あんぱんより好きよ
掲載日:2020/03/31
香苗、それが僕の彼女の名前だ。
彼女とは職場が一緒で付き合って三年目。
僕が二十九歳で香苗が二十六歳。
いい加減身を固めようか。
僕はぼんやりと香苗との未来を何となくイメージしていた。
そんなある日、香苗が言ったのだ。
「信宏、あんぱんよりは好きよ」
彼女の好物はあんぱんである。
どのくらい好きかと言うと、三食あんぱんで生きて行けるくらい。
誕生日やクリスマスのプレゼントはあんぱんを希望するくらい。
好物なのだ。
しかし、あんぱんよりというのは非常に見極めが微妙だ。
何せあんぱんはどこまで行ってもあんぱんだからだ。
「そう、ありがとう」
僕は返答に困ってそう返した。
すると、頭に凄まじい衝撃が走った。
「いってーーー!」
涙目で周囲を確認すると、分厚い結婚情報誌が転がっていた。
「あんぱんより、好きよ」
何故か結婚情報誌で殴り付けた筈の香苗が涙目だった。
僕は彼女の不器用な愛情表現に笑みをこぼした。
そんな所を好きになったんだったな、と三年前を振り返った。
「あ、あんぱんより、好きよー」
おいおいと泣きながら訴える香苗。
鼻水が汚い。
鼻にティッシュを当て、チンさせてやる。
「じゃあ、結婚しませんか?」
香苗は僕に抱きついた。
あんぱんより好き、それは香苗にとっての最高の求婚の台詞だったに違いない。
おしまい




