1.同士になりましょう
あぁ、憂鬱。
遥と一緒に学園に登校してきたことは別に憂鬱ではないのだけれど、
私が憂鬱におもっているのは、あの女子の集団。
「朝霧様だわ…」
「私は、島本様ね」
「私は…断然、秋澤様」
本っ当に憂鬱!
前の私はイライラしていたのだ。
私の大好きな朝霧 章吾君が他の女性に
囲まれているのにヤキモチを妬いて。
でも、何でだか今はそんな感情一切ない。
ただ煩いなと思うだけ。
成長したな私。
「初等部から凄いですね。あの方々は」
遥こと糸屋 遥は、
暗い瞳で集団を見ている。
いいな。
私は、ロシア人のお祖母様の血を濃く継いでいるようで、
色素の薄い茶髪。瞳は黒いけど、地毛がやっぱりコンプレックス。
「モテモテ…」
「ですね」
感情のこもっていない答え方。
そこまで私との会話を嫌がらなくてもいいじゃないか、と言ってやりたい。
「キャッ!」
ドンッとぶつかってしまった。
直ぐに謝罪をすれば、女の子はニコッと笑った。
その顔は…。
「私こそごめんなさい。私、烏丸真矢と言います」
ですよねー。
知ってますよ。貴女の事。
天然女子…。
「私は、小鳥遊咲良と申します」
「え、小鳥遊!?あの、有名なアプリゲーム会社の!!」
「は、はい」
驚いた。私以外にこの学園でオタクの人がいるなんて。
小鳥遊家は、アプリゲーム会社を立ち上げていて、世間では有名になっていると思う。
私はそんな家庭に生まれたからか、オタクになってしまった。
といっても、隠れだけど。
だからなのかもしれない。こんなゲームでよく使われるような設定を
直ぐに飲み込めたのは。
はじめは飲み込めなかったけど、今ではストンとこれを受け入れているんだから。
「あ、そちらの方は…」
真矢さんの視線が遥へと移される。
あ、遥の目が光った。
応援するけど、保証はしないよ。絶対。
「糸屋遥と申します。咲良お嬢様専属の使用人です」
「うぇえええ!?」
私が大声を上げれば、周りにいた人達がビクッとした。
ごめんなさい。
専属の使用人って言ったのは問題ないんだよ?
事実だから。でも、なんか、ドヤりながら言ったのは何故?
あれ?これって私が変?
「待って、ちょっと遥借りますね」
「え、えぇ…」
グイっと遥の手を引っ張る。
いつも気だるげで無表情だから、感情の変化を見破るのは難しい。
でも、私は分かる。ずっといるから。
「何ですか?」
「えっと、学園では、使用人とは言っていいけど、お嬢様って呼ばないで」
「何故?」
「変。それだけ」
そう。変だと感じたのだ。
前の私も言わせていなかった気がする。咲良、そう呼べと言っていた。
学園でお嬢様なんて言われたら変だ。
居心地が悪い気がする。
「本当に我儘なお嬢様ですね。いいですよ。咲良って呼びます」
「うん。そっちがしっくり来る」
私と遥は、真矢さんの所へ戻った。
真矢さんは『あのカップルがいい。いや、案外あれも…』などと言っていた。
私には分かるよ。
「真矢さん」
「うっ!?」
百面相をする真矢さんは面白かった。
皆はこういう真矢さんが好きだったんだなと思い、そのことに目を伏せた。
朝霧君に、濡れ衣を着せられたことはムカつくけど、それは許してやろう。
私の真矢さんに対する態度が悪かったのかもしれないから。
ここで私に新たな感情が芽生えた。
真矢さんと友達になりたい。同士になりたい。
色々しゃべりたい。
こう思ってしまう自分は、我儘なのかな?
なんなら、とことん我儘になってやる。
遥以外の友達を作ってやるんだから!
私は真矢さんの手を取った。
「真矢さん!同士になりましょう!!」
「えっ、えっ!?はい!喜んで!」
こうして、私と真矢さんは同士になった。
アリがちな設定ですが、楽しんでくれればなと思います。