第14話 「校外活動(映画編)」前編
時はゴールデンウィークである。
行楽日和の気持ちのよい日差しの下、駅前広場の雑踏の中に、四方山信国の姿があった。ゴールデンウィーク中に文芸部としてのイベントも欲しい。そういう理由で四方山が映画鑑賞会を企画したのだ。そして今まさに部員達が集合するのを待っているのである。
いちばん最初にやってきたのは、西村である。一人待つ四方山の姿を見て、ニヤリと笑った。そして、聞こえよがしに独り言をはじめるのだ。
「あーあ……今日一日、ノブくんの思い出作りを手伝わされるのかァ~。哀しいな~。でも、ノブくん、ぼっちだからなァ~。僕たちしかいないんだよな~。しょうがないかァ~」
失礼なことを言う男である。四方山にもそれなりに家族との予定などがあったのである。しかし、白河部長との思い出が四方山を突き動かしただけなのだ。
次にやってきたのは、東堂と南泉である。どうやら途中で一緒になったようである。雑踏の中を二人が歩いて来る姿は本当に絵になる。圧倒的なイケメン・イケジョっぷりである。しかし、不思議と美男美女カップルという感じはしない。どうにも姉弟といったふうに見えるのだ。
「なんだろうね。清楚系ビッチがキープしてるイケメンを連れまわしてるみたい」
そして西村の例えはろくでもないのである。
東堂・南泉と合流し、次にやってきたのは夏樹と冬原である。家が近いこともあって、二人は連れ立ってやってきたようだ。それにしても、と四方山は思うのである。本当に女子が二人連れ立っているようにしか見えないのだ。と、夏樹が四方山たちに気付いて大きく手を振った。
「百合っぷるかな?」
西村の口から耳慣れない単語が飛び出した。しかし、四方山はその意味を問おうとはしない。どうせろくでもないからだ。
「先に行って、まとめてチケット買ってくるよ」
後は北峰だけとなったところで、雑談する部員たちを横目に、西村が四方山に手を差し出した。
「そうか」
四方山はなんの変哲もない白封筒を西村に手渡した。中には金三万円が入っている。これは、いわゆる四方山資金である。すなわち、例えば放課後などに別の惑星から来た少女と出会い、その少女を追いかけてきた謎の黒服集団から逃げ回るための資金である。四方山にはセンチメンタルな空想家の一面があるのだ。しかし、今回は映画の鑑賞費として支出するわけである。
西村が映画館へと赴き、待ち合わせ時間ぴったりに北峰が来たところで四方山は一同を前に演説をした。
「諸君、今日はよく集ってくれた」
その日はとてもよい天気であった。空が抜けるように青くて、風もきらめいているようなのだ。
「今日は、文芸部の課外活動で映画を鑑賞する。ついでにご飯も食べる。もって部員同士の親睦を図ろうという企画なのだ」
この企画は、断じて四方山がぼっちGWを回避するために文芸部諸氏を巻き込んだわけではないことに注意をするべきだろう。
「ともかく、今日は楽しい一日にしようではないか」
「春川センセイはどうしたんですかっ?」
夏樹が聞く。
「春川先生は用事があって参加されないとのことであった」
「彼氏さんとお出かけかな?」
いたずらっぽい口調で投げられた東堂の言葉に、四方山は大いにギクリとした。キャラが変わりすぎている。四方山は大いにどぎまぎしたのだ。あわてて取り繕い、一同を映画館へと促すのであった。
映画館に着くと、カウンター近くにいた西村が四方山たちに寄ってきた。
「どうだ、西村君。チケットは買えたのか?」
「まあね。はい、お釣り」
西村が四方山に白封筒を手渡した。
「え、あ、あのお金、払います!」
夏樹があわてて肩掛けカバンから財布を取り出そうとする。
「いいんだ、夏樹君。部活動なんだから部費から支出する」
四方山は堂々と言い放った。
「そ、そうなんですか?」
「そうだよう夏樹くぅん」
西村が変な笑顔で応じる。おそらくは気付いているのだろう。四方山に渡されたお金の正体に。
「今日はちょっと、こういうものを観てみようか」
ニコニコしつつ部員たちにチケットを配る西村である。そのチケットの演目の欄には『魔法少女キュアラXX』と書いていたのだ。
「これね~、僕のオススメ! てへ」
てへとは何だ。可愛くないのだ。ぜんぜん可愛くないのだ。
「まほうしょうじょ、きゅあら、えっくす、えっくす……?」
「それね~夏樹くん、ダブルクロスって読むんだよなァ~」
なぜか得意げな西村である。
「……買ってしまったものは仕方がない。もうこれを観ようじゃないか」
四方山以下、文芸部一同は腹をくくってスクリーン劇場へと向かったのだ。
劇場内に入ってみると、やはり女子児童とその保護者の姿が目立つ。しかし、いわゆる『大きなお友達』の姿も大いに存在感を発揮していたのだ。そうしてみると、そんな中にぞろぞろ入って行く高校生といえども、あまり目立たないということになるのだ。
四方山は今日という日の記念に買ったパンフレットを眺める。
魔法少女キュアラ・ダブルクロス。魔法の力を得た女子中学生たちが街の平和を守るという話である。しかし今回は劇場版ということで危機が国レベルに格上げされていた。それにしても平和を守る活動とは全く感心である。どうしてなかなか、この作品は白河派に親和的でありそうである。たしかに子供向けの映画ではあるが、見てみるのも悪くない。何事も経験だ。四方山はそんなふうに思ったのである。しかし一方で、周りの女子児童たちがお父様やお母様と話す声に、なんとはなしに、座り心地の悪さを感じたことも事実である。
西村は先ほどとは打って変わって大人しくなっている。まさか見に行きたいが一人だと行きづらいから、この機会を利用したというのではあるまいか。四方山はそういう邪推を働かせたのだ。北峰などは普段のスカした顔はどこへやら、すっかり固くなっている。後ろを向いた前の席の女子児童に思いっきり凝視され、あわてて視線をそらす北峰なのだ。
しかしその一方、南泉と夏樹、東堂と冬原は、山盛りのポップコーンとジュースをのっけたトレイを持ち込んで、すっかり場になじんでいた。まさに恐るべきことである。
上映を待つ間、四方山の思考は思い出へと引っ張られていった。
まだ、白河部長がいたころ。そのころには、美術館めぐりやクラッシックのコンサートに行ったりしていたのだ。そして、ときどき白河部長の漏らす含蓄にとんだ深い感想に嘆息したりしていたのである。あのころはよかった。四方山はそう思うのだ。しかし、自身が部長となった今年、四方山は「俺が同じ事をしようとしても、スベるだけだろう」などと考え、映画にしたみたわけである。要するに『感性のアンテナを広げる』ことから『みんなで楽しむ』ことに重点が移動したのだ。これは精神的に見て明らかに劣化である。しかし四方山としては精一杯のことなのだ。それにどうも夏樹や冬原を見ていると、こっちの方がいいような気がしたのである。そう、まずは文芸部のノリに慣れてもらう。そういう路線を今だ走っているのだ。
やがて、映画が始まった。よし。四方山は集中して映画に正対したのだ。
さて、二時間弱の後、映画のスクリーン上では、涙涙の大団円が展開されていた。やはりハッピーエンドこそ至高。白河部長の教えに間違いは無いのだ。四方山は大いに満足感を覚え、大きくうなずいた。すなわち、なんだかんだで四方山は、大いに楽しんだのであった。




