取り残された常識
「そんな事で私気を失ったんですか…」
グエスから銃を突きつけられ気を失ったと聞きロイドは自身に呆れため息をついた。
割とロイドからしたらピンチでも気を失うほどの事でも無いと今でも思っているがどうやらメンタルまで少女化してるんじゃ無いのかと怪しみ始めた。
それはまずいと、そんなんじゃ今後仲間を見つけるどころじゃないと、ロイドの額には冷たい汗が流れた気がした。
『次があれば私が一時的に身体を動かしますよ、安心してください』
『エーティありがと…』
すかさず入ったAT05G3からの助け舟にこれで解決だと自己解決しながらロイドは顔が緩んだ。
「気にしてませんから、もう大丈夫ですよ、それよりお腹すきました!」
その上機嫌のままドゲザしっぱなしのグエスに許しを与えるとベットから飛び出して食堂へと駆けていった。
AT05G3がロイドの意識を失わせるようスリープモードへと操作していたし、記憶の一部改竄も行なっている。
完全なるマッチポンプだった。
所変わって食堂、夕飯時にはまだ早く軽い軽食を出されたロイドは口いっぱいに乾パンを頬張っていた。
「ほうでふ、おおもあからっえゆあんうるのは…ゴクン…ダメなんですよ」
「なんて?」
子供だからって油断するのはダメだとロイドは集まった彼らに伝えようとしていたものの頬張った乾パンによりうまく伝わらなかった。
「子供も信用しちゃダメなんですよ、割と殺されかけますよ?こんな感じに」
ロイドはテーブルの上にあったペンを隊員の1人の目に突き付ける寸前で止まっていた。
「こわっ!今時の子供こわ!」
突き付けられた隊員が慌てて顔を後ろに下げるのを見るとロイドはペンを元の位置に戻した。
「なるほどね…つまりクティちゃんを助ける時もかなり危険な綱渡りをしてたのね…」
「そうですね、罠の可能性も考えず善意だけで人を助けようとしてたら近い未来ここは壊滅します…モグモグ…」
「それは流石に勘弁してくれ、他に気をつけた方がいい事なんてあるか?」
「まあ…あにおほもうはがうほがいちはんでふ」
「なるほどな助かるよ、俺らにはどうもこの変わっちまった世の中に疎くてな、生き抜いてきた嬢ちゃんの知識はたすかる」
「おおいはひへ」
ロイドは最後まで口の中に食べ物を詰め込み続けていた。
そんなロイドを見て隊員達は呆れた顔をした。
「そういえば、珍しいもんがあるんだが見ていくか?今の話のお礼って所だ」
「見る?なにを?」
「映像通信だよ、運良く傍受できたんだ」
そう言った隊員はタブレットを取り出し操作し始めた。
準備ができたのか画面をタップした隊員はロイドに画面を向けた。
ロイドが画面を覗き込むとそこにはどこかの高層ビルから地上の様子を撮っている場面だった。
[下みろよ下!ヤベェ事になってるぞ!これ政府が言ってたバイオ兵器じゃねぇのか!]
[クソっ!しくじりやがったのかよ!]
[ピンポーン…ピンポーン…]
[あ?誰だこんな時間によ!クソっ…うぁぁぁあ!!!]
「これ…マイヤーシティの軍がこの騒ぎに関与してたって事?」
「いや、違う」
『ロイド、この動画の窓からの景色はここマイヤーシティにはありません他のシティの物と思われます』
「これは二つ隣のバーンシティの通信を傍受して手に入れた映像だよ、それもここで騒ぎが起きる数週間前のものだ」
それが指す答えはバーンシティの軍がこの騒ぎに高確率で関与していた事だった。
毒を作るときは薬も同時に作るものなのである、彼らはそれを目当てにしているのかとロイドは予測した。
「へぇ、で、これを見せて私に何を期待しているの?」
人は皆打算ありきでしか他人には有用な情報を与えない、先程ロイドが彼らに教えたこの世界の常識だ。
「この騒ぎを収めるためにバーンシティまでの間知識を貸してもらいたくてな、ダメか?」
「こんな片腕片目のいたいけな傷だらけな少女になにを期待してるのか、そもそもそんな知識は無いし私には私のやる事があるからついていくのは無理」
「仲間を探す、か」
「そう、それにシティ間の荒野の移動なんて無謀すぎるよ、そもそもシティから出ることすら難しいんじゃないかな?」
シティの外は何もない荒れ果てた荒野が広がっていて、あるのは過去の戦争の遺物のみだ、物資の補給無しで渡り切るのは無理がすぎる。
それにロイドはシティから出ることが困難な事も知っていた、彼らは知らなかったようだが。
「どういう事だ?」
「シティの内壁付近って古い構造物が多くてスラム化してるのは知ってるよね」
「あぁ、だがそれが…」
「もしかして大量にいるのか、アイツらが」
いつのまにかグエスがおやつタイムのテーブルに参加して乾パンを頬張っていた。
「グエス食べないでそれ私の、で、そうそう大群になってたの、半年前他のシティに逃げようと計画したけど数千万からなる大群がいて断念したのよ」
「考える事は同じってか…まさにこの世の地獄なんだろうな」
詰みの状況に隊員達の気は地下まで落ちた。
そんな隊員を見たロイドはおずおずと、解決策を話す。
「まぁ、出られる方法はまだ一応残ってるんだけど…それもかなり危険、古い整備用通路があってそこからなら出られるはず」
「外壁の古い通路か?そんなの聞いた事ないが…」
ロイドはしまったとかなりグレーな発言をした事を悟った。
その情報は外輪部隊のさらに一部にしか知られていない秘匿された情報だった。
「あの…その…仲間に教えてもらった!元外輪部隊に所属してた仲間に!」
「へぇ、それは信用出来る情報なのか?」
「うん!信用出来る!すごく信用できる!」
自らがよく使っていた道なのだ、信用は完璧だ。
ロイドは割とその通路を頻繁に使っていた。
外壁待機の任務の最中にそこを通ってシティに入り食べ物を買いに行っていた。
支給品の食料は死ぬ程不味かったのだ。
休憩時間に私服を戦闘服の上に着てダッシュでその通路を走り抜け出口近くの格安マーケットに買いに行くのが半ば日課になっていた。
「場所は東エリアの第43ブロックのマケマーケットって言う店の裏手、今時珍しい人口じゃない天然の巨木が生えてる場所の側」
場所を聞いた隊員はタブレットでシティの衛星写真から探し始めた。
しばらく隊員達でここじゃない、ここだ、と地図と照らし合わせていたがどうやら見つかったようで画面をロイドに向けてきた。
「ここか?エリア一体が上空からの衛星画像だと巨木のせいでわからないが…」
「えぇっと…地図も見せて……うーん…」
『ロイドの想像する座標はここで間違いないようですよ、私が保証します』
悩むロイドにすかさずAT05G3がロイドが考えるイメージを読み取り保存されているシティの地図と照らし合わせた。
『エーティありがと』
『いえ、これくらいおやすいごようですよ』
「ここであってる!」
AT05G3からの助言により確証を持てたロイドはすかさず隊員達にその事を伝える。
しかし隊員達の顔には微妙な表情が浮かんでいた。
「あー…ここ以外には知らないよな…」
「うん…」
それは今いる場所が西エリアの第26ブロックであり、目標の脱出地点までゾンビ蔓延るマイヤーシティをほぼ端っこから端っこまで横断しなければいけない為だった。
距離にして、およそ600キロの長い長い旅路になりそうであった。
備考
ロイド達のいるマイヤーシティは半球型の移動要塞都市です。
半径300メートルからなる巨大な広さを誇るマイヤーシティのような移動都市が他にも複数存在していてそれぞれ最低でも5000キロメートル離れた位置に存在しています。
シティ同士でかつて数十年前資源を巡って大規模な戦国時代のような状況が続いていましたが今は表上は和平しています。
それぞれシティの間には一部を除き緑の存在しない汚染された荒野が広がっており、一部では死の荒野と呼ばれています。