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此ノ川高校文芸部★  作者: m8eht
第2章 気持ちを言葉にしたとき、人は前へと進む
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第6話 「河原にて」

 そう、冬原への次の試練は着々と準備されようとしていたのだ。というのも三人が茶をしばいているころ、東堂を除く白河派の面々が会合を持っていたのである。

 此ノ川高校の名前の由来は、あるどでかい川のすぐ近くに建っていることに由来する。その川の名を大吟醸川という。この名前のためでもないだろうが、時々河原で盃を片手に詩を吟じている爺さんを見かけることがある。しかし今は白河派の四人が川っ風に吹かれ、夕焼け色に染まる川面を見ていたのだ。

「今日の俺の講義はどうだったかね? 北峰君?」

「……ま、あんなものじゃないですか?」

「ふむ……」

 四方山は腕を組んで、ぐっと胸を張った。実のところ、新入部員たちを真の意味で文芸部員に、すなわち白河派の文士にすることは出来なかったと感じていたのだ。それは遺憾なことであった。

「なに言ってんの? 全然だめだったけど」

 やや傷心気味の四方山に、西村の言が飛んでくるわけだ。

「ノブくんはさ、上から押し付けようとしすぎ。ああいうことは頭ごなしにいうことじゃないじゃん? もっと、ただそこに存在するだけで僕らを導いちゃってた白河部長を見習うべき」

 西村は言うのだ。四方山にそんな芸当は出来ないと知りつつ言うのだ。

「むぅ……」

 四方山はうなった。

「み、南泉君はどう思ったかね?」

 四方山は南泉に話を振った。そして四方山は期待したのだ。フォローの天才、南泉千紘が彼の心の傷を癒してくれることを。

「オレは良かったと思います」

 果たして南泉は言うのである。

「最初にオレたちの立場を説明しておけば、二人も絡みやすいでしょうし。それに遅かれ早かれ、いつかは言わなきゃいけないことですから」

「うむ」

「ただ、これからは少し、講義形式は控えましょうか。まずは文芸部の部室に居心地の良さというか……居場所を感じてもらわないといけませんから」

「う、うむ」

「まぁ、気楽に行きましょう。まだ先は長いんです」

「うむ、そうだ、そうだな……」

 川の水はゆったりと流れ、揺れる川面は夕日を受けてきらきらと輝くのだ。四方山たちは、しばし、その光景に見入っていた。

「うむ。そうだ」

 不意に四方山は言った。

「君たちは白河四天王だ!!」

「は? なに言ってんの、ノブくん」

 西村の言も、四方山は意に介さない。

「北峰、南泉、西村、そして東堂の四人で白河四天王なんだよ。君たちの使命は新入部員及び新任顧問を白河派に引きずりこむことなのだ!」

 四方山は高らかに宣言した。

「んで? ノブくんは?」

「俺は、まあ、ラスボスだ。そんなことはないだろうが、万が一、諸君が引き込みに失敗したときに出撃する!」

「へぇ~、あっそ」

「よし、白河四天王、出撃だ!!」

 四方山は気勢を上げたが、反応は薄かった。と、そのときである。

「白河四天王ってなあに?」

 突如として春川先生の声が上の方から降ってきたのだ。一同が振り返ると、春川先生が土手の階段を下りてくる。風になびいてほおにかかる髪を耳にかける仕草はどうだ。夕日にまぶしげに目を細める様子はどうだ。まるで泥臭い青春小説に大人の恋愛小説が乱入したかのごとき違和感である。

「い、いや、その……」

 四方山はしどろもどろになった。

「これからも、その……文芸部を盛り上げていこうと、そういう話をしておったのです……」

「ふぅん?」

 春川先生は深く追及しなかった。

「わたしに出来ることがあったら、なんでも言ってね?」

 そう言って微笑んだのである。

「ユイ先生は、だたそこにいてくれるだけで僕ら『ガンバロー』ってなりますよお~!」

 西村は全力で媚を売った。しかし、これはお世辞ではない。全く本気で言ってやがるのだ。

「まあ、気楽に構えててください。忙しくなるのは六月くらいからですから」

 南泉が割って入る。

「文化祭に合わせて部誌を出すのよね?」

「そうです」

 さすが南泉だ。これがそつのない会話というものだ。

「むむむ……」

 一方、四方山は皆に背を向けて立っている北峰の後ろ姿を凝視していた。北峰君、君も何か言うのだ。そう念じていたのである。なぜか北峰は、春川先生に対してちょっとそっけないのだ。北峰は微動だにしない。ズボンのポケットに手を突っ込んだ、めちゃくちゃカッコつけた後ろ姿のまま微動だにしないのだ。しかし、役者は春川先生の方が一枚上手であった。北峰のめちゃくちゃカッコつけた両肩にぽんと手を乗せたのだ。

「いっしょに頑張ろうね」

 そう言ってそのまま、北峰と夕焼け色に染まる川面を見ていたのである。

「ま、いいんじゃないですか……」

 やっと北峰が言った。しかし、何がいいというのだ。なんともマヌケな北峰の返事ではあった。


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