婚約破棄
この仕打ちは、何なのでしょうか。
私はこの日、側妃様主催のパーティーに参加していた。
一人で。
もちろん、私には婚約者がいる。
だけれども今日彼が私の迎えに来ることは無かった。
普通、それは有り得ない行為。
だけれども、彼はそんなこと気にしていないのだろう。
パーティーなどに行くときは、婚約者などの異性の人物にエスコートされて行くのが常識的であり、一般的だ。
しかし、彼はそれを破った。
しかも、私がこのパーティーに参加するつもりはなど元々なかった。しかし彼から手紙をもらい参加することにとなったのだ。つまりは彼からの誘いなのである。
それなのに、彼は来なかった。
そんな常識的、一般的にありえないことを彼はしたのだ。
別にまだそこまでなら私も笑って許したし、彼も許されたでしょうね。
しかし、この現状はなんだ。
彼は先程こう言った。
『私、ヘルニア公爵家スカル・ヘルニアとファニア伯爵家令嬢エミリア・ファニアとの婚約を破棄し、ここにいるシシリア男爵家令嬢ローズ・シシリアとの婚約を発表する』
もう私は彼を許さないし、彼が許されることはないでしょうね。喧嘩を売ったのだから。売ってはいけない相手に。
彼は婚約破棄を公衆の面前で。一方的にした。
私の元には婚約を破棄したいと言うことも届いていない。もちろん家族の元にも。
本当にやってくれるわね。
さらに言えば、この場は側妃様主催のパーティーで、多くの貴族の方が来られている。
しかもその主催者は、彼の方を味方するでしょうね。
何を隠そう、側妃様は彼の叔母なのだから。
そして、婚約を破棄したと思ったらまた私以外の方との婚約を発表。
彼には、常識というものが備わっているのだろうか。
元々、彼と私との婚約は、政治的なものだ。完璧に。彼しか私の婚約者として立場の釣り合う人はいなかったのだ。
私は、彼のことを好きではなかったし、婚約が決定するまで、一度も顔を合わせたこともなかった。
だけれども私と彼は婚約した。政治的な問題から。
彼はそのことを理解しているのでしょうか。
いいえ、彼に果たしてそれだけのことを理解することができる脳があるかも怪しいですね。
「スカル様、本当に自分のおっしゃっていることを理解なされているのですか?」
「くどい。先程言ってやっただろう。お前とは婚約を破棄すると」
はあ、理解していなさそうですね。
まあ、その方が話が早いから別にいいのですがね。
「一応、婚約破棄の理由をお聞かせしてもよろしいですか」
私は、彼のこの仕打ちを許した訳ではないが、一応彼なりの婚約破棄の理由を聞くことにした。
もしかしたら、彼なりに婚約破棄について深く考えているかもしれないと思ったからだ。
まあ、九十九パーセントありえないでしょうけどね。
「ふん、そんなもの決まっている。お前がローズをいじめ……いや、暴力を振るっていたからだ。そのような者は王太子である私の婚約者にふさわしくない」
「うう、スカル様〜」
彼に先程から甘えるように抱きついていた女性がより一層彼に抱きついた。
彼女が先程から彼の言っているシシリア男爵家令嬢ローズ・シシリアなのでしょう。
っていうか、私、彼女と今まであったことないのだけどね。
彼は、私がどうやって彼女をいじめたというのでしょうか。面識もない彼女を。
多分、彼女も私と同い年ぐらいだから、学園には通っているのでしょうけれど、私は彼女のことを見たことがないのよね。
「スカル様は私が彼女にどのようなことをしたと言われるのですか。詳しくお聞かせ下さい」
「しらばっくれるのもいい加減にしろ。
だが、いいだろう。皆にもこいつの行なっていたことを理解してもらういい機会だからな」
※ スカルが公爵家の長男なのに、王太子と言っているのはわざとです。