドクとクティの会話から聞き耳を立てていた可能性も考えられた。

 が、AT05G3にはなんとなく何故か根拠も無く先程の話の関係者だと考えられた。

 さらにはアメリーを名乗った事さえ根拠も無く信じてしまった、否、AT05G3はそうであって欲しいと願っていた。


 念のためサーマルスコープを起動すると扉のすぐ向こうにかなり古いデザインのオートマトンの骨格のみが表示された。

 そして検知した識別コードが名乗ったものと間違いがなかった為ドアの前のバリケードをどかそうとした。


 そして頭の後ろに突き付けられた銃口にAT05 G3は気がついた。


 「何をしようとしてるさねエーティ、それと外の客には帰ってもらいな」


 ドクの底知れぬ暗い目がAT05G3を睨みつけていた。


 「ドク、このATに見覚えは?」


 振り返り義眼から立体映像として扉の向こうのATを表示するとドクは苦虫を噛み潰したかのような顔をした。


 「今更何をしに来たんだい、アメリー」


 「あめリーからノデン…ンガ…リマす、せーフはうスでマつ、いじょウで…………」


 言い終わる前に扉の外から何かが倒れる音が聞こえたドクは慌ててバリケードを退けてドアを開け放った。


 そこには錆まみれになっている機能を停止した一体のオートマトンが倒れ込んでいた。


 付近にはビルの中の巨木に使われたであろう成長剤が積まれた荷車が置いてあり、先程まではなかった事を考えるにこのATが運んできた物だと推測出来た。


 「このATがどうやら木を育てていたみたいですね、理由はわかりかねますが」


 「理由は、知りたくもないさね」


 「理由はどうであれ美しいものじゃないですか、ドク、セーフハウスはどこに?」


 ここまでの巨木となるとロイドの言っていたマケマーケットの巨木くらいしかマイヤーシティには無いためAT05G3には新鮮だった。


 「地下道のちょうど真ん中あたりさね、どうして聞くのさね」


 「知らなければいけない事が、教えてもらわなければいけない事が私に出来ました」


 「そうかい」


 巨木をAT05G3は見上げた。


 AT05G3にはそのビルを突き破って生える巨木がとても力強く美しく感じた。



 「ドク」


 「なにさね」


 「近いうちにクティへ真実を伝えます、クティは成長してこの巨木も成長していくんです、私も一歩前進して成長しないと、いつか置いてかれそうですから」


 「そうかい、ロイドの事は諦めたのかい?」


 「それは…」


 AT05G3は押し黙った。

 このデータを消す事はいますぐにでも簡単に出来る、だとしても手放したくはなかったのだ。


 「別にすぐに消せって言っているわけじゃないさね、起動しないならしないでずっとお守り代わりに取っておくのだっていいさね、エーティ、あんたの自由さね」


 「お守り…えぇ、しばらくはお守りとして取っておくことにします」


 「言っといてなんだけどね、エーティがお守りなんて持つなんて他のオートマトンに笑い物にされるんじゃないかい?」


 基本的に以前までのAT05G3含めてまやかしや願掛けなんてオートマトン達はしない為ずいぶんとエーティは人間臭くなっていた。




 「いいえ、笑われても別に気にしませんよ、これは大切なデータなんですから」




 AT05G3はそう言ってデータを保存してある左胸にそっと手を置いて笑みを浮かべた。

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