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要らない勘違い


 ロイドは、目の前に突き付けられた銃口をじっと数十秒ほど、色々な感情が混ざり合った目で見ていた。


 自身がロイドであると、その銃の持ち主だと言ったとして鼻で笑われるだけだ。


 今の姿はロイドの肉体とはかけ離れ過ぎている。


 オートマトンだとバラすのも得策だとは思えなかった、これで俺らを護衛して欲しいという話に繋がれば馬車馬の様に指示に動かされる可能性もあるのだ。

 仲間との合流を目的としているロイド達には選べない選択肢だった。


 どうやって誤解を解こうか、それともロイドは死んだ事にしてしまおうかとロイドは考える。




 グエスにあっさりとその銃を渡したのだって確かに大切なモノだがグエスという信頼出来る人物だとロイドが結論づけたからだ。


 それにロイドは世界が変わってしまってから大切な友を亡くすことが増えた為その銃に対する思い入れも少しだが減っていた。


 あれだけこの突き付けられている拳銃に執着していたのがまるで嘘のようだと疑問を思ったロイドはふと気がついた。

 

 執着していた理由がまるで虫に食われた本のように思い出せなかった。


 全て思い出せない訳ではなくぼんやりと大切な友に渡されたことは覚えている。



 あの拳銃はロイドが20の頃に何かとても印象的な事が、それこそロイドという人格が変わってしまった程の出来事があったはずなのだ。


 「だれだっけ…あれ?誰だったのかな…大切な人から貰ったのに…あれ…」


 『ロイド…?ロイドそれ以上はいけません!電子頭脳に異常な程のエラーが次々と起き始めています!』


 目の前の拳銃なんてモノはもうロイドには見えていなかった。


 『ロイド!』


 「誰だ…誰だ…」


 焦点の合ってない目でぶつぶつとロイドは誰だと、誰を忘れたんだと呟き続けるロイドを見てグエスは怯んだ。


 「誰だ…だレだ…ワタしが忘れたのはダレだ…誰なんだ…エーティ…エーティ…ねぇエーティ…教えてよ…ねぇ…オシエテオシエテオシエッ………」


 ロイドの精神が耐えられないと判断したAT05G3はロイドの記憶保持の為急遽スリープモードへと緊急変更させた。


 「お、おい?…っ!?」


 まるで取り憑かれたかの様に発狂した後ファクティと名乗った少女が急に倒れてきた為慌てて銃を放り投げグエスは受け止めた。


 「おい!しっかりしろ!お前にはこの銃の出所を聞かなきゃなんねぇんだ!おい!」


 グエスは口元へ耳を持っていき息をしている事を確認すると床に落としていたロイドの拳銃を自身のベルトに挟み少女を抱えて部屋を飛び出した。


 部屋を飛び出したグエスは頭に装着するタイプの無線を使い仲間に声を届けた。


 『緊急事態だ!少しでも医療知識のあるヤツは全速力で医務室に急行してくれ!少女が倒れた!』


 








 「おそらくですが何か多大なストレスにより倒れた様です、命には別状はなさそうですね」


 「よかった…」


 グエスはホッと一息をついた。


 「一体何があったの!なんで倒れたのさ!」


 医務室にグエスが着き、備え付けのベットに少女を寝かせ診察が終わり無事が分かるとアリーが詰め寄ってきた。

 他の集まった隊員は遠巻きにグエスとグエスが連れてきた少女を心配そうに眺めていた。


 「いや…それが…」


 「なに!?やましい事でもしたの?最低ね!」


 どう説明しようかと悩み口籠もったグエスの事をアリーはグエスが何かやましい事をしたのではと勘違いした。


 「いや違う!多分だが…コレが外因だと思う…」


  そんな事はして無いと慌ててロイドの愛銃を取り出したグエスの手元に部屋にいる人達の視線が集中した。


 「ずいぶん古い銃ね、クティのかしら、設計されたのはもう90年程前だったはずよ、で、コレを彼女に突き付けて脅したとか?」


 「あ…いや…そうだと言えばそうなんだが…」


 「は?」


 グエスはアリーから放たれた殺気により医務室の温度が下がった気がした。


 「違う!確かに脅しもしたが銃そのモノには怯えていなかったからな!」


 ファクティという少女は数秒銃口を向けられていても何の反応も示さなかった。

 あれはどうとでもなると思っている目だった。


 「へぇ、こんな可愛い傷だらけの少女から銃を奪い脅し、呆然としている少女に何をしよ「まってくれ、その銃見せてくれないか?」…なに?」


 「これ…もしかしてアイツのか?」


 隊員の1人が何か思い出した様でアニーの言葉を遮りグエスに確認をとった。

 その隊員はロイドとグエスと同じ共に戦闘したことのあるヤツだった。


 「あぁ、ロイドのだ、俺らの隊長ロイドのモンだよ」


 「それでコイツを奪い突き付けたと」


 「奪ってねぇよ!最初は懐かしい銃だなと思ってホルスターから覗くこの銃を見てたんだ、試しに貸してもらったらまんまロイドの銃でついカッとなって…」


 グエスは自分も怒りに身を任せ過ぎたと、反省し肩を落とした、もっとスマートなやり方もあったはずだと。


 そんな肩を落としたグエスに隊員の何人かが俺だってそうしていたさ、と慰めていた。


 「ね、ねぇ、そのロイドって誰なのよ?そもそも隊長ってグエスじゃないの?」


 急に知らない人の話で盛り上がり始めたグエス達に


 「あー…アリーはパニック前は民間軍事会社だったんだったか、しらねぇのも無理はねぇよ」

 

 アリーしかり、何気に今のこの治安維持軍第三部隊は生き残った隊員と民間人が混ざり合い構成されていた為ロイドの事を知らないものも多かった。


 「頼りになる俺達の隊長さ、拳銃一丁でパワードスーツを着た敵に決定打を与えたりする永遠の憧れの隊員だ、パニック前に部隊からは抜けてて…今はどうしてるかわかんねぇ」


 「これは…その人が大事にしていた銃なのね…でも少女に拳銃を向けるのは怯えていなかったとしてもあんまりいい事でもないわ」


 「わかってる…」


 グエスは手元の拳銃のスライドに彫られた女性の横顔と擦れて読めなくなってしまった文字をそっと指先で触れた。

 死ぬまで手元に置く、死んでも手元に置くと言っていたロイドだ、それがここにある以上ロイドはもう生きている可能性は低いだろうと寂しさが溢れてきた。


 そんなグエスを見てパニック前から第三部隊だった者に加え新しくパニック後に入隊した者までグエスの寂しさが伝わり事情を察した。

 


 「ところで、拳銃に怯えていなかったとしたら一体何が外因で多大なストレスに?グエスは何か知らないのか?」

 

 しんみりとした空気をどうにかしようと話題を振った隊員にグエスはファクティが気絶する前に言っていた言葉を思い出した。


 「そう言えばこの銃を見て、大切な人から貰ったと、その人の事を思い出そうとして無理してまるで壊れた機械みたく同じ事を…誰だって、誰を忘れたんだ!って」


 「それってロイドに何かあって貰ったけど何か精神的負荷がかかってロイドの事を忘れたって考えるのが…一番しっくりくるけど…」


 アリーの立てた仮説がグエスには妙にしっくりと来た。

 だとしたらなんて事をロイドの親しかったと思われる少女にしてしまったんだと。


 起きたら、いの一番にこの拳銃は返し謝ろうと決意した。


 ロイドの事に関しては少女は辛い思いをして別れたと予想できるのだ。

 それこそ忘れてしまいたいと願うくらいには。

 


 その後無理に思い出そうとし、また倒れてしまわない様にロイドの話題はなるべく少女から聞かれない限りはこちらからは降らない様にしようと隊員達と話し、決めた。

 


 その日グエスはファクティが目が覚めるまでずっとベットの側の椅子に腰掛け気絶するように眠る姿を眺めていた。

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