センゴクにはわからない
○センゴク
「そこはさ、流れ的に俺が死ぬとこなんだよな」
病室でそう笑いながらいったサカキの言葉が俺には理解できなかった。
「は?流れ?」
「あ~いいや。お前にはそういうの分からないだろうから」
その通りだ。
俺はお前が何を言いたいのかわからないままだった。
あの時も、今も。
ふうっと息を吐くと、白い煙が真っ暗な空へと登っていった。
俺の耳にかすかにお経を読む声が聞こえてくる。
すすり泣く声も。
俺は脇に抱えていた大きな茶封筒をぎゅっと握り締めた。
「こんなところにいたのか」
そう言った男の顔を見た俺はすぐにタバコを足元に捨てて火を踏み消した。
「ご苦労様です。親父」
「タバコ、拾っとけよ。ここは俺らのシマじゃあねえんだからな」
「はい」
親父がタバコをくわえたので俺はすかさずライターをかざした。
「サカキはこんな田舎の生まれだったんだな。あ、お前もか?」
親父はふっと白い煙を吐いた。
「いえ、俺たちは中学から一緒で。サカキが中学生の頃に俺の地元に越してきたんです。それから親が離婚したとかで、ここはサカキの母親の実家なんですよ。父親はたしかもう別の家庭があるみたいです」
「そうか。じゃあ母ひとり、子ひとりだったわけか」
「はい」
親父はため息と一緒に煙を大きく吐き出した。
「子供を失った親を、俺は見てられねえ・・・なあ、センゴク」
じっと俺を睨むように親父は見つめた。
「逃げてきた俺を弱い奴だと思うか」
俺は思わず親父の視線から目をそらした。
なぜなら俺もだったからだ。
「俺は何も言えません」
親父は俺から視線をそらして真っ暗な空を見つめた。
「ま、おまえは昔からサカキのおふくろさんのこともよく知ってるもんな。そら辛えわ」
「すみません」
「そういえば、さっきカタギの男がひとり来ていたぞ?」
俺は思わず驚いて後ろを振り向いた。
暖かな光を灯す小さな平屋からたくさんの人が出入りをしていた。
ほとんどが見知った顔ばかりだ。でも、
あの中にあいつが。
「親父」
「なんだ」
「すみません、少し失礼します」
“おう”と言った親父の低い声に俺は一礼し、人々が出入りを繰り返す平屋へと戻った。
人ごみをかきわけて中を覗くとさっきまで祭壇の前で嗚咽をあげながら泣いていたサカキの母親が少しだけ顔を綻ばせて会話をしている。
その会話の相手こそ俺が探していた男だった。