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此ノ川高校文芸部★  作者: m8eht
第4章 モリブデンの心臓
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第24話 「守護天使」

 その朝も、四方山は部室の掃除をするために、早くに登校したのだ。そんな四方山が北校舎の二階を歩いていると、廊下の窓から中庭を歩く春川先生が見えた。そこへ一人の女生徒がやってきて春川先生に挨拶し、それに春川先生が笑顔で応えている。そして二人は、そのまま何かを話しながら四方山の視界から消えたのだ。

 いったい何を話していたのだろう。春川先生の周りで、四方山の知らないストーリーが進行しているようである。そしてそのストーリーは、この学校で生まれるいくつもの物語の一つとなってゆくことであろう。その物語に出てくる春川先生は、四方山の知らない春川先生で、それでもやっぱり春川先生なのだ。それはいいことだ。素晴らしいことだ。四方山はそう思ったのだ。

 部室を掃除しつつ四方山は考えていた。たしかに春川先生は素晴らしい先生だ。失うわけにはいかない。それはわかる。しかし、果たしてそれだけなのだろうか? そこまで考えたとき、ふと四方山の頭にこんな考えが浮かんだ。春川先生とはもしかして……残された俺たちを憐れんで白河部長が遣わしてくれた天使なのではないか? それは馬鹿らしい考えには違いなかったが、四方山は次第に、どうしてもそうとしか考えられなくなったのだ。


 四方山はその日の授業のあいだじゅう、放課後に備えて、脳内で議論の応酬をシミュレーションしていた。なぜなら、ジョン・マックカートゥーンとは一筋縄ではいかない男なのだ。「駄目だ」と言われて、「はいそうですか」と言うような人物ではないからだ。必ずひと悶着あるだろう。四方山はそう読んでいたのである。

 しかし、すでに四方山も覚悟を決めていた。そうだ、たとえマンガ研究部に行くことが春川先生のキャリアにとってどんなにいいことであろうとも、文芸部として春川先生を引きとめる。この人生とかいう正体不明の闇を行く以上、このくらいの意地汚さはあってしかるべきなのである。四方山は腹を括ったのだ。

 さて、放課後のホームルームが終わって四方山が廊下に出ると、そこに北峰が待っていた。

「どうしたんだ、北峰君」

「マンガ研究部に行くんでしょう? おれも行きます」

「うむ、そうか。行こう」

 四方山と北峰はまさに敵地に乗り込むのである。

 廊下を歩きつつ四方山は言った。

「北峰君、今朝ね、ちょっと思った事があるんだが……」

「なんです?」

「いや、春川先生というのは、つまり、白河部長が残される俺たちを憐れんで遣わしてくれた天使なんじゃないかと思ったんだ。なんなら守護天使と言ってもいい。どうかね?」

「……」

 北峰は何も言わなかった。スベったのか? 四方山はそう思い、そっと顔をそむけ、人知れず赤面した。


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