医療センター
『で、仲間に再開出来るあてはいったいなんなんですか?』
「いや…ついてからのお楽しみかな、それよりもこのもらったプレゼントとやらを開けてみようよ」
手のひらで転がしていた小包の包装をビリビリと破るとずいぶん頑丈そうな箱が出てきた。
「なんだろう、まさか指輪とかじゃないよね?だったら嫌なんだけど」
そう言いながらロイドは側面のボタンを押し箱を開く。
プシュっという空気の抜ける音と共に現れたのは白い球だった。
「なにこれ?」
ロイドはその球を目の前まで持ってきて裏表と眺めるうちにそれの正体に気がついた。
「これ…義眼?」
『そのようですね、頭脳のチップと連動して視界を確保可能のようですこの身体でも使えますよ』
「こんな物グエスはよく手に入れたね、たしかこれ生産数かなり少なかったと思うけど」
『軍の医療品に紛れていたんじゃないですか?あ、箱にメッセージカードが入ってるみたいですよ』
「どれどれ…えーと」
【驚いたか?俺からのプレゼントだ、本当はその義眼は知り合いにあげる予定で買ったんだがな、既に死んじまってるから気にせず使ってくれ。
それとその義眼うちの隊員の暇潰しのせいでかなり魔改造されてる。
もちろん安心安全な物だから警戒しないでくれ、効果は頭脳のなのチップ経由での視界の確保はもちろん五〇メートルまでなら眼球を自由自在に動かして情報を得られる。
速度は毎時二〇キロ程出せるが地面が荒れていると十キロ程に落ちる。
録画機能もあって録画する時や再生する時はナノチップ経由で念じれば操作できる筈だ。
いわゆる眼球型偵察デバイスとしても使えるという訳だ、是非有効活用してくれ。
また会えたらいいがかなり難しいだろう、ずっと室内だったせいか隊員が外へと冒険をしたいと騒がしくてかまわん、近い内に聞いたルートを通りこの騒ぎの外因でありそうなバーンシティに向かう事になる。
幸運を祈っているぞ。
グエスより】
「つまりコレはかなり便利な物だと」
『軍独自の秘匿されてた機能が詰め込まれた技術の結晶とも言えるものです、かなり便利ではなくものすごい便利ですね』
「一体誰がこんな物を暇つぶしで…よっぽど暇だったんでしょうか」
軍のキャンプにて最後にロイドに告白していた一番若い隊員がクシャミをした。
「エーティ、これの接続お願い」
『はいはい、わかりましたよ、もしかして一人で目薬とかさせないタイプでしたか?義眼の接続は一時的に痛みを伴いますしね…』
「ちがっ!ナノチップと違って電子頭脳だと繋げ方がわからないだけだよ!」
心外だとばかりに慌ててロイドはAT05G3の発言を否定した。
『そうですね、冗談を言っただけです』
「最近のエーティは前より人間臭いよ、まるでお母さんみたいでやんなっちゃう」
『立場が逆転したみたいですね、昔はロイドの事を父親のように感じていたのに今では世話のかかる娘のようです』
かつて色々と教えてもらったロイドを思い出してAT05G3は過去を懐かしんだ。
「なにそれ、私から大人の威厳が消えたとでも?」
『えぇ、まるで小娘のようです』
「おこった!私おこったよ!」
ロイドは憂さ晴らしをするかのように道端に落ちていた泥を被った空き缶を蹴り上げた。
ドムっと鈍い音が鳴った。
道の端の泥溜まりに落下した音だった。
『いくら変わってもロイドはロイドのままですよ』
「なにそれ?」
『最近ではそう考えるようになってきたんですよ?大切なロイドは変わってしまっても大切なロイドであるって事をです』
AT05G3は心の中でたとえコピー品だとしてもロイドはロイドなんだと呟いた。
「急に下手な詩人みたいな変に人間臭い発言しちゃって、正直言って聞いてて恥ずかしいよ?」
『割とロイドも似たような発言を最近してたような気もしますね、それについてはいかがですか?』
たしかに数日前人の記憶から消えた時が本当の死だと言ったことをロイドは思い出し羞恥に身を染めた。
たしかにくさいセリフだった、振るったナイフが空振ってしまう程だった。
「で、それはいいとしてなんかゾンビが増えてきたきがするのは気のせいじゃないよね」
一応ナイフでサクサクとゾンビの眼から脳を破壊しつつも歩む速度はなかなか落ちない。
『この辺はハイウェイがありますからね、そこから溢れたゾンビ達でしょうか』
「へぇ、ハイウェイの柱の少し先に目的地があるんだけど人間がたどり着けなさそうなゾンビ量だなぁ…」
しばらくめげずに進んでいたロイドだったがハイウェイの高架下に着いたところでこれ以上進むのは無理がある事を悟った。
目的地であった医療センターは大量のゾンビに囲まれていた。
医療センターの方からここまで若干だが届いている放送を聞くに外付けのスピーカーがどうやら起動しているらしい。
『聴力を上げます』
「ありがと」
[こちら24ブロック医療センターです、ただ今原因不明の病が急速に広まっています、咬み傷、引っ掻き傷、またはそのほかの暴徒からの外傷を受けた方は第一ゲートへお集まりください…繰り返します、こちら第24ブロック医療センターです、ただ今原因不明の…]
『これは…感染初期に流れていた放送ですね』
「だね、以前下見に来た時は流れてなくてゾンビも少なくて医療物資も少し回収出来たんだけど…誰かがやらかしたみたいね」
以前来た時は医療系の建物だった為非常用電源は残っていた。
放送も止まっていたのを確認したしうっかり放送のスイッチを押さない限りは流れないはずだった。
『ワイズエッジホテルの仲間か、それとも他のコミュニティの人のどちらかが放送の電源を入れたのは間違いないでしょう、だとしても放送を入れる理由は…?』
「あそこは食料もたっぷり地下にあったはず、館内のゾンビを掃討出来れば申し分のないシェルターとなり得そうだしね、もしかしたら放送もゾンビを集めて人間の侵入を困難にするためかもしれない」
考えうる可能性で一番高いのはロイドの言った侵入を遮る目的だった。
その事を声に出して再確認したロイドはメインアームであるSMGE35を構えセレクターをフルオートへと変更した。
「久しぶりの対人間の銃撃戦になりそうだよ、嫌だなぁ」
ロイドの嫌そうな呟きが風にのって消えていった。