5.アニメ鑑賞会!
翌日、おすすめの乙女ゲームをバッグに入れ、お気に入りの洋服に着替える。
遥には内緒だからね!
こっそり出ていかなきゃ…。
「……お嬢様?」
背後から冷たい声がかかる。
「は、遥…?」
真っ黒な笑顔を浮かべて、遥が近寄ってくる。
「どこに行くのですか?お嬢様」
「えっと…永山君の家……」
「永山様…。あぁ。クラス委員長のですよね?何をしに…?」
アニメ鑑賞会なんて言えないわ!
私がオタクなのは隠してるもの。
「べ、勉強…」
遥の視線が私のバッグへと向く。
「そうですか。……お嬢様、その格好は…」
「変?お気に入りなんだけど…」
白のトップスに深緑のロングスカート。
肌もそこまで露出してないし…。
「いいえ。お似合いです」
遥がそういうのと同時に、遥の叔父である糸屋が来た。
糸屋はダンディーなおじ様で、私も子供の頃は糸屋が好きだった。
結婚はしていないらしい。
「お嬢様、永山様がいらっしゃいました」
「うん、ありがとう。じゃあ、いってくるね」
階段を駆け下り、玄関ホールへと行く。
そこには、カジュアルな格好をした永山君がいた。
「小鳥遊さん、おはよう」
「おはようございます」
「じゃあ、僕の家に行こうか」
「はい!凄く楽しみです」
車に揺られるなか、私達は乙女ゲームや、アニメの話をしていた。
「あっ、今日、おすすめの乙女ゲームを持ってきたんです。後でお貸ししますね」
「本当!?ありがとう小鳥遊さん!」
ニパッと弾けるような笑みの永山君。
……カッコいいわ~。
「着いたよ!」
「へぁ~」
車を降りると、大きな屋敷が目に飛び込んできた。
「お邪魔します…」
「ちょっと待ってて」
「はい」
少し待つと、永山君がおぼんにコップとお菓子を持って出てきた。
キッチンだったのだろうか。
「俺の部屋はこっちだよ」
二階へ上がり、奥の部屋へと進む。
カチャリと永山君がドアを開けると、シンプルな部屋が広がった。
あまり物は置かれていなくて、机と、テーブル、ウォークインクローゼット、ミニ冷蔵庫、ベッド、タンスだけだった。
「麦茶でいい?」
「あ、ありがとうございます!」
コポコポと透明のコップに麦茶が注がれていく。
「ね、ねぇ。永山君はゲームとか持っていないんですか?この部屋には何も見当たらないんですけど…」
「あぁ…。おいで」
永山君は、ウォークインクローゼットの方へと歩く。
私も、それについていった。
ウォークインクローゼットの扉を開くと、ゲームのケースがたくさんあった。
他には、ポスターや、グッズも。
「すっご…」
「……引かない?」
永山君がおずおずと尋ねる。
引くどころか凄いと思いますけどね…。
「全然。私の好きなアニメのグッズもありますよ!!『ラキラブ』っていいですよね!」
「本当!?このアニメってマイナーなんだけどね、ストーリーがすっごく面白いんだ!」
「わかります!深夜ですしね…。主人公とヒロインのジレジレとか私好きで!両片想いで、すれ違うんだよね。それに加えてコメディとか入ってるし、何より声優さんが豪華すぎてヤバイよね!キャラにあった声優さんで、納得できるというか…」
私がラキラブの良さを語っていると、永山君はポカンとしていた。
「永山君…?」
「小鳥遊さん、敬語、外れてるね」
「えっ!本当ですか!?」
敬語付けるのに必死だったんだけどな…。
うぅ…。
「すみません…」
「何で?俺は小鳥遊さんがタメ口なのいいと思うよ?むしろタメ口でお願い。同志だし。ね?」
そんなキラキラした瞳で見られると…。
「は…う、うん。わかった」
変じゃないかな…?
チラッと永山君を見ると、ふわりと微笑まれた。
イケメンはいいですね!えぇ、羨ましい!
「それじゃあ、咲良。アニメ鑑賞会、始めようか」
「……咲良…」
名前呼び!っていうか名前知ってたんだ!
私、永山君の下の名前思い出せない…。
「嫌だった?」
永山君の問いにふるふると首を振る。
「じゃあ、咲良も俺のこと下の名前で言って…?駄目かな?」
……この人、自分が持ってるものとことん使うタイプだ。
イケメンパワーを使っている。
「あの……」
「ん?」
「下の名前教えて」
「……ぶはっ」
その後、気が済むまで永山君に笑われた。
永山君は、永山 悠人って言うらしいです。
わかんなくてごめんなさい。
「悠人。これ、凄く面白かった!」
「でしょ!?俺のおすすめなんだ!」
アニメを見終わった後は感想を言い合う。
そんな楽しい時間が過ぎるのは早いもので…。
すっかり夕方になっていた。
「そろそろ帰らなきゃ…」
「そうだね。咲良、携帯持ってる?」
「うん」
心配性の両親が買ってくれたものだ。
私の好きな、黄色のパステルカラーのスマホケース。
パステルカラーって落ち着くんだよね。儚げで、淡い色が。
「連絡先交換しない?」
「する!」
「アニメの情報とか教えてね」
「もちろん」
初めて!初めてクラスの人と連絡先交換した!
スマホを持って、くるくると回る。
「ありがとう!楽しかった!」
「ううん。俺も楽しかった。送っていくよ」
「いいの?」
「うん。送るのは運転手だし」
悠人は肩を竦めた。
「ありがとう」
私達は帰りの車内でも、アニメの話をしていた。
───────
「お帰りなさいませお嬢様」
げっ…。遥がいた。
「ただいま」
「……お嬢様、もしかして、永山様とは二人きりだったのですか?」
「そうだけど」
遥は思いっきり顔をしかめた。
何?そこまで?
私達、まだ十二歳だしもしもなんて起こらないのに。
「ずるい」
「えっ…?」
「ずるいです。僕の主人を取るなんて」
ど、どうした遥~!
何でいきなり甘えだしたんだ!?
「遥?大丈夫?」
「大丈夫じゃありません」
ズイッと遥が近寄ってくる。
漆黒の瞳に気持ちがグルグルと掻き回される。
「ほら、ね?明日はいっぱい遥に構ってあげるから」
すると、遥はやった!と言わんばかりにガッツポーズをした。
遥は、時々こういった不満が爆発する。
気だるげだから、その時がいつか、よくわからないのだけれど…。
私には精々遥の表情を読み解くだけの勘しかないから。
家族じゃないって言ったくせに…!
こういうときだけ甘えて…。
明日は我慢するけど、その後は知らないんだからね!