別れと旅立ち
シティからの脱出の為にゾンビ蔓延るシティを横断しなければいけないとわかってからその日はとりあえず夜遅かった為少しの約束を交わしお開きになった。
ロイドは割り当てられた部屋でぐっすりとスリープモードにて眠った。
そして朝の約束していた時間三十分前ちょうどにロイドは起き軽く食事を取り武器庫のそばの射撃訓練部屋に来ていた。
「で、クティはやっぱり一緒に来てくれは…しなさそうね、わかってるわよ」
「やっとあきらめてくれた」
「根負けしたわ、もう少し粘ればよかったかしら?」
「やめてよ、そろそろ聞き飽きてきたんだから」
アリーはロイドの拳銃のメンテナンスをしていた。
昨日ロイドがアリーと寝る前に話していた時アリーが古い銃に詳しい事を知りアリーに愛銃のメンテナンスを頼んでいたのだ。
クティを未練がましく誘おうとしていたアリーはクティが一向に首を縦に振らない為ようやく諦めたようだった。
朝からロイドはこの誘いを10回以上は聞かされていた為ようやくかとホッと息を吐いた。
「ここの人達には感謝もしているし信頼してる、でもそれは今だけでこれからどうなるかわからないもの、世界はすぐにでも人を変えてしまう世の中になっちゃったんだから」
感染初期の頃昨日まで仲間だと思っていた奴らが裏切っていくのをロイドは何度も体験していた。
外因は些細な事だ、食料の取り分で不満が出ただのただの口喧嘩だのリーダーは誰だの、果ては元々裏切るために仲良くしていたなんてこともある。
彼ら治安維持軍といえど長く関わるのはワイズエッジホテルの仲間と出会う為に遠回りする事になるうえ危険もその分増える。
「また会えるといいね」
「うん…」
合理的なロイドの思考はそう言っていても心の底でこんな世界でできた新しい知り合い達ともう少し、もう少しだけ一緒に過ごしたいと思っていた。
「はい!これで新品同様の性能を引き出せるよ!」
アリーから差し出された古い実弾の拳銃をロイドは少しじっと眺めた後受け取った。
心なしかスライドに刻印された女性も輝いているように見えた。
ロイドは受け取った銃の握りを確かめながら15メートル離れた的へと照準を合わせる。
90年以上も前の骨董品、ねぇ…とアリーが呟いた。
そして一発の銃声が部屋に響いた。
「思いっきり外れてるよ?」
アリーは自信満々に銃を構えたクティが大きく的を外した事につい突っ込んでしまった。
「いえ…」
続いて三発の銃声が響くと人形の的の頭と心臓、そして右膝の位置を銃弾が貫いたのか穴が空いた。
アリーは目の前で起きた事が信じられなかったのか自身の頬をつねっていた。
「もう一回…」
更に三発の銃声が響くと先程空いたそれぞれの穴を銃弾が突き抜けていった。
「うそ…夢じゃないわよね!ねぇ!すごいわクティ!」
アリーはロイドの銃の腕前に驚愕した後まるで自分の事のように嬉しそうにはしゃぎ始めた。
最初の一発はメンテナンスした事による感覚のズレにより外したが二発目以降はロイドは勘を掴んでいた。
そして頭、心臓、右膝の最初の三発はロイドが狙ったが次の三発はAT05G3の補助アリでの射撃だった。
寸分違わず当てるとなるといかにロイドといえど不可能だった為AT05G3に細かな動作を頼んでたみたのだ。
「愛銃だからこそ当てられるんですよ、他の銃じゃ無理です」
『何が愛銃ですか、私の補助が無ければ不可能だったでしょうに、拗ねますよ?』
『ごめんごめん!エーティの事言うわけにもいかなくてさ…』
『それにしてはやけにその拳銃の存在を見せびらかしたそうな雰囲気が伝わってきますけど?』
『そ、そんな事ないよ?無いからね?』
「ふゅひゅーひゅー…」
図星を指されてロイドの焦りがAT05G3に伝わったのか冷たい空気感がAT05G3から帰ってきてなりもしない口笛をロイドは吹き始めた。
「どうしたの急に変な音出して」
以前の身体なら流暢な音色を奏でられていた筈だ!とロイドはかつての身体が少し恋しくなった。
「な、なんでもないです!」
そんな急遽口笛もどきを吹き始めたロイドを見たアリーは心配そうにロイドの顔を覗き込んできた。
『エーティのせいだ!私が変な子扱いされてる!』
『いいえ、ロイドのせいですね』
『なにおう!』
「ほ、ほんとに大丈夫?疲れてたりしない?」
変な音に続き急に黙り込み少し険しい表情をし始めたのでアリーは医務室行く?とまで言い出す始末だった。
拳銃のメンテナンスから数時間後、ロイド達はのんびりと食堂でおしゃべりをしていた。
それからロイドはグエスと話し、ここを出ていく事を伝えた。
「もうここを出ていくのは確定か…ならちょっと待ってろ」
「あ、俺も手伝うっすよ」
「私は変えの服装を探してくるわ」
そう言いグエス達は部屋を出ていったのを見届けたロイドは今こそはと行動を開始した。
ロイドは乾パンを出来るだけ口に詰め込みまくり始めた。
更にグエス達が去り誰もいない事で身体のメンテナンスハッチを開き身体の隙間に最後だからと出されたクッキーを詰め込んだりとかなりやりたい放題だった。
ロイドはクッキーをネコババする事で必死だった為クッキーを割らずに行動しようとすると今現在低出力のバッテリーの出力を更に下げなければいけない程に身体能力は落ちることに気がつかなかった。
例えるなら元気な動ける身軽な少女から少し不健康な運動音痴な少女へと身体能力が下がった感じだ。
その数分後、グエスがそこそこの大きさのリュックを持って食堂に入ってきた為慌ててメンテナンスハッチを閉じた。
「相変わらずリスみたいだな、それと荷物こんなんでいいかな、とりあえず一ヶ月分の携帯食料と水濾過装置に拳銃の弾薬、それと予備のバッテリーが詰まってる」
口に精一杯クッキーを頬張ったロイドを見てグエスは心底呆れていた。
それから半日後、各々に別れを済ませ荷物を揃えたロイドは重厚な二重ドアの前に立っていた。
目の前のドアを開ければ外はゾンビの世界だ。
乾パン食べ放題だった食堂をロイドは思い出し少し躊躇ったものの出送りに来てくれた隊員達を視界に入れ決意を固めた。
「本当に出ていくのね…」
アリーが寂しそうに呟いたのをロイドは聞き逃さなかったが元々決めていた事だと、自身に言い聞かせる。
「物資ありがと、たすかるよ」
グエスのみならず使えそうな物を隊員に分けてもらったロイドは彼らにお礼を再度伝えた。
「あぁそれとこれは俺からの個人的な贈り物なんだが…」
そう言いながらグエスが渡してきた包みをロイドは受け取った。
大きさは手のひらで転がせるほどで、正方形の箱だった。
「開けても?」
「いや、ここを出てからにしてくれ、一応サプライズ的なものでな」
「そっか、わかった」
ロイドは手のひらでその包みを転がし、リュックを背負った。
「これから外壁を目指す事に結局したの?」
「あぁ、昨夜遅くまで話し合った結果そうなった」
「生存者には気をつけてね」
「言われなくともゾンビ共より注意するさ」
「じゃあ」
「またな!」「生きてまた会おうぜ!」「今度またあえたら付き合ってください!」
一枚目の扉を開けて狭いドアしかない部屋に入り閉めると備え付けのドアの丸い窓から隊員達が手を振っているのが見えた。
『最後の若い隊員の方プロポーズしてきてましたね』
『なんだっけ、死亡フラグって言うんだっけ?』
『らしいですね』
隊員達にもう一度手を振りロイドは外に続く二枚目のドアを開け外へと踏み出した。
ロイドの頬に久しぶりのどこか腐肉の臭いにおいが混ざったどんよりとした風が吹いた。
ちゃんとロックがかかったのをロイドは確認し、伸びをした。
「楽しかったよ、割と」
『よかったですね、ところで仲間の場所に心当たりはあるんですか?』
「まぁ一応」
二人はのんびりと話しながら軍のキャンプを出て次の目的地へと進路を向けるのであった。