ドクの昔話
「ヤツの事が許せなかったんだよ、院長は悔いなく死んでいった、見届けたから間違いない、その後あたしは孤児院へと戻って院長の墓の前で泣いたさね」
「ドクが泣くほど辛かったんだ…」
「命が安くなるなんて言い訳さね、ただあたしは院長に静かに眠っていて欲しかっただけさね…それで決心したのさね、なんとしてでもヤツの研究が終わる前にあたしがって」
正直何をアメリーに言ったのかは頭に血が上っててドクは覚えていなかった。
逃げるようにラボから孤児院へと戻ってきたドクは院長の墓の前で泣き悲しみ言葉に表せない辛さを叫ぶ事で表現した。
『どうしたんだいメリア、こんなに感情的になって泣き散らかして、まるで子供みたいだ』
しばらく泣き叫んでいたドクに声をかけるものが現れてドクは振り返ってその姿を目にうつした。
彼は両腕が無く片足も義足をしている五十近くに見える痩せた男性だった。
ドクは本名を呼ばれて振り向いたわけだがドクにはその人物は面識は無かった為首をかしげた。
『今はほっておいてほしいね、そもそもあたしはあんたの事を一欠片も知らないさね』
『私はダリズと言う物だ、それと孤児院で私は以前君と会ってるよ、覚えているはずだ、とは言え私が君の事を見る事はこれが初めてなのだがね』
『どういう…』
『おや、わからないか、ならこれでどうだ?当時ここの院長だった者に投げ飛ばされ気絶させられた軍人だ』
『あぁあの時の、今更なんだい?嘲笑いにきたのかい?』
ドクはたしかに面影があると納得しながらも何故その彼が今更自分を訪ねてきたのかと不思議に思った。
『いやなに、ちょうど今オートマトンに関する研究を進めていてね、この手だと少し不便でね、秘書を探していたんだ』
『何故あたしを?孤児院の経営しかしてこなかったババァに何を期待してるのさ』
『いや、特に理由はないね、強いて言えば学もなくもちろん専門知識も無く、そんな君がオートマトン関係に関わるにはこれしかないと思ってね』
『何故そこまで知っている』
ドクは忍び持っていた古いものの美しい装飾が多岐に巡らされたリボルバー拳銃の銃口をダリズの眉間へと突きつけた。
ダリズは突きつけられた大口径の銃口に少したじろぐと口を開いた。
『コネだよ、ここまで知れたのは運の要素がかなり高かったがね、それとコレは?ずいぶんなアンティーク品の様に見えるが、いやなんでもない銃口を下げてくれ』
『へぇ、そうかい、アメリーだねわかった後で色々含めて半殺しにしなきゃならないらしい』
思い当たる節が一つしかなかった為ドクはすぐに気がつき悪態を吐いた。
『で、返答は?』
『研究内容は?』
『電子的な頭脳を持つ自我の作成だ、もちろん彼女みたいに非合法で命を軽んじる様な方法は取らない』
『そうかい、なら授業も込みで頼むよ、研究にはあたしも参加する』
『それは良い返答を聞けた』
ドクは決意を固めて握手をする代わりにダリズの肩を二度軽く叩いた。
「それからドクは研究を手伝って来たのね」
「あぁそうさね、何気にエーティの電子頭脳の製作にはあたしも関与してるさね、それで研究してるうちに医学も必要になってね、最後は医者になったのさ、それはアメリーも同じさね」
「へぇ」
「でだ、まとめるとあたしとアメリーはオートマトンの電子頭脳の製作をそれぞれ目指したのさね、手段が違っただけさね、その手段が許せなかったって話さね」
ドクはため息を吐いて俯きエーティへと話しかけた。
「それとエーティ、あんたのやった事はかなりグレーさね、二度とするんじゃ無いよ」
『はて、なんの事でしょうか、わかりかねますね』
「エーティがどうかしたの?」
「なんでもないさね、そろそろ泊まれる場所を探そないとね」
クティがドクに問いかけるもドクは詳しくは話さなかった。
それから寝床となる安全そうな部屋を見つけたクティ達は荷物をまとめドアを塞いだ。
窓から外を見るともう暗闇に包まれておりいつのまにか雨は強くなっており遠くから雷が聞こえて来ていた。
「ちょっと昔話が長すぎたね、そろそろあたしは寝るよ、クティもスタンバイモードに移行しな」
「わかった、おやすみドク」
「おやすみクティ、よく休むんだよ」
「ドクこそ、エーティスタンバイモードにお願い」
『了承しましたクティ、おやすみなさい』
クティの寝息が聞こえ始めるとドクはため息を吐くと横に寝転がった。
「どう言う事ですかドク、いいえメリア博士」
それから数分後、静まり返った部屋にエーティの駆動音と声が響いた。
「おやエーティじゃないか、どうって多分言いたいのは先程の事さね」
「今のロイドがコピーされたモノなのは言わない約束では?察しが良ければバレていました」
「じゃあいつまで隠しているつもりだい?」
「それは…」
エーティは言い淀んだ、エーティもいつまでも隠し通せるなんて甘い考えでは無かったしいつか話さなければいけない事も理解していた。
だとしてもなかなか言い出せる機会が見つからなかった。
「それにもうロイドじゃないさね、あれはもうロイドじゃなくてクティって言う新しい別物の人物でしか無いんだよ」
「そんな事は!」
「無いって?電子頭脳を持つあんたもずいぶんと人間臭くなったものだね、自分に不都合のある事実を受け入れられないかい」
「違う!それにロイドに生きていて欲しくて、ロイドも生きていたいと望んでいたんです!」
「十代の小娘じゃないんだから話を逸らして逃げようとするんじゃないよ、みっともない」
AT05G3はドクに言われてようやく自身の愚かな返答をしてしまった自身の変化に気がついた。
「あれ…なんで、ちが、私は、私は…」
「何も違くないさね、エーティ、もうあんたのいて欲しかったロイドはとっくのとうに死んじまってるのさね」
「ロイドは、ロイドは今ここにいる!ロイドはデータとして残ってるんです!」
AT05G3は自身のフォルダに再コピーしたロイドの記憶を大事に大事にドクに消されない様に何重にもロックをかけた。
「やり直すつもりかいクソオートマトン、もしクティとしての記憶を消したとしても似た未来しか待ってないさね、そもそもそんな事あたしが許さないよ」
「メリア博士は関係ないじゃないですか!」
「関係あるさね、身体の一部とは言えあんたはあたしの娘とも呼べるからね、娘が間違った道を進むなら正すのが親の役目さね」
「人間の間違えた判断を正すのがオートマトンの役割です」
「そうかいそうかい、でも近いうちに伝えるこった、重要な局面で動けなくなるなんて事はごめんさね」
「それくらい、それくらいはわかっています」
近くて雷が落ちたのか雷の大きな音が部屋に響いた。




