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此ノ川高校文芸部★  作者: m8eht
第3章 駆け抜けた先にあるもの
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第17話 「変化」

 そして夏樹への試練は訪れたのである。恒例の体操服にお着替えタイムなのだ。

 自分に正直な者たちは、今度もまた、夏樹の一挙手一投足に注目したが、今回は勝手が違った。夏樹は堂々と着替え始めたのだ。たしかに頬を赤く染め、なにやら恥ずかしそうではある。しかし、それ以外はまさに堂々と着替えはじめたのだ。

 Yシャツを脱いだ夏樹は、さらに何の躊躇もすることなくTシャツまで脱いだ。モロなのだ。モロに見えているのだ。一同は息を呑み、時間の感覚を忘れた。

「すいません、一枚いいですか?」

 クラスメイトで写真部所属のU氏が、夏樹にカメラを向けた。そして夏樹の返事を待つことなくパシャリとシャッターを切ったのだ。夏樹はその方を見もしない。ただひたすら、頑張って着替えているのだ。

「……」

 夏樹はズボンに手をかけた。まだ体操服の上着を着ていないのに、である。無謀だ。パンツ一枚になるつもりか? クラスがざわつく。

「お、おい。お前、いいのかよ?」

 たまりかねた正直者が声をかけた。しかし夏樹はそのクラスメイトをキッとにらんだ。そして大きな声で言ったのだ。

「か、からかうなぁっ! ボ、ボクは男なんだぞッ!!」

 カシャ! ここでシャッター音が教室に響いた。

「そ、そうか……」

 正直者は引き下がった。しかし、引き下がっただけである。夏樹のお着替え鑑賞会は続行したのだ。

(わ、ボク、ちゃんと言えたぞ……)

 一方、夏樹は内心とても嬉しかったのだ。はじめてビシッと言えたのである。まさに上出来というべきなのだ。しかし夏樹は、なるべく平静を装った。そして着替えを終えたのである。良識派代表で柔道部所属のT氏も、その後ろ姿をぽかんと見送ったのであった。


 その日の夕方。南泉は夏樹に、体育館の裏に呼び出されていた。

『今日の放課後、体育館の裏に来てください』

 そんなメールが来たのだ。

 夕日の当たる体育館の裏に、南泉は緊張して立っていた。もし両方男でなければ、まるで告白のシチュエーションだったのだ。

「南泉センパイ!!」

 やってきた夏樹は体操服姿であった。

「どうしたんだよ夏樹?」

「えへっ。ボク、今日、ちゃんと言えたんです。『からかうなー』って」

 夏樹の笑顔には『ほめて、ほめて』と書いてあったのだ。だから南泉は夏樹の頭をなでたのである。

「そうか。よく頑張ったな」

「えへへ……」

 夏樹はされるがままになっている。どう見てもカップルがいちゃついているようにしか見えないのだ。

「あの、南泉センパイ……」

「ん?」

「ボク、これからもちゃんと男らしくなれるように頑張ります……」

「うん」

「そして、ちょっとずつでも、ちゃんと変わっていきたいです……」

「……ああ」

「でも……」

 夏樹は恥ずかしそうにうつむいた。

「またくじけそうになったら、そのときは……またセンパイに甘えても、いいですか?」

 南泉は笑って答えた。

「ああ、いいよ」

「わ……うれしいな……」

 ポッと頬を染めて、夏樹はそっと両手を合わせるのだ。

「お礼に、ボクのとっておきの秘密を教えます……」

 南泉はドキッとした。なにか雰囲気がおかしいのだ。そして、まるでこれから自分が告白されるかのような錯覚に陥ったのだ。

「西村センパイは、おっぱいとおしり、どっちが好きかってボクに聞きましたけど……」

 ゆっくりと視線を上げて、南泉を見上げる夏樹である。

「ボク……ふふっ」

 夏樹は背伸びをして、南泉の耳もとに口を近づけようとした。南泉は軽くかがんで、夏樹の口もとに耳を向ける。

「ボク、緋奈が好きなんです……」

 耳もとでそっとささやかれた言葉。確かめるように自分を見た南泉に、夏樹はにっこりと笑ったのだ。


 その夜である。西村から四方山に連絡が入った。

「もしもし?」

「『此ノ川カワイイ子』板、見てみて」

 西村はそれだけ言って電話を切った。四方山が自室のパソコンで学校裏サイトを見ると、そこでは動きが生じていた。『此ノ川カワイイ子』掲示板のコメント数が大変に伸びているのだ。コメントをたどっていくと、そこには上半身裸の夏樹の画像が貼られていた。

 画像の中の夏樹はとても真剣な表情をしていた。頬を赤く染めて、そして周りの者たちに何かを訴えかけているようなのだ。そして、なぜかズボンが脱げかかっているところだったのだ。四方山は改めてコメントを読んでいった。

『なんです、これは(しろめ)』

『……ふぅ』

『おい』

『なにがあったの?』

『からかわないでよぅ~、ってキレた』

 四方山はウムと頷いた。どうやら夏樹は今日、男の階段を一歩上ったようなのだ。よし、ちゃんと言えたんだな。まさに上出来だ。そうだ、夏樹君、負けてはならん。理不尽に負けてはならんのだ。四方山はそう強く思ったのだ。そして、これで南泉×夏樹のウワサも立ち消えとなることであろう。四方山は大満足であった。

 しかし、四方山は知らなかったのだ。このときすでに、南泉千紘が白河四天王から脱落していたということを。


 なお、後にこの写真を撮り掲示板にアップロードしたのは、夏樹と同じクラスで写真部所属の写留真之介うつるしんのすけ氏(仮名)であることが判明した。彼は西村の取材を受けて、次のように語ったという。

「はぁ、たしかに、あの写真を撮ったのは自分です。別にたいした意味はないですよ。ただ、シャッターチャンスだと思ったからで。……そりゃあ、シャッターチャンスならシャッター切るでしょ。当たり前じゃないですか。被写体がそこにあったんですから。……え? 男の娘属性? すいません、ヲタ用語は分からないんです。はい? 別に男の乳首見て興奮したりなんてしませんよ。え? オカズにしたか、って? いや、オカズってなんですか。わかんないなぁ……。いや、ほんとに。そんなことないですから。なに言ってるんですか? ……え? 他に、ですか? いや、まあ、ありますけど。え? 5枚三千? あー……5枚五千にならないスか? ……え? いいスか!? マジすか! あ、どーもです(笑)」

 この報告が原因で、四方山と西村との間に小競り合いが生じたが、そんなことは瑣末事である。


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