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四話《週末の始まり》

 空いた机。沈んだ空気。それをもろともしない静村を、深蒼は恐ろしく思った。

 

 誰かが居なくなるのが、さも当たり前かのように振る舞う静村は、弱肉強食のこの世界を如実に表している。

 毎年のように出る中退者の真実が、今の目の前の光景。

 周りの存在に怯えていた自分が既に過去になる。真に怯えるべきは、このシステムならぬ、己の行動なのだ。

 

 

 

 それからは、

 

 挨拶が出来ていない、話を聞く態度がなっていない等、三人が居なくなってしまい、ようやく初めての休日になった。

 

 深蒼は、雨が打ち込む廊下を通って自室に帰る。

 ここは、二人一部屋だが、完全寮生活で、それがこの学校に入りたいと思った動機。

 

 二段ベットの一段目に倒れこむと同時にぽふっと包まれる感覚がする。全員分の部屋にかけるお金なんて馬鹿にならないだろうに、部屋の備品はとても質が高かった。

 でも、全員分にここまでの待遇を保つことはできないから、選別みたいに生徒を減らしていくのかな、なんて考えが頭に浮かぶ。

 

 同室の子はまだ帰っていなかった。

 

 「あー……課題しなきゃ。」

 目線の先には、机と無造作に置いた鞄。

 この一週間はひどく疲れた。それはもう、ここから指一本動かしたくは無いほどに肉体的にも、精神的にも疲れていた。

 まだガイダンスで、本格的な授業も実技も始まっていないのに、学ぶ出来事はことごとく大きかった。

 しかも、休日二日の間に、首都圏大地震の際のレポートを書け、と来た。

 

 入学式の朝に見たテレビのアナウンサーの声が頭の中で再生される。

 「首都圏大地震の際」の事以外のテーマは出されなかったが、大方、あの研究所の事について調べてまとめるという事だろうか。

 ここの図書館は蔵書数も多く、専門性も高い。世界中の論文も、ちまちまとだが、ある。

 

 学園名に「生体・呪術」と入るくらいだから、そちらからの論点で書いた方がいいと思ったのだ。

 けれどその頭とは別に、身体は動くことを拒否する。

 

 もう明日早起きしよう、と勝手に睡魔は囁く。

 天使は『今やらないと』と言うが、天使を選べば地獄のような眠気の中を掻い潜る事になり、睡魔を選べば天国のようなふんわりとした布団に包まれることになる。

 とんだ矛盾に悩むことはない。「寝る」その一択に手を伸ばし、目を閉じた。

 

 

 

 朝と言うのが正しいかわからない早朝に、宣言通り深蒼は起きていた。

 鞄からペンとメモ替わりのノートを取り出して、そっと歩く。

 起こさないようになるべく静かに動いていたはずなのだが、はず、で終わった。

 「……どこ行くの?」

 ベッドの二段目から開いていない目で見下ろされる。目を擦り、後ろ髪をかきながらもう一度「どこ行くの?」と言う。

 

 「ごめん、起こして。寝てていいよ。」あんまり仲良くはない、けど、相手はそう思っていないらしく、「着いていくから待ってて。」と勝手に準備し始める。

 

 彼女は永倉緋波(ながくらひなみ)

 鋭い先見性を持っていて、なんというか、自分の行動を見透かされているようで少し苦手だ。

 恐らく、ちらと見えたノートか何かで調べものとわかったのだろう。

 

 一人でいくはずが、二人で行くことになった。

 いわゆるコミュ障には、あまり好ましくない。

 気が重く感じながら、二つ分の足音を廊下に響かせる。朝日が昇り始めた空は、心境とは反対に良い天気になりそうだった。

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