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再開


 「エーティ、30分ほど前だ噛まれたのは、つまり俺に残された時間は約30分程しかない」


 「感染拡大の防止を実行する為腕を切断します、今直ぐ切断すればわずかな確率で生存する事が出来ます」


 「おいやめろエーティ…ゴフッ…もう無理だ」


 感染してると判断したAT05G3の行動は早かった、少しでも助かる可能性がある限りその方法を試し切るべきだと教えてもらったのは目の前にいるロイドからなのだ。

 その事をロイドに伝えると静かに首を振った。


 「いや、確かに言ったさ、でももう無理だ…ガフッ…カヒゅー…な?それに太腿も噛まれてる」


 感染には段階が存在しており、息苦しさを感じ始める第一段階。

 喘息のように咳や息苦しさを感じ始めその強さが増していく第二段階。

 第二段階の症状が更に悪化し、幻聴や幻覚が聞こえ、身体の至る穴という穴から血が流れ始めるのが第三段階。

 そして第四段階にて心臓は止まり歩く死体と化す。


「私が…医療特化のATだとしたらどれだけ嬉しかったか…いえ、むしろ後悔の念は今よりも更に大きくなっていたのでしょうか…」


 感染経路の遮断によって防げるのは第二段階まで。

 従来のゾンビ映画とは違いじわじわと細胞を根のように張り巡らせ侵食し変質させていく為第二段階までは侵入した部位から周辺を切り落とせば助かるとドクが突き止めてた。


 ドクの調査は実際正しく足を噛まれた生存者の足を切り落としたところゾンビとはなりえなかった。


 とはいえその生存者は車椅子生活を余儀なくされ鎮痛剤など数ヶ月前に切れてしまっていたため激痛でしばらく苦しみ耐え抜いたが、命と比べればどちらを選ぶかとドクに問いただされ命を選んでいた。


 それとその際ドクは寿命で死んだり病気で死んだりする場合もゾンビとなるのはやはり…とブツブツとつぶやいていたとログに残っている。


 とはいえだ、第三段階の上噛まれた場所は二箇所でどちらも切断するとなると止血する物が付近にない為失血死してしまう上に感染を止めることも出来ない。

 つまり詰んでいた。


 だとしてもAT05G3は諦め切れなかった。


 ロイドは育ての親と言っても過言ではない存在であって今のところ生存を確認できた唯一の人族でもあった。

 何としても死なせたくないとAT05G3はエラーを未だに吐き続けている電子頭脳をフル回転させる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 どれだけ考え込んでいたのだろうか、気がつけばロイドは幻覚や幻聴が激しくなってきたのかもう長くない事がわかる状況になってしまっていた。


 息は絶え絶えに常に幻覚や幻聴を見聞きし目から流れる血の涙の中には本物の涙が薄っすらとうかがえる。


 が、ようやく見つけた、ロイドを助ける手段を。

 AT05G3が下した決断、ロイドを助ける手段はAT05G3に多大なる負担を与え、今後自らの意思をもって自分の身体を動かせなくなる方法だとAT05G3自身も正確に理解している。

 

 だとしても

 

 「おぃ?エーティ?ゴふッ...俺の事父ちゃんって...言ったか?…あぁエミィ死んだ筈じゃなかったのか!?」

 

 AT05G3はそれを実行する為にロイドの持っていた通信機のバッテリーをまずは外し、自身に接続した。

 通信機のバッテリーは出力は弱いが半永久バッテリーの為接続さえしてしまえば活動時間はぐっと伸びた。

 半永久的に活動出来るのはメリットでありパワーが落ちるのはデメリットであったが今からする作業に力は必要ないとAT05G3は割り切り作業に移る。


 ATシリーズには人間の脳に移植されたチップにより特別状況下でのみニューラルリンクを可能とする機能が取り付けられている。


 ニューラルリンクをし、得られる機能はそれぞれの身体の操作。


 人間側にATが干渉し、極限下でのアシストとして人間を操作または助言による行動が可能である。

 そしてその逆の事も出来るが普段はロックがかかっておりAT05G3は過去一度も外した事がなかった。


 解除方法は双方の同意、もし人間側から同意を得られない場合は不可能な為意識が朦朧としているロイドに同意を求めるのは不可能に近くAT05G3としてもこれは賭けだった。


 「ロイド、貴方の身体はもう限界です。あと数分もすれば貴方は、貴方としての生を終える事になります」


 今からやろうとしているのはロイドの記憶をAT05G3の電子頭脳に送り込み固定するという方法だった。

 

 現在AT05G3の電子頭脳はAT05G3が使っている。

 当たり前だ、自分の脳みそは誰だって自分で使う為に存在するのだから。


 「おうエーティ…どこに行ったんだ…エーティ…さっきまで腕の中にいただろう…行かないでくれ…1人にしないでくれ」


 そしてAT05G3はその当たり前を否定し、ロイドという存在の存続の為自分の電子頭脳を渡す事を、ロイドが一人にしないでくれと、うわ言のように呟いているのを聞いてAT05G3自身も無事でいないといけないと決意した。


 電子頭脳をロイドに譲った場合AT05G3の意識はサブの電子頭脳に移動される為上書きによる消失は免れるものの身体の操作権や諸々の決定権を放棄する事を意味していた。

 

 元々サブの電子頭脳はメインの電子頭脳が使用不可になった時に稼働し始める名前の通りメインの電子頭脳のスペアとしての役割しか持たされていなかった。

 その為スペックも一段落ちた物であったがロイドと一緒にいるという項目は達成出来ると判断したAT05G3は後はロイドから同意を得るだけだと自分のシステムに向けていた視線をロイドに戻した。


「ロイド…私はここにいます、一緒にこの場所にいます、これからも…私と一緒にいてくれますよね…?」


 そう言いながらAT05G3はロイドのぼろぼろな身体に抱きついた。


 「エーティ…エーティ…何も聞こえないんだ…見えないんだ…でも…抱きしめてくれているのはわかるよ…そばにいてくれて…俺は……ずっと………れたら…」


 「ロイド…?ロイド…?」


 AT05G3はロイドの身体から力が一瞬にして抜けたのを理解した。

 

 それと同時にロイドの人格とも言えるデータがAT05G3の身体に入ってきたのを感じた。

 AT05G3は間に合った事にホッと一息吐くと共にそのデータの量が想定されていた物より三割程少ない事に焦りを覚えた。


 しかし元々AT05G3の身体にロイドのデータ化した意識がメインの電子頭脳に送り込まれ次第AT05G3の意識はサブに強制的に移されるようになっていた為ロクに確認出来ないままAT05G3はサブの電子頭脳に押し込まれてしまった。

 








 それから数分かそれとも数時間か数日か、はたまた数ヶ月か、時間はわからないがしばらくしてからロイドの意識が再覚醒したのか1人の元人間に抱きつき活動を一時停止していたATの指先がピクリと動き出した。

 

 そしてその作り物の綺麗な瞳がぼんやりと周囲を見回し自分の体勢を確認し…


 男性のゾンビを抱きしめていた事に気がつき。


 「うぇあ!?」


 可愛らしい声の悲鳴が風化した部屋の中に響いた。


 

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