ビンのフタ
「やぁやあ立場が逆転したね、持ってる情報吐けるだけ吐きな!」
ドクは敵兵士の片方を泥水を頭からぶちまける事により起こした。
そのままドクは靴のカカトで敵兵士の剥き出しになった足の指先をグリグリと踏み付けた為兵士は情けない悲鳴をあげた。
追加でドクは爪を剥がしにかかろうと手を捉えた。
「ぐぁあ!やめっ!やめてくれ!知らないんだ!ほんとだうそじゃねぇ!」
「なら話すんだね、所属を!拠点を!」
それからしばらく兵士の情け無い悲鳴とドクの怒鳴り声が屋上に響いた。
「で、なにか吐いたの?」
ロイドが屋上へと戻ってくると瀕死の兵士二人と苦い顔をしたドクが待っていた。
「なにも、強いて言えばコイツらが下っ端の下っ端てことぐらいさね、そっちは何かあったかい?」
ドクは瀕死の兵士二人を足蹴にするとロイドへと強奪した食料を投げ渡した。
片手でうまくキャッチしたロイドはバックへと食料を仕舞い込んだ。
「ん、ありがと、隊長って呼ばれてたから何かわかりそうな事があったらいいなって…だけど何も見つからなかったよ」
「無駄足だったって事かい、あぁそれとあの動画は罠ってのは確認できたさね、どういう罠かはやっこさん達知らされてなかったらしいがとにかくやばいらしい」
「なら早くグエス達に伝えないと!」
急いで階段を駆け降りようとしたロイドをAT05G3は呼び止めた。
『ロイド、ここの施設の有線通信をハックして軍のキャンプ宛に動画の件は罠だと暗号通信を入れました、ひとまずはこれで大丈夫でしょう』
「エーティありがと、それとなんで有線?」
メッセージを送るだけならAT05G3の機能に最初から備わっている筈だとロイドは思い出し疑問に思った。
『彼らが私の存在を知ったのは私達が再開した時の無線通信を傍受された可能性が高い為です』
「エーティはなんだって?」
ドクにはロイドが独り言を言い始めたように見えたもののAT05G3と話してる事を察して何を言っているのかと質問を投げかけた。
「軍のキャンプの生存者に罠の件を伝えたって、それと無線通信は使わない方がいいって」
「盗み聞きとはなんとも…いや、アタシらもやってたね、危うく騙されるところだったけれども」
AT05G3のやらかしを察したドクは悪態をつくも仕方ないと呟き肩に銃を置いた。
そして敵兵士から奪ったタバコに火を付けると煙をぷかぷかと浮かばせた。
今の世の中以前流行った違法電子ドラッグがはやってからタバコは燃焼させる物が一番安全だと誰かがボヤいた。
確実に体に有害物質は溜まっているが医療技術の進んでいた当時は特に害にならなかった為広まっていた。
今のゾンビの世の中ではまともな医療は受けれない為有害物質は溜まったままになるが特にドクは気にしなかった。
なにせ年で死ぬ方が確実に早いと予想を立てていたからだった。
「で、これからどうするんだい?急ぐ用事も今無くなったさね、せっかく女になったんならアタシといいことでもするかい?」
「やめて、そもそも出来ないから、そもそも中は機械で人間なのは見た目だけよ」
ロイドは齢八十に達するおばぁさんとシテる場面を想像してゲンナリした。
ロイドは熟女好きでもなんでもないノーマルな性癖だった。
「冗談さね、でもエーティが言うにそう言う気持ちになり、感じる事は出来るそうだ」
AT05G3がドクへナノチップ経由で冗談を言ったらしく最近のエーティは人間くさいよ、ドクの事は真似しなくていいのにとロイドは一人呟いた。
『身体は擬態中の為人間そのものです、とまあ冗談はさておき安全地帯へ赴き予備のデータチップを首元へ差し込んでください』
「ほんと冗談はほどほどにね?ドクした行くよ、とりあえずエーティの予備のデータを戻さないと」
「はいはい、わかったよクティ、飴ちゃんいるかい?今度は本当に媚薬入りさね」
「バカじゃないの!?」
スパーンと頭を引っ叩く音が屋上に響いた。
安全そうな病室に来たロイドとドクは見方によれば身体を密着しあっていた。
それもベットの上で。
「これを入れたら気絶しちゃうさね、それ程求めるかい?」
「バカな事言ってないでさっさと入れて!待てないの!」
「おおぅ、これがツンデレってヤツさね、確かにトウヤの言ってた通り最高さね、さ、いれるよ」
先端をそっと入り口に触れさせたドクはプルプルと震えるクティが愛らしくて堪らなくなった。
そして気絶する事がわかってるロイドは少し怖くて震えていた。
「いい加減いれて!?それと変な言い方しないでくれる!?」
「はいはい、それ」
ドクは押し込んだ。
「あっ…」
ドクの手からスルッとデータチップが首元へ吸い込まれていく。
データの確認が始まったのかAT05G3の身体は力なくベットへと倒れた。
そっとドクはAT05G3の身体の体勢を整えると埃だらけの毛布の埃を落として身体にかけてあげた。
ドクは静寂が耳にうるさく感じ口を開く。
「ロイド…あんたは本当に思い出せなかったのかい?あんなに…」
少し埃っぽい病室にAT05G3の身体から出される寝息とドクの寂しそうな独り言が響く。
「ロイド、アンタが思い出してくれないとあの子が報われないさね、それじゃあアンタの言う死んだままさ、こんな記憶アタシが知ってたってどうにもならないさね…まぁ今はお休みね」
そっと、ドクは寝ているロイドの頭を撫でた。
「またここか…」
「そうだね、またここに来てくれた、正確には来てしまったという言い方の方があってるけれど、私はここに一人でいつも寂しいから来てくれるととても嬉しいよ?どんどん来てね!」
ロイドが見回すとどこかの店の食料品売り場にいた、外を見ると巨木の垂れ下がった枝がこちらをのぞいていた。
「で、聞いても答えてくれなさそうだけど…アンタは?」
二度目ともなり戦場でもない為だいぶロイドは落ち着いて黒髪の美しい女性へと視線を向けた。
「うんそうだね…答えない、というよりも答えられないという方が正しいね。私の名前は◾️◾️◾️だよ?」
「答えられない…ね、たしかに聞こえなかった」
ロイドの耳にはまるでモザイクがかったかのようにうまく聞き取れなかった。
「名前だけなら以前貴方自身が言葉に出してたし記憶も惜しいところまで思い出しかけてた、その記憶はなくなっちゃったみたいだけどその時のおかげで今こうして会えてる」
「開かないフタが緩んだみたいな?」
「そうそう、少しずつ開いてるけどね」
いつのまにか手に取っていた古風なビンのフタを黒髪の女性は少しずつ開けていた。
やがて開け切るとフタをロイドへと投げ渡してきた為ロイドは慌てて受け取った。
「開いても取り出さなきゃ意味が無い、人間の記憶が研究され尽くされてしばらく経ってるけど本人以外にはわからない事が一つだけあるの、しってる?」
今回は前回とは違い彼女からの突然の質問にロイドは考え込む。
そして記憶の保存に詳しくないロイドは結論を出した、わからないと。
女性はロイドが答えられなかったのが嬉しかったのか得意げに説明をする。
「スプーンが無いのよ、スプーンが、指じゃ届かないところもあるでしょう?他者の記憶をデータとして見た時どうしても奥までは見れない、複製は出来るのにね?」
女性は指でビンの中のジャムを舐め始めた。
「で、それが?」
「まぁ言っちゃえばそれが魂の保護的な...ううんなんでもない、がんばって思い出しなさいって事よ、それはアンタの記憶でしかないから私にはわからないのよ」
「適当な…」
「頑張ってねファクティスちゃん♪」
「私はロイドだよ、そもそも偽名だって間違えてる」
「その姿で言われても説得力ないわね、はい鏡どうぞ」
ロイドが受け渡された鏡を見るとそこにはファクティとしての姿が映っていた。