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死んだ先

--俺は今、訳もわからないまま暗い森の中を必死に走っている。これまでにないくらい汗を流して、汗で身体に張りつくシャツの気持ち悪さも気にせず、時折大きな木の根などを飛び越えながら、ひたすら足を動かしまくって。


 後ろからは聞いた事もない獣の唸りや吠えるような鳴き声と、明らかに俺よりも速い足音複数が、俺を狩るために、屠るために、少しずつこちらへと迫ってきている。

 気がついたら森の中、そして急に現れた謎の獣たちに追われてまさに絶体絶命。このままだと奴らに喰われて死んでしまう。


 しかし、そんな状況下でも思考回路はこれでもかと言うくらいグルグルと巡っていた。



--ここはどこだ?


--なんでこんな状況になっている?


--あの追いかけてくる狼みたいな獣はなんだ?



----そもそも、なんで俺は生きている?



――俺は、俺は……自殺したはずなのに……楽になれたはずなのに…………なんで、なんで、こんな目に合わなければいけないんだ!!??



 本当に訳が分からない。この状況も、俺が今生きている理由も。全てが分からない。


ここは地獄なのか? 天国なのか? 死後の世界はこんなにも過酷なのか?


 疑問は尽きないし、体力も限界を迎えつつある。でも、今ここで足を止める訳にはいかない。

 死んだ先ですぐにBADENDなんて、あの苦痛だらけだった世界から逃げてきた意味がなさすぎる。そんなのは嫌だ。



「だ……かっ、たす……てっ」



 とにかく助けを呼ぼうと声を出そうとするが、喉が掠れて上手く声が出せない。もはや周りに聞こえる程の声を出せるような状態じゃないらしい。


……もう、ダメなのか? やはり俺はここで死ぬのだろうか?


 酸欠で目の前がかすみ、足元もおぼつかなくなってきた。それでも足を動かそうと1歩前に踏み出したその時、--何かにぶつかった音がして、俺の視界はぐらりと歪んだ。

 一瞬だけ宙に浮く感覚がした後、全身が地面に強く叩きつけられる。



「ぁっ、ぐあっ……!」



 あまりに強い痛みと衝撃に思わず苦痛の声が漏れた。だいぶキツい。おそらく何かにつまずいただけなのだろうが、全速力で走ってる時だったせいか、ちょっとした事故にでもあったような気分だ。



「グルルルル………」



 気がつけばあの獣たちの唸り声がする。俺が情けなく転んで倒れてる間に囲まれてしまったらしい。何とか逃げようと身体を起き上がらせようと腕に力を込めるが、指先がぴくぴくと動くだけだった。


「……万事休す、か」


 自分の運命を悟った俺は、悲鳴をあげる身体を大の字に倒し、獣の餌になるという残酷な死を待つことにした。そしてそっと目を閉じて、ただ考えることだけを続ける。



……ああ、そうだ。死ぬ前の俺もそうだった。何かあればすぐに諦めて、諦めずに努力しても結局何も出来なくて、最後には人生すら投げ出して逃げてきたんだ。

これは、きっとその報いなんだろう。逃げ続けた俺への、神様からの罰なんだ。



 ハハ……と乾いた笑いが出る。俺は結局最後までこうなんだ。どこへ行こうが、何をしようが、これが俺の結末なんだ。

 そう頭の中で自分への皮肉を漏らしながら、少しずつ、少しずつ、思考の歯車は止まっていき、闇へと堕ちていく……。





--意識が薄れていく中で最後に耳に届いた音は、あの獣の情けない断末魔だった。

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