不明なシティの軍と罠
金属と金属が擦れる小さな音が部屋に響いた。
音の発生源は配電室のメンテナンス用の床のハッチが開けられた音であった。
『最後にドクがいたのは3階だよね?』
『はい、階段は部屋を出て左です』
『おっけー』
そおっとドアを開けて外を覗き込み誰もいない事を確認したロイドは配電室を出ようとした瞬間ある事に気がついた。
かなり上の階かそれとも屋上だろうか、銃声が立て続けにロイドの耳へと届いてきたのだ。
『銃声は二人以上、種類はアサルトライフルと推測されます、ドクを襲っていた人物達である可能性が高いです』
ロイドは嫌な予感がした。
『なにかあったんだ!』
部屋を飛び出してなるべく音を立てないように心がけながら出せる限りのスピードで階段を駆け登る。
そして3階、ドクが銃を突きつけられていた階層を通り抜けようとしたとき3階のメインフロアから話し声が聞こえてきたためロイドは立ち止まった。
『エーティ』
『聴力を上げました』
AT05G3によって上がった聴力により会話が鮮明に聞こえるようになったロイドは身を物陰に隠して会話を聞く事に専念する。
「いい加減仲間の情報を吐け!ATシリーズがいたはずだろう!?そいつは今どうしてる!」
「知らないね…話すことなんてありゃしないよ!」
『ドクだ!まだ生きてる!』
懐かしいドクの声が聞こえてきたロイドは急いで物陰を伝い声の方へと近づいて行く。
物陰に隠れながら近づいて行くこと数分、見覚えのある老婆とどこかの兵士らしき人物を目で確認できた。
もう数メートルと言った所まで来たロイドはドクに自身の存在を気づかせる為に口元へと指を一本持っていき静かにと合図をした。
「っ!?…わかったわかった」
どうやらドクはロイドに気がついたようで目を丸くして驚いた。
「何がだ?」
「アンタの頭はイカれてるらしいって事さ、そんな情報なんて集めて…差し詰め他のシティ所属だろあんた」
「俺はマイヤーシティで生まれて育った!」
「いいや違うね、生物兵器の動作の確認に来たんじゃないか?バーンシティからさ」
「はっ!なんともまぁおめでたいやつだ、アレを信じたのか?ふははは、アレはなぁ、フェイク動画で愚かな奴らをはめる罠なんだっぐがっ…ごぽっ………」
ドクに気を取られていた人物をナイフで一撃で殺すとロイドは丁寧にナイフの血を拭き取る。
そしてナイフでドクを縛っていた手首と足首のロープを切るとドクは前のめりに倒れた為ロイドは慌てた。
「ドク!?」
倒れたドクが無事かと確認しようとドクの身体の向きを伏せた状態からひっくり返すと目の前に鈍い黒の銃身が突きつけられた。
「なんの目的でアタシを助けるってんだい?なぁ嬢ちゃん」
ロイドがスニークキルした敵の床に落ちた銃を倒れたと同時に拾ってドクはロイドへとその銃を突きつけていた。
「強いて言うなら共に会いに来たかな?」
ロイドが戯けた様子で返すとドクは顔を顰めた。
「アンタみたいな撫でればすぐ感じるようなティーンの少女の知り合いなんていないさね、目的を言いな」
「私はロイド「その名を語るな」」
ロイドは強く額へと銃口を突きつけられたのを感じた。
「エーテ「その名もだ!!何故知っている!」」
ドクのしわくちゃな顔のシワがさらに怒りにより深さを増した。
『ロイド、言い忘れていましたが貴方は今ファクティとしての姿になっています、信用されないのは最もな事でしょう、姿を元に戻しますか?』
『うん、お願い』
変更された姿をドクは見たのかドクの顔のシワが薄くなった。
「エーティ…?なのかい?」
銃口が額から少し離されたのをロイドは確認しホッと息を吐いた。
「そう…なんだけど…そうでも無いと言うかちょっとややこしい状況でね」
「アンタは誰だい、他のオートマトンかい?エーティとは言動がかけ離れすぎてるさね」
銃口が今度はグリグリと額にめり込み、額の人口皮膚が悲鳴を上げ始めた。
「ちっ、ちがうのよ!エーティだしロイドなの!中身がロイドなの!ニューラルリンクで身体を借りてるの!」
慌てて手を上にあげ害意がない事をアピールするものの銃口はさらにグリグリと額にめり込み続ける。
『ドクのナノチップに通信を入れます、しばらく耐えてください』
ロイドではどうにもならないと結論を出したAT05G3はドクのナノチップへと音声通信にて説明をする事にした。
それから数分経ったであろうか、銃口を突きつけられている状況だったロイドには数時間に感じたもののようやく銃口が額から離れた。
「ロイド、いやクティ久しぶりだね、アンタずいぶんと可愛くなっちゃって、飴ちゃんいるかい?媚薬入りの特別製さ」
「いらないよ!そんな危なさそうなの!それと信じてくれてありがとう」
ドクは銃を壁に立てかけロイドの頭をそっと撫でた。
ロイドは親しい仲間のドクに頭を撫でられるのはむず痒かったが少し気持ちよかった。
「なに、エーティの頼みさね、でロイドこれがいるんじゃないかい?」
頭を撫でられていたロイドは急に手渡された物を見た、飴ちゃんだった、先程の話が真実であれば多分媚薬入りの。
「飴ちゃんはいらない」
たとえ機械の身体だとしても媚薬なんてはいってる飴はなめたくなかった。
「飴ちゃんは確かに飴ちゃんだが中身があるさね割ってみな、それと媚薬は冗談だよ」
「割る?」
ロイドが飴の包装を取り、よく飴の表面を見ると割れ目がうっすらとあった。
その割れ目のとおりに割れるように細工されているようで早速割ってみたところ記録保持用のメモリが出てきた。
「これ何のデータ?」
「エーティの予備のメモリさね、首元に刺す場所がある…でも今は刺すんじゃないよ強制的に再起動が掛かっちまうからね」
まるで入れただけで果てる敏感な少女みたいだねぇとドクは呟いた。
いちいちたとえが卑猥なドクだった。
「変な事言わないで、なんか恥ずかしいから…てかコイツらなんなの?」
「あー…どっかのシティの兵士さね、多分バーンシティだと思ってたんだけどあてが外れたらしいね。
バーンシティの動画はフェイク…たしかそう言っていたさね」
「バーンシティの動画はフェイクね、ねぇドクその動画いま見れたりしない?」
最近似た情報を聞いた気がしたロイドは嫌な予感が止まらなかった。
「見れると思うけど?そいつが小型のディスプレイを持ってたはずだよ、腕に装着するタイプのさね、それに表示するよ」
ドクが兵士から取り外し画面横の差し込み口に記録保持用のメモリを差し込むと動画が再生された。
画面を覗き込むとそこには軍のキャンプで見たあのどこかの高層ビルから地上の様子を撮っている場面だった。
[下みろよ下!ヤベェ事になってるぞ!これ政府が言ってたバイオ兵器じゃねぇのか!]
[クソっ!しくじりやがったのかよ!]
[ピンポーン…ピンポーン…]
[あ?誰だこんな時間によ!クソっ…うぁぁぁあ!!!]
嫌な予感は見事に的中していた。
ロイドはグエス達が罠へと突き進んでいる事を思い知らされた。
「グエスに!罠だってグエスに伝えないと!」
慌てて階段へと向かおうとしたロイドをドクはロイドの服の襟首を掴む事で止めた。
「今すぐ行くより上の奴らから情報をぶんどってからの方がいいさね、すぐに向かったわけじゃないんだろう?」
「うん…」
それもそうだと、自身に言い聞かせたロイドはグエス達の無事を祈りながら上への階段を登り始めた。