悪女エミリア
「陛下、入ってもよろしいでしょうか」
部屋の中に女性の声が聞こえた。
「ああ、入れ」
「失礼します」
ドアが開いて、入って来たのは一人の女騎士とその女騎士に連れられて手枷を嵌められたエミリアが入って来た。
エミリアが嵌められている手枷には、鎖が付いていてその鎖を女騎士が持っていた。
「ご命令通り、地下牢に入れられていたエミリア・ファニアを連れて参りました」
女騎士は国王に向かって膝をつきそう言った。
しかし、鎖で繋がれているエミリアは、国王に向かって膝をつくことができていなかった。
国王に向かって膝をつかないという行為は、速攻で処罰の対象となる。それが王族であれば話は別なのだが、エミリアは……
そして、エミリアが膝をつかなかったのには理由があった。いや、つけなかったという方が正しい。
彼女の顔は側妃のパーティに参加した時よりもやつれており、体のそこら中に暴力を振るわれたことでできたのであろう、痣のようなものができていた。
また、その服装も、この場にふさわしくないようなボロ切れのような服を着ていた。
そして何よりも、彼女は部屋に入って来た途端にふらっと倒れてしまい、うずくまってしまったのだ。
それだけ、彼女が苦痛を味あわせられたのであろうと簡単に予想できた。
「ふん、エミリア、いいざまだな」
そのエミリアを鼻で笑ったのはスカルだった。
スカルはエミリアのその様子を待ち望んでいたのであろう。
「お前が、ローズの命を狙ったから、自分にそれが返ってくるのだ」
「そうよ。そうよ」
ローズがスカルに同調した。
他のスカルとローズの関係者達も声には出していなかったが、薄い笑みを浮かべていた。
「う、うう、スカ、ル」
エミリアはゆっくりと顔を上げてスカルの方を見て、弱々しい声で言った。
「汚らわしい声で私の名前を呼ぶな」
スカルは、エミリアを蹴った。
やつれている様子のエミリアの体は、彼の蹴りを受けて吹き飛んだ。
「おっほん」
国王がわざとらしく咳をした。
「そろそろ、いいか。私は早く本題に入りたいのだ」
国王のその言葉に口を挟むものなどいないはずだった。本来ならば……
「待って下さい、陛下。まず、この悪女を裁く方が先です」
しかし、この場には常識知らずの男がいたのだ。
「このような悪女は、やがてこの国の汚点となります。早めに殺しておかなければ、国がどうなるか分かったものではありません。ですからこの悪女に死刑を」
スカルは、自身の発言に疑いを持っていなかった。
自身は正義、エミリアは悪という式が頭の中で成り立っていた。
そのことが、彼に絶対的な自信を与えていた。
「そう急ぐな。
それも含めて話をしようとしていたのだからな」
国王は今のスカルの常識外れの行動について、特に言うことはなかった。
国王がそういったことを気にしていない、と言うわけではないのだが、今回だけはある理由からそのことについて言及しなかったのだ。