三話《初日から!?》
声が小さくなかっただろうか。震えていなかっただろうか。そんな不安に襲われているのを気取らせない微笑みで、深蒼は座る。
滞りなく進んでいく自己紹介を背景に、心のなかは荒波だった。それは、椅子に座った後も止むことはなく、むしろ勢力を増していく。
緊張した。緊張した!緊張したっ!自己紹介なんてなくなってしまえば良いのに。
いや、よく考えれば、必要なものだとは分かるけれど……やっぱり恨めしいことには変わりない。こんなに辛いことはそうないと思う。誇張しても良いのなら、試験の方が幾分マシだったとも思えるくらいだ。
一瞬の内に変わる数字を足し算、掛け算。過去の戦略図の解釈や、改善点。頭の神経が焼き切れるかと思ったし、身体試験なんて、物理的に死ぬかと思った。
そして、なにより、生体実験を目の前で見た衝撃と言ったら……。
過去の思い出は、脳で誇張されるなんて言う通り、辛かった思い出が飛び出して止まない。だけど、脳にとっては、過去の刺激より現在の刺激の方が強く感じるらしく……色々有るけれど
結局は「とても緊張した。」これに尽きる。
ようやく、落ち着いて周りを見ようという気になった。しかし、何故、あと四人?途中の十数名はいつの間に終わってしまったのだろうか。その人たちの情報は一切頭に残っていない。
さっきのくだらない時間を費やしたことに後悔する。けれど、またここで自責の念を募らしたとしても、時間の無駄。
せめて、その分の時間だけは、残りの数名の自己紹介に費やそう。十数名は、また頑張る。半ば、諦めた形で耳を傾ける。「はじめまして、私は……」
拍手が鳴り響き、最後の一人が座る。「よし、じゃあ次な。渡すものがある。」静村は、どこから出したか、紙束を波打たせる。その動作を数回繰り返すと、綺麗な紙幣の横読みのような扇形になった。
深蒼は、ここぞとばかりに気を張る。順々に名前が呼ばれていく。
高い位置で髪を一くくりにした子。
アホ毛の男子。
気が弱そうな男子。
ショートの女子。
自分の名前が呼ばれた後も、もらった物に目も通さず、一人一人、名前と特徴をひたすら追っていく。全てを覚えられたら良かったのに、と彼女は思う。並外れた何かは無いのだ。
それでも十人くらいは覚えたかな、と配られた紙の存在に気付く。封筒だった。開いてみると、「朝宮深蒼」と書かれている。その下へ目線を動かす。
「状況理解力」?「A+」? 訳がわからない。謎の値で混乱する。
『試験結果』
そう、先生は言った。どうやら、あの厳しい厳しい入学試験の結果だそうだ。封筒の中身は、その試験で付けられた評価の上位三つの能力が書かれている。
「AA+」が最高で、「C」が最低の評価らしい。
決して掛けてはいない……。
けれど、「C」というのは本当に最低であり、取れば、即退学。
尚且、三ヶ月毎にある進級試験でのボーダーラインは「B」
なら、この「A+」は良いのか悪いのか。ゆっくり横に傾いていく首は、一人の生徒の声でバネのように戻される。
「じゃあ、俺が一番この中で凄いじゃん?なあ。」
掲げられる紙。
「AA」
数少ない、「AA」の表記がそこにはあった。
あの時に、『二年生に上がれる』と言われた一人。やはり、格が違ったのかもしれない。
「優秀だな、俺。こんな簡単に取れるんならAA+なんてすぐじゃん!」
「……退学な。」
笑って、机の上に足を組むクラスメートに、先生が言い放つ。
「……え?」
教室が驚きに染まる。何故、そんな優秀な成績を取った生徒を惜し気もなく切り落とすのか。
言われた本人も、驚愕し、目を白黒させている。
「なんで!なんでなんですか!」
暴れだすかと思われた彼は、それ以上騒ぐ事は出来なかった。
それはいつの間にか後ろに二名、人が居たからだ。本当に、いつの間にか。
誰も動かないまま、
席は一つ空いてしまった。
「えー、礼儀がならないやつは、どんな者であれ、ここにはいらない。世の基本をここで教える気は無い。
何故か。
答えは至極簡単……。
基本だからだ。
基本さえ出来ないやつは、必ず他を怠る事がわかる。だから、あいつは退学だ。」
初の脱落者が、初日に生まれた。




