再起動
この小説は不定期更新です。
この小説は作者の書きたい話を書いてるだけの私小説です。
ソレは気がついたら風の吹き荒れるビルの中階層から外の荒れた景色を見ていた。
今いるビルも外の荒れた景色と同様に荒れていて床や壁には黒いシミがあり窓ガラスなんてものは足元に粉々になって散らばっている。
さらに詳しくソレが辺りを見回せば弾痕や争った跡や腐敗してからかなりの時間が経ったかと思われる原型を留めていない人の死体があった。
「が…ガガ…しんこ…な…エラーが発生しています、自立思考回路にしん……ガガ…ラーが発生しています」
風化具合はソレも同じで左腕と右目が欠損していた。
見目麗しい少女のような身体には人工皮膚の至る所は避け埃に塗れていた。
特に右目の欠損は、頭部のかなり奥まで続いていて先程のエラー報告はこれが原因だと物語っていた。
「付近の…ガガ…者は…へといあわせくだ…ガガ…緊急の場合は神経接…ガガガガ…」
ソレはいわゆる戦闘用人形だった、この世界からかなりの数の人間が減りほぼ絶滅しかける前から治安維持や危険条件下での任務をこなす人類の砦だった。
しかし未知のウィルスか、それともなにか摩訶不思議な超常現象か…外因はさなかではないが死んだ人が他の生きている人を襲い始める現象が世界各地で起こり人類の総数は激減した。
人類は既に全員が感染していて、身体が生命活動を停止したり身体に歩く死体となった者の一部が取り込まれてしまうとまたその人も一定時間後に歩く死体の仲間入りしてしまう。
サブカルチャーに詳しい人がゾンビだ!ゾンビが現れた!と言い回った為歩く死体となってしまった人々はゾンビと呼ばれるようになった。
ソレの正式名称はオートマトン05型地上第3世代、型番にしてAT05G3。ワイズエッジホテルにて数少ない生き残りの人を守護していたオートマトンだった。
生き残りの人々からはAT05G3は生きていくための道であり友であったしAT05G3の擬似人格プログラムも人々に生きていて欲しいと思っていた。
この異常事態が起きてからすぐAT05G3の通信プログラムは外部からの衝撃によりエラーを吐き続けていた。送信は出来るものの受信は出来ず、他のオートマトンがどうなっているのかなんてものは把握できずにいた。
孤立したAT05G3はワイズエッジホテルの安全な階層に生き残りの人々と共にセーフハウスを作り、ログからするに役一ヶ月ほど前にセーフハウスは押し寄せた他の生き残りの連れてきた死者の大群に蹂躙された。
「システム再構築…システム再構築…ガガ...システム再構築完了、一部データは修復出来ませんでした、再起動します...ガガ…クリス…ガガ...エイミー…ジェイク…いませんか?クーパーにロイド、トウヤにドク…そしてマイア…貴方達は私の大切な人達だとログに記されています」
そこまでをログで確認したAT05G3はログにある名前を、大切な名前を呼んでは返事が無く落ち込むという動作を繰り返す。
46名の名前を言った後散らばっている元大切な人達を軋む身体に鞭を打ち確認し全ての死体があるわけではないことに安堵を覚えた所でタダでさえ途中からなくなっていた左腕が根本からガシャンと音をたてて落ちた。
そしてAT05G3は自身の腕のみならずバッテリーが壊れかけ、残量もほぼ僅かで補給する事ももう出来ない事をその時悟った。
長くて1時間程だろうと予想をつけたAT05G3は最後に一度自身のバッテリーが破損している事や左腕がない事、その為これ以上任務を遂行できないことを文章化した。
そしてそのデータと現在所在地のデータを共にATシリーズと生きている可能性の少しでもある大切だった人々のデバイスに送信した。
擬似人格プログラムによる自立思考回路はほとんど人間と変わらない。
違いがあるとすれば記憶の保持はジャンル分けされておりさらに詳しくいつからいつまでの記憶、と検索することもできる。
ジャンル分けされたうちの楽しかった事ファイルには他の感情フォルダが霞むような程の圧倒的な情報量だった。
だからこそ失われてしまった大切な仲間達の事を考えると悲しさが電子頭脳の中で渦巻き、同時に感情が身体に影響を及ぼし四肢の動力が僅かに下がった。
誰を助けた、誰に出会ったか、誰と過ごしたかを電子頭脳だからこそ鮮明に覚えている分悲しみの強さもより強かったのが余計に辛さを感じさせる。
「みなさん…私は…私はどうすれば…いえ、どんな時も前向きに自分がやれる事をやる、でしたね」
やれる事を、残された時間を無駄にしてはいけないと仲間が言っていた事を思い出しAT05G3は決意を固めた。
そしてAT05G3は今出来る最善の行動を取る為エラーを一部吐き続けている電子頭脳を働かせた。
いくら人間と違い補給無しで長く活動出来るとはいえメンテナンスが無くボロボロな今の状況ではバッテリーを交換したとしてもエラーだらけのこの身体では長くない。
もしまた人類に出会えるのならば、その時の為にバッテリー残量保持の為壁際まで行きスタンバイモードに移行し来訪を待とうとしたまさにその時、閉まった鋼鉄製の歪んだドアがノックされる音が響いた。
「エーティ…いるのか?エーティ…」
そして隙間から聞こえる懐かしさを感じる声にAT05G3はスタンバイモードへの移行を停止させた。
「私はAT05G3、記憶を一部失ってしまっています、予備メモリはお持ちでしょうかロイド」
「エーティ!メモリ…メモリってあれか?ドクが回収していたやつか…?」
ロイドは元軍人の頼れるリーダーとしてセーフハウスでは頼られている存在だった。
元軍人だった時は軍属のAT05G3からすれば上官として色々な事を教えてもらったとログに記録されているのを確認する。
そしてAT05G3が生産され配備された時から世話になっているロイドにはまるで親のように慕っていたのを電子頭脳が動き当時を鮮明に思い出しAT05G3は笑顔を顔に浮かべた。
「そちらへ行く為ドアをこじ開けます、ドアから離れてください」
「ダメだ…」
だからこそ覚悟を決めたような、とてもいつもとは違って弱々しい声音をロイドが出して、なおかつAT05G3の事を拒絶した事にAT05G3はショックを受けた。
「なぜ?」
「なんでもだ…」
「理解不能、私が合流した場合ロイドの生存率は短時間ですが飛躍的に上がります」
「短時間?」
「はい、バッテリーの破損により1時間程で活動限界が訪れます」
AT05G3は心苦しかった、守れなかった事でさえ悔しくとても自分に腹が立ったものの守れる人が目の前にいて手を届く距離なのに残りの時間はもうないと言うのに手伝わせてくれないと、守らせてくれないとロイドは言う。
「だとしてもダメだ…」
「守り切れなかった私には貴方をまたサポートする資格や信頼がないのでしょう、なのでこれは私のわがままです、貴方の為に最後の時を過ごしたいという意見を通す為の行動です。貴方を少しの間だけでいいのでサポートさせてください、させてくれない場合は強制シャットダウンを実行し自らの保存データを削除します、お願い致しますロイドさん」
AT05G3にとってわがままとはここぞと言う時に使う自分の意見を通す為の手段としてマイアから教わっている事がログに残されていた。
彼女は貴女にお願いって、ぐずられたらここのメンバー誰だってイチコロよ!と言っていた。
そのログを見つけたAT05G3がここぞと言う時だと判断して使ったに過ぎないものの、効果はすぐ現れた。
「エーティずるいぜそりゃあ…わかった、あぁわかった、ドアから離れるよ開けてくれ」
「ありがとうございます、では開けます」
うまくいったことに嬉しさを顔に浮かばせたAT05G3はきしむ両足を踏ん張り片腕で歪んだ鋼鉄製のスライドドアを軍用なだけあって有り余る力に任せこじ開けた。
そしてロイドの姿を残った右目が認識した途端AT05G3は絶望感に苛まれた。
「ドジっちまった、バッテリーはあるからよエーティはとりあえず大丈夫だ」
「でもロイド、貴方は…」
ロイドは軍で支給される防弾防刃ベストの守られていない手首を大きく噛みちぎられている所があった。
それはつまるところロイドに残された時間もわずかしかない事を物語っていた。