孤児院の院長
ドクとアメリーの過去話です。
「あたしとアメリーはそれこそ子供の頃からの腐れ縁ってやつさ、同じ孤児院ですごして同じ釜の飯を食べた仲さ」
薄暗い植物に一部侵食されてしまっている部屋でドクはアメリーの事を過去を懐かしみながらポツポツと話し始めた。
「アメリーはね、どうしようもないバカなのさ、バカだけど天才で、やっぱりバカだったのさね」
外は曇り、雨雲が広がり久しぶりに雨が降り始めていた。
そこはスラムと化した地域の古びた教会だった。
一人の老婆が孤児院を経営しており近頃経営が困難になっていた。
『ねぇ!ねぇってば!遊ぼ!私はアメリー!』
『あたし?急に何うざいんだけど?』
『暇で暇でしょうがないのよ!みんなこの前どこかへ連れてかれちゃったでしょ?私以外にもう貴女しかいないのよ!暇なの!』
『うるさい!うるさい!どっか行け!』
当時14歳だったドクは8歳のアメリーを突き飛ばした。
アメリーは突如突き飛ばされ尻餅をつき泣き始めてしまったのをドクは見ながら自分も涙を流している事に気がついていなかった。
ドクは知っていた、15歳以上の仲の良かった年長の孤児の仲間達は壁の外の戦争に連れて行かれたと言う事を。
院長が軍の人と話しているのを少し前夜更かししていたドクは聞いてしまったのだ。
そして残ったのは赤子に八歳のアメリーとギリギリ連れて行かれなかったドクだけだった。
それからドクは孤児院の中で最年長の孤児になり院長の手伝いや下の子達の面倒を見たりと14歳の少女には辛い時間を過ごした。
なにせ院長はもう八十近くになっており体力や気力なんてものはとっくのとうにつきかけていた。
今までは年長の孤児達が手伝い支え合ってきたものの彼ら彼女らはもういなくなってしまっていたのだからその分ドクの負担は増えた。
半年も過ぎる頃には十五歳になればもしかすれば自分も軍に入れられてしまうかもしれないとドクは思い恐怖した。
スラムは壁際に位置していて壁の外からの戦闘音はスラムに流れるBGMと言っても過言ではないほど身近な存在なのだ。
爆破音、砲撃音、そして銃声にかすかに聞こえる悲鳴が織りなす音色は聞くだけならもう慣れてしまっていたもののいざ自分がそこへ行くとなると今すぐここから逃げ出したくなった。
しかしドクは孤児で今この場所から出て行けば即野垂れ死ぬ事くらい痛い程に理解していた為逃げる事も出来なかった。
それでもなんとか頑張れてきたのはアメリーという存在がいたからだった。
ドクが疲れていても寝ていても赤ちゃんのオムツを変えていたとしてもとにかく遊んで遊んでとまとわりついてきたのだ。
ドクは日々流れるスラムのBGMが何かを知っていた、でもアメリーは知らなかった。
ドクと違いアメリーにとってそのBGMは生まれた時から今の今まで鳴り止まない日常なのだ。
そんな純粋無垢な笑顔を向けてくるアメリーに少し救われていたのかドクはうざいと毎回言いながら安らぎを感じていたのだ。
そしてついに誕生日まであと数日という日、珍しく休みをもらえたドクはアメリーとかくれんぼをして遊んでいた。
食堂をみて、見つからず寝室を探してもおらずならば院長室かなとドクは扉を開こうとして中から誰かの話し声が聞こえてきた為ドアに張り付き息を呑んだ。
ドクはどうも嫌な予感がしたのだ。
『何故了承してくれない?戦闘には出さない、後方での医療任務に携わって貰うだけだ危険は無い』
『あの子がいなくなったらこの孤児院はおしまいさね、いくら金を積まれたってわたしゃしないよ!』
『貴様!まだそれを言うか!シティとこのオンボロの孤児院など比べ物になだならぬだろう!?』
『一年前はした金を置いて無理矢理連れて行ってなにをほざくさね!さっさと彼らを返しな!』
『そんな事は前任者に言え!俺は関与していない!』
『もういいさね!出ていきな!出口はあっちさね!それ!』
室内からガラスが割れる音が響き渡り慌ててドクが扉を勢いよく開けて入室すると窓が割れており腕から血を流す院長の姿が目に入った。
『院長!院長大丈夫!?止血しないと!』
『おやまさか聞いてたのかい?盗み聞きは良く無いね、ゲンコツだ』
『痛い!』
ドクが院長のゲンコツに頭を抱えていると院長の笑い声が聞こえてきた。
『なんでわらうの!』
『や、可愛くてねぇ、それと窓の外のゴミを片付けておいてね、邪魔でしょうがないね』
『窓の外?』
ドクが窓の外を見るとガタイのいい軍人が窓から落ちて伸びていた。
『これ院長が?』
『昔やってた格闘技さね、少しの力で大男を投げ飛ばせる便利な技さね』
『院長すごい!』
「それから二年ほど経った頃さね、年長組の孤児院の仲間が死んだって報告が来たのは、最前線に送り込まれて一人また一人と医者が不足していたせいで死んでいったそうさね、どれだけあの時後方での医療任務に行けば良かったかと後悔したか」
タバコに火を付け咥えたドクは煙を思いっきり吹き出した。
煙が部屋に充満して臭いが広がりロイドの頃からその匂いが苦手だったクティは顔をしかめた。
「くさいよ、吸うなら外にして」
「すまないね、少し我慢してほしいね、でだ、アタシはそれがきっかけとでも言うのか、これ以上彼らの様な少年少女達が犠牲にならないようにオートマトンを作るラボに入ったのさ」
「アメリーはどうしたのさ?それだけじゃドクの話しかわかんない」
「せかすんじゃないよ、そうさね当然ヤツも死んだ理由やら帰ってこない事は十歳の脳みそでも理解出来ていたさね、もちろんその死んだ中には仲のいいヤツもいたから落ち込みようは凄かったよ」
彼らが死んでから二十年経った時ドクは年で死んでしまった院長の代わりに孤児院を経営していた。
そしてアメリーがラボを立ち上げたと風の噂で聞き信頼のおける元孤児だった人物に孤児院を任せてアメリーのラボへと訪れていた。
そこはとある大学の一室だった。
ドアの前に立ち一息ついたドクは意を決してノックをした。
『こちらにアメリーがオートマトンに関するラボを立ち上げたと聞いてな、アメリーはいるのかい?』
『えぇ、私がアメリーよ、もしかして姉さん?』
ドアが空きしばらくあってなかったアメリーに再開したドクはアメリーを抱きしめた。
『そうだよ、ずいぶんと老けたね』
『姉さんこそふけたね、それとようこそ私のラボへ』
『あぁお邪魔するよ』
『見せたいものが沢山あるのよ!さあ来て!』
手をつられドクが一台のモニターの前まで連れてこられるとそこには人間の脳を模した映像が映し出されていた。
『これ…は?』
『これはね、死んじゃった院長の脳のコピーなんだよ!』
そして告げられたものはとても信頼して、最後まで憧れた院長のコピーであった。
アメリーは天才だった、だからまだ人類が到達していなかった人間の脳のコピーを不完全ながら再現していた。
アメリーはバカだった、死者の蘇生というハードルを超えてしまった。
この技術が公になれば命のそのものが軽くなってしまうのだ。
『なんて事を!院長は安らかに眠りについた!悔いも残さず立派な人生を終わらせた!そんな彼女を他人の都合で蘇らせるなど!しかもこれは完全では無いはずだ!』
『そう、めざといね姉さん、これは院長の記憶7割だよ、でもそれでも院長だと言えるね』
『そんなのただの死者への冒涜だ!』
『いいや違うよ、私は院長にまだ生きていて欲しかったし院長も生きていたかったはずだよ、何も問題はないよね?』
ドクは苛立ちから吐き気、眩暈などが自身の身体で起こり始めるのを感じながらアメリーを見た。
その顔には満面の笑みを貼り付けておりドクは底知れない恐怖を感じた。
ドクがアメリーとあってなかった十数年、何があったのかまったくわからず、アメリーはドクの知るアメリーではもう無くなってしまっていたのだった。




