突入
◯センゴク
俺とツバキはビルの中へとのりこんだ。
あいつの漫画がスラスラと俺の頭の中に入り込んでくる。
次から次へと登場する奴らが勝手に喋りだす。
歩く音も、走る音も、騒音もこの漫画の中から聞こえてくる。
俺はいつのまにか夢中になってサカキの漫画を読んでいた。
とがった頭をして堅物でいつも威張っている主人公のディール。そんなディールを支える親友のレイ。意味のわかんねえ言葉を連呼するディールの女メグ。
こいつらが勝手に動く、喋る、声が聞こえる。
薄暗い階段を足早に上がっていく。
“俺はこんな一兵卒で終わる気はないんだ。レイ”
ディールの表情まで動いている。
“ディール。君は、いつも強気だね。でも、どうするんだい?あいつら“グル”は手ごわいよ”
レイは優しく微笑んでいる。
“ディール!レイ!こっちへ来て!白魔法を使うわ!ベル・ゼ・ガイガー!”
ディールの女の意味のわからん声まで聞こえる。
読んでいる・・・なんて感覚じゃない。
まるでその世界に入り込んで、俺自身がそこにいるような、そんな感覚。
俺たちは胸元から拳銃を取り出す。
俺はサカキの漫画の世界に入り込めば入り込むほど、この主人公であるディールが気に入らなかった。
大した実力もないくせにいつも威張り散らし、くだらないプライドを捨てることもできない。
扉を開けた俺たちは銃口を向けた。
けどそいつにひとつだけ同感できるのは
誰よりも登りつめたいというその野心。
そのために自分より格上で王国を乗っ取ろうと企む悪の兵士、グルたちをやっつけて国王に認められようと考える。
中にいた連中が俺たちに振り向いた。
そのとき俺は気がついたんだ。
ディールは俺と同じだ。
俺はここまで堅物じゃあねえけど、でも野心はこいつと同じ。
くだらない俺のプライドも。
そしてそんなディールの唯一の親友のレイはこう言うんだ。
“君がどんな道を選ぼうと僕は君を見捨てない。逆に君に見捨てられたとしても僕は君を恨まない”
はっきりと聞こえたレイの言葉が俺の中に深く深く沈み込んでいった。
俺たちは引き金を引いた。
俺は銃をぶっぱなしながら、思った。
なぜ、俺は今まで漫画を読めなかったのだろう。
いや、なぜ俺は今まで漫画を読まなかったんだ?
事務所の奥から銃を持った男の姿が出てきたのを視界の端で捉えた。
俺はすかさず電気を消した。
真っ暗闇の中で俺は確かにサカキの声を聞いた。
“俺さあ、実は漫画書いてるんだ”
あのときと同じだ。
腹を刺された時と。
あの時もサカキの呑気な声が聞こえたんだ。
俺は、まだだめだ。
まだ死にたくない。
あの声を思い出す度、いつも俺は“生“にしがみつく。
だって俺はまだ
「俺はまだあいつのように俺だけの秘密なんて持っていない。本当の俺を知る人間が誰もいないまま死ぬなんて嫌だ。それに漫画だってもっと・・・もっと読みてえからな」
俺は暗闇の中へ飛び込んだ。




