七話《後戻り出来ない橋》
「みーそーらっ」
頬に指がささった感覚がした。
「え、な、なに?」
「なに?じゃないよ。何度も呼んでるのに、内容知らないどころか、聞いてもいないなんて事ないですよね?」
ムスッとした顔で、こちらを見る緋波の圧に、そうです、とは言えず。
「……いや、聞こえ、聞いてました……。」
「なら、いつから言ってたと思う?」
「…………。(この行を書いたとき?)」
ペンを持った手を固める私に、緋波は笑って言う。
「あなたがペンをとった時からだよ?」
ノートのページは半分まで埋まっている。
そんなに前から、呼ばれていると思わなかったから、急いで謝る。
「ごめん……なさい。」
目の前の笑った顔が怖い。
聞いていなかったことが、あっさりバレる。(当たり前)
「まあ、良しとしよう。」
恐る恐る頭をあげた先の、彼女の笑顔は普通だった。
「じゃあ本題だけど、あの本。もう一度見る気はある?」
……へ?
何をいっているのかわからない。
私は、正直、あんな本は見たくない。
なのに、目の前の人の顔は真剣そのもので、止めてもきっと行くだろう。そんな強い意志が感じられた。
「妖」
それは、本来実態の無いもので、人類に課された、最後の自然の脅威。
わざわざ、それのために、新しい公的機関が作られているくらい。
残った最後の謎だから、研究するのは当たり前とはいえ、あの一ページの内容はどこでも発表されていない。
裏にいるのが政府か何か知らないけれど、多少、情報操作されていることは間違いない。
そして、情報操作されていることは、得てして、触れてはいけないものだ。
「……私は、あの本があそこに有ることは幸運だとは思ってる。」
「じゃあ行こうよ。」
「でも、そんな危険なことしたくない。何で、あそこに、研究所の資料なんてあると思う。しかも公開されていない重大な極秘文書。それが、どんな意味かは……わかりますよね。」
いつの間にか頭が下がっていて、視界には自分の膝だけが映る。
止められないなら、自分で留まる意思を持たせられないか、と思った。
彼女は、賢いから……きっと言いたいことをわかってくれる。
その期待は、当たった。
「この学園は、政府の情報操作に荷担している。それを深掘りしてしまえば、それを確信できるものを掴んでしまえば、私たちは普通には生きられない。……ってことでいい?」
緋波の言葉に、小さく頷く。
その後、沈黙は数秒間続いた。緋波は何かを考えているようで、ぶつぶつと独り言が聞こえる。
緋波は、よく考えているときは、微動だにしないか、こうして独り言を言う。
ペンが床に落ちる音が響く。伸ばした手より前に、ペンは拾われてしまった。
「後戻りできない?上等。人生そんなものよ。」
彼女の出した答えは、これだった。
そこからは引きずられるように、話を進められた。
図書館でコソコソしていることがバレないような計画も、あれよあれよと組み立てられ、
「じゃ、また明日。おやすみ~。」
彼女は上機嫌で、寝てしまった。
深いため息が、空中に飽和していく。
また、明日から学園のふるいにかけられる。
しかも、これからすることは、人生に関わる。危ない橋にも程がある。
瞼を閉じても、
深蒼の心労は収まることはない。
進みが遅かったり、早かったり緩急つきます、すみません。




