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此ノ川高校文芸部★  作者: m8eht
第3章 駆け抜けた先にあるもの
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第16話 「南泉千紘と夏樹蒼太」

 冬原と東堂に案内されて、南泉は通い慣れぬ道を夏樹家へと急いでいた。南泉の心臓はドクドクとはやがねを打っていた。南泉は緊張していたのだ。

(これから何が起こるだろう? わからないけど、でも、今は夏樹のそばに行かなくちゃ)

 南泉はそう思ったのだ。そして南泉の心は中学生のときに果たした運命的な出会いの思い出へと引きつけられていくのである。


 中学生のころ、足を運んだ此ノ川高校の文化祭で南泉は運命的な出会いを果たした。白河光太郎に出会ったのだ。横長の机の上に平積みにされた部誌を前に、白河光太郎は座っていた。何か惹かれるものを感じ、南泉は一冊買って帰ったのだ。そして読み終えるころには、新しい白河ファンが誕生していたというわけである。

 その後、南泉は此ノ川高校に進学し、文芸部へと入部した。文芸の道を歩き始めたのである。そして1年の秋。南泉は文化祭に出す部誌に処女作を寄稿したのだ。それは全く熱い友情物語であった。中学校に上がってイジメにあった少年ヒロキ。ヒロキは親友のハルキをいじめに巻き込んでしまわないように距離を置こうとするが、それを察したハルキに怒られ、やがて二人は協力してイジメを克服する。そういう話である。その一部分を紹介しよう。


「なに言ってんだよ! オレとお前は友だちだろ!? 親友だろ!? どうしてそんなこと言うんだよ!!」

「だって……」

「お前、自分のことばっかりじゃん!! オレの気持ちはどうでもいいのかよ!? お前のこと、ずっと親友だって思ってた、今でも思ってる、オレの気持ちはどうでもいいのかよ!?」

 肩をつかんで揺さぶられる。ボクの目の前がぼやける。ボクは本当にひどいことを言ってしまったんだって分かった。

「ごめん……ごめんね……」

 ボクはみっともなく泣いてしまった。涙を止めようと思っても止められない。

「いいんだ。オレも、ごめん」

 泣いてるボクを、ハルキはやさしくなぐさめてくれたんだ。


 と、このような感じである。なんと熱い友情物語であろう。四方山などはあまりの熱さと南泉の美貌とのギャップに、思わず笑いそうになったのだ。しかし。しかし、白河部長は一読後、力強くうなずいて言ったのだ。

『うん。こうでないといけません』

 四方山はハッとした。そして、人知れず深く反省したのだ。そう、超絶イケメンというだけで、色々なゴタゴタに巻き込まれてきた南泉は、まさに友情というものに憧れていたのである。そして今まさに、南泉の友情に篤い心は発露の機会を得たというわけなのだ。


 さて、夏樹家に到着した南泉一行は、玄関のインターフォンを鳴らすわけである。扉を開けて出てきたのは夏樹そっくりの夏樹ママだ。

「あら、緋奈ちゃん、いらっしゃい!」

 冬原を愛想よく迎えた夏樹ママは、すぐに冬原の後ろに立つ南泉と東堂に気が付いた。

「あらぁ~」

 驚くのも無理はない。圧倒的なイケメンと妖艶さを隠しきれない清楚系ビッチがそこに立っていたのだ。

「文芸部のセンパイなんです。あの、蒼太に会いに来て……」

「あの、オレ、南泉っていいます。蒼太くんに会いに来たんです。上がってもいいですか?」

「あ、はい~」

 南泉にポーっとなっている夏樹ママである。

「オレに任せてくれ」

 冬原と東堂にそう告げて、南泉は一人、階段を上がっていく。


 夏樹ママに教えられた部屋の前に立ち、南泉は扉をノックした。コンコン。

「……夏樹?」

 部屋に向かってそう呼びかける。

「……えっ、南泉センパイ?」

 ドアの向こうで夏樹の声がした。

「入っても、いいか?」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 しばらくしてドアが開いた。うつむいて目を合わさない夏樹である。

「……ど、どうぞ」

 南泉は夏樹の部屋へと入る。正体不明のいい匂いがこもっている。男の部屋なのに、である。南泉は夏樹のベッドに腰掛けた。手慣れすぎである。これこそリア充が友人の部屋に入ったときにとる手順なのだ。

「……見たよ。オレと夏樹が写ってた。よく撮れてたよな」

 しばしの沈黙を破って、南泉が言った。

「南泉センパイ、ごめんなさい。ボク、巻き込んじゃって……」

 なぜか南泉の隣に座る夏樹である。

「気にすんな。このイケメンフェイスを見ろよ。相変わらずモテすぎて困ってるんだ」

「え……?」

 夏樹は南泉を見た。優しく微笑む南泉。南泉もたまには冗談を言うのだ。

「南泉センパイ……」

 ちょっと笑う夏樹。しかし、その目にはすぐに涙が浮かぶのだ。

「センパイ、ボク……ボク、男らしくなりたいなっ……! 本当に男らしくなりたいなっ……! だってっ……!」

 夏樹の目から涙があふれて、こぼれた。

「ボク、男の子なのにっ! こんなに女の子みたいだからっ! みんなにからかわれてっ! ボク、どうしたら、いいんですか……っ!」

「夏樹……」

「体操服に着替えるときだって、みんながボクのこと、見るんです……っ! ボク、恥ずかしくって……」

 南泉は夏樹の肩を抱いて、ぐいっと自分のほうへ引き寄せた。

「あっ……」

 すっぽりと南泉の腕の中におさまる夏樹。南泉はこういうことをやったのだ。夏樹の胸はドキドキと高鳴った。男同士でもスキンシップをやると、そういう趣味でなくとも、無駄にドキドキしてしまうケースはあるものである。

「南泉センパイ……」

 目を閉じて、はかなげな表情の夏樹。この光景を見る人があれば、しあわせすぎて戸惑う可憐な少女とその男前な恋人に見えたことであろう。しかし、その実情は両方とも男なのである。

「見た目が女の子だろうと、夏樹は男なんだ。堂々としてたらいいさ」

 腕の中の夏樹に、ささやくように言ったのだ。

「夏樹。人は、きっとすぐには変われないんじゃないかな? きっと少しずつ変わっていくしかないんじゃないかな? オレはそう思うんだ……」

「はい……」

「小さな成功を積み上げていこう。小さな達成感を積み上げていこう。最初は堂々と体操服に着替えられるようになる、っていうのはどうかな? 夏樹は男の子なんだから、裸を見られたって平気なはずだろ? 恥ずかしがるから、みんな面白がって、からかうんだぞ?」

 これは経験に裏打ちされた適切なアドバイスと言えよう。

「からかわれたら、『からかうなぁっ!』って言ってやればいい。できそうか?」

「……はい。ボク、がんばってみます!」

 もう一度、目もとをぬぐって、赤く泣きはらした目のまま、にっこり笑って見せた夏樹であった。

「夏樹、それからもう一つ」

 南泉は言葉を継いだ。

「一人で傷つこうとするな。夏樹がどんなに願っても、そういうことを言うヤツはいなくならない。だから、一人で傷つこうとするな。夏樹のまわりに、夏樹のことをわかってくれる仲間を作るんだ。人間には誰だって自分を肯定してくれる人間が必要なんだ。受け入れてくれる仲間が必要なんだ。なぐさめられるって恥かな? 男だからって黙って一人で傷ついていないといけないのかな? オレは……違うと思う。だから夏樹。つらいときは誰かに甘えろよ。気持ちを立て直したら、また頑張れるからな?」

「南泉センパイ……ボクに勇気をください」

 夏樹が南泉の胸にぎゅっと頬を寄せた。南泉はそれに答えて夏樹を強く抱きしめる。どう見ても愛し合う二人にしか見えない。しかし、これは要するに男同士で抱き合っているのだ。すなわち、友情というものなのである。

「南泉センパイの腕の中、とっても落ち着きます……」

 うっとりしたようなため息とともに、夏樹は言うのだ。

「南泉先輩のお話みたいですね。こんなふうに二人でいて……」

 南泉はドキッとした。

「南泉センパイはハルキみたい……」

 率直に言って、南泉はうれしかったのだ。自分の書いたお話が夏樹の心に在ったからである。やがて夏樹は、南泉の胸からそっとほおを離した。

「はい、充電完了です! ボク、がんばれそうな気がしてます!」

 そう言ってにっこりと笑った。

「ああ」

 南泉は笑顔で応えた。夏樹が元気を取り戻して嬉しかったのだ。


 そのころ、階下のリビングでは女三人の話が弾んでいた。

「それにしても、あの子、かっこいいわね~。オバちゃん、ぽ~っとしちゃった! 緋奈ちゃん、ウチのパパには内緒よ~?」

 夏樹ママというのはどうも自由奔放な性格のようである。

「ねえ、あの子、あなたのカレシなの?」

 そして、そんなことを東堂に聞くのだ。

「いえいえ、ちがいます~」

 余裕たっぷりの笑顔で答える東堂は、たしかに悪女のようであった。

 そんなところへ、夏樹と南泉が下りてくるのだ。

「緋奈、東堂センパイ。心配かけてごめんなさい。でも、ボク、もうだいじょうぶだよ!」

 そこには明るく立ち直った夏樹がいたのだ。

「ママ! ボクにもおやつ! 南泉センパイの分も!」

「はいはい」

 こうしてなんとも平和なおやつの時間が始まるのであった。


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