第14話 「校外活動(映画編)」後編
なんだかんだで楽しんでしまった。そんな感想を持ちながら映画館の廊下へと出た四方山は、そこでギョッとしたのだ。
「ぐすっ……」
夏樹が泣いていたのである。
「な、なによっ! みっともないでしょ!?」
そう言う冬原の目も赤くなっているのだ。ギクリ。四方山は大いにギクリとした。新しい感性が、新しいジェネレイションが育ちつつあるというのだろうか?
文芸部一同のそばを、この映画のメインターゲットである女子児童たちとその親御さんたちが通り過ぎていく。
「はいっ、これあげる!」
一人の女子児童が夏樹にあめ玉を差し出した。
「ありがとう!」
夏樹は涙をぬぐって、笑顔で受け取ったのだ。
「バイバイ!」
手を振る女子児童。そしてその隣の母親らしき人物は笑顔で会釈するのだ。
「スゲェ……」
その光景を見ていた西村がつぶやいた。いつも通学路などでこの国の未来を担う皆様に例のピヨピヨ鳴るやつでハントされそうになっている西村なのだ。それはまさに心情の吐露ともいうべき一言であった。
「もうっ! はずかしいんだから……」
手を振り返す夏樹を見ながら、冬原は言ったのだ。しかし、そこへ……。
「どーしたのっ?」
からかうように言いつつ、東堂が冬原を後ろから抱きしめたのだ。
「な、なんでもない、です……」
冬原は特に嫌がることもなく、そのまま抱きしめられているのだ。おや? 四方山はそう思ったのである。いったいどうしたことだろう? そのとき、西村が四方山の背後に回って言った。
「ねえ、ノブくん、知ってる?」
「ん? 何をだ?」
「白河夫人(仮)はメガネからコンタクトに変えたことでモテまくりはじめたんだ」
「……それがどうした?」
「もしかしたらさ……白河部長と付き合うまで、このまま百合営業モードで乗り切るつもりなのかもしれないね……」
「……」
四方山には、西村の言ったことの意味が分からなかった。しかし、四方山のカンは告げていたのだ。分からなくてもいいし、分かってもしょうがないと。
「緋奈ちゃぁん! ちょっと東堂さんのこと、『お姉さま』って呼んでみてよ」
西村が冬原をからかった。冬原はチラリと東堂の方を見る。
「はぁ? なんでよ……」
ムッツリしながらそう言うのである。東堂はそんな冬原を抱きしめたまま、右に左にと揺するのであった。
さて、一同は映画館近くのファストフード店、マッシュバーガーにやってきた。ここで食事をとりつつ映画の感想についても語り合おうという趣向なのだ。
四方山はここでも例の白い封筒を取り出した。
「あれ? ここも部費から払うんですか?」
南泉に聞かれ、四方山は堂々と答えたのだ。
「ああ……まあ、そうだ」
南泉はカンが鋭いところがある。四方山は気取られていないか、やや心配になったのだ。
それはそれとして、ポテトをつまみつつ、先ほど観た映画の感想を語る部員たちである。その光景を前にして、四方山は感動していた。全く感動していたのだ。なんだかんだで、やはりリア充的なことに憧れていた四方山なのである。
『ファストフード店でダベる』
まさに四方山の夢の一つが叶ったのである。さすがに涙はなんとかこらえていた。しかしポテトフライの塩辛さが自分の涙に由来するものではないか、という錯覚は持ったのだ。そんな恍惚状態のまま、いっそうリア充感を出すために、四方山は感想トークに割り込んだのだ。
「しかし、だ。いくら魔法が使えるとはいえ、彼女達は中学生だ。まわりの野郎どもは何をしてたのだ? 女子に守ってもらうなんて感心しない。男というのは、こういうときに体を張れなきゃいかんのだ。そうだろう?」
しぃんとする。おや? 四方山は何かを踏み外した感じを覚えたのだ。
「……あのさ、ノブくんのアダ名が一時期、『旧世代』だったって話、したことあるっけ?」
西村は言うのだ。
「聞く?」
「いえ、必要ないです」
北峰はメガネのつるを中指で押し上げながら言うわけだ。
「だいたい想像つきますから」
四方山は大いに困惑したのだ。自分のアダ名が一時期とはいえ、『旧世代』だったことを今の今まで知らなかったからだ。
「夏樹くんと緋奈ちゃんはどう?」
「え? ……えへへ」
困ったように笑う夏樹。わざわざ説明されなくても、そこらへんは分かっている。そういうような笑いなのだ。そして冬原に至っては、さりげなくジュースのストローをくわえて、今話せないアピールをするのだ。
「おい、西村君。俺がいつ……」
「そうだ、あのさァ……!」
西村は四方山の言をさえぎるように提案するのだ。
「キュアラって漫画版も出てるんだよね。後で買いに行こうよ」
「あ、いいですね!」
夏樹はすっかり『魔法少女キュアラXX』が気に入ったらしいのである。
「行きましょうよ! ねっ、緋奈も行こ?」
「や、やーよ」
冬原はムッとしながら、顔を赤らめるのだ。
「はずかしいでしょ?」
「いいよう! ボク、南泉センパイと行くもん!」
油断するとガールズトークに見えてしまいそうになる四方山なのだ。
「ね、南泉センパイ!」
「え、あ、おう……」
下手をすると南泉も二人より少し年上の女性に見えてしまう。四方山の目はまさに眼精疲労一歩手前だったのだ。
「行きましょ、南泉センパイっ!」
店を出ると、夏樹は南泉と腕を組んだ。それはそれはナチュラルに腕を組んだ。
「お、おい、引っ張るな……」
道行く人々が、思わず笑顔で見送る二人は、どこからどう見ても素敵カップルのようであった。そんな二人を見送る四方山のかたわらで、西村は言った。
「僕の方が詳しいのに……」
その哀愁漂う横顔を見て、四方山は大いに溜飲を下げたのだ。それにしても、である。
「うむ。知的好奇心のままに動くとは、まさに文芸部の部員にふさわしいな」
夏樹の中には文士となるにふさわしい素質があるようなのだ。
「ぜひ、白河派の文士として仕上げたいものだ」
四方山はそう考えたのだ。そんな四方山のわきを東堂が追い越していく。
「四方山くん、ごちそうさま」
すれ違いざまにそう言いながら、追い越していったのだ。後に続く冬原は、言葉の意味を図りかねて、東堂と四方山の顔を交互に見た。北峰は軽く頭を下げていく。
「やっぱバレてるじゃん」
西村はいつだって四方山に厳しい現実を突き付けるのである。
「……」
それはそれとして、なにはともかく、楽しい一日であった。それはそれは楽しい一日であったのだ。




