6.お嬢様と見習い君
後半、遥視点です。
蝉の鳴く音が聞こえる。
あぁ、夏だな~なんて思いながら、学園の門を潜った。
「おはよっ!咲良」
「悠人、おはよう」
「糸屋もおはよう」
「おはようございます、永山君」
うんうん。様って言わなくなったな。
オーケーだぞ!
家では良いけどね!
実は、学園では他の人に様を付けるなと言っていた。
だって、使用人見習いだけれど、有名老舗呉服店の息子だし。
それに、変だなと思ったから。
「悠人が教えてくれたの面白かった」
「本当!?また今度別のオススメするね」
「ありがとう。真矢さんにも教えようかな?」
オタ友の真矢さんなら分かってくれるはず!
「だね。今度は烏丸さんも一緒に」
悠人は今までにないくらい眩しい笑顔で笑った。
……うん、頑張って。真矢さんには朝霧君とくっついてほしいけど、悠人もいいな。
悠人は有名カメラマンの息子なんだよ。
結婚式はハワイだったりして。
「小鳥遊さーん!」
タタッと小走りでこちらに向かってくる真矢さんが見えた。
可愛い…!
「おはようございます、真矢さん」
「おはようございます!小鳥遊さん!」
「真矢さん、今日は教室ではりこみましょう」
「えぇ。良いですね」
はりこみ…は学園のどこかにリア充はいねがー?的な感じではりこんでいます。
それで、真矢さんと感想を言い合っている。
自分でも悪趣味だとは思うけどね?
「じゃあ遥、悠人、私達先に行くね」
「はーい」
「お気をつけくださいませ」
「……うん」
真矢さんと話しながら、私は校内へと入っていった。
◇◇◇
「はぁ…」
烏丸さんと一緒に去っていくお嬢様を見て、溜め息を吐いた。
僕の気持ちなんて分からないくせに。
なんで家族だと思ったことないって言ったらあんな顔するんだよ。
お嬢様は小さい頃からどこか大人びていた。
ゲーム会社の社長である旦那様と、それをサポートしている奥様はいつも忙しそうで、帰ってくるのも遅かったり、時には帰っては来なかった。
朝も、早くに出ていくものだから、お嬢様との交流は少ない。
けれど、お嬢様はそんなご両親が好きなようで、小鳥遊の作ったゲームは必ずと言っていいほどしている。
お二人の誕生日には、手紙と、料理長に教えてもらって必死に作ったお菓子を贈っていた。
それを、小鳥遊で働いている人たちは微笑ましく見守っていた。
そんな可愛いお嬢様を傷つけてしまったのに気付いたのはすぐだった。
旦那様や奥様以上に一緒にいた僕を家族だと思ってくれていたのに。
僕はそれを拒絶した。だって、家族じゃなくて、一人の男として見てほしかったから。
お嬢様は僕の気持ちには気付かずに、壁をつくっていった。
僕が距離を詰めようとすればするほどに取っていく。
苦い思いを胸に抱えながら隣にいる永山君を見る。
僕と同じようにお嬢様を見つめている。
お嬢様がタラシ込んできた永山君。あの一日で何があったのかは分からないけど、僕と同じなんだということは分かった。
お嬢様と永山君の趣味は同じようで少しズルいななんて思ってしまう。
僕はゲームが苦手で、お嬢様と対等の話が出来ない。
それに、永山君はモテる。
僕はあそこまで顔は良くないし、冴えない。
リーダーシップなんてもの持っていない。勝てるところなんか一つも。
だから、お嬢様の専属執事になって、この気持ちに蓋をして、見守っていければいい。
こんな気持ち、要らない。
──お嬢様、好きです。
この気持ちが後に爆発してしまうのは僕がもう少し成長してからだった。