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痣浮きて 身動きとれぬ 春の夜

 川を下流へ下っていく。

 不思議な体験をした後で、まだ少し混乱が残っているのか、頭がふらふらする。

 足取りも重い。

 息、上がってきた。

 体、軋む、頭がぼーっとする。


 突如、全身に鋭い痛みが走る。

 思わず体に目をやる。

 手の甲、うで、見える肌中に青色の痣が斑点模様に。

 私はその場に倒れ込んだ。


「おい、誰か倒れてるぞ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「うわっ何だこの青い痣!」

「むやみに触れるなよ! 伝染病か、それとも危険な魔法かもしれん」

「と、とにかく安全な場所へ運ぶぞ! 誰か移動系魔法の使える人はいないか!?」

「____!」

「__」


 周囲で聞こえる会話が徐々に遠退いていくようで、私の意識は途切れた。



 ____再び目を覚ましたとき、私は木製のベッドに横たわっていた。

 視界には、年季の入った 木造建築の天井。

 壁の高い位置にはよく分からないお面や生き物の角らしき物がずらり。

 横に目をやると、棚には大小様々な瓶がいくつも置かれている。

 窓の外が暗い。夜のようだ。


 ぼうっと真っ暗な窓を眺めていると、棚の横にある扉が木の擦れる音を立てながらゆっくりと開いた。

 扉の奥からは、タオルを抱えた少年が部屋に入ってきた。

「おう、やっと起きたか」

 少年はぶっきらぼうにそう言うと、タオルを部屋の隅の籠に置き、また部屋から出ていった。

「ばあちゃーん! 目ぇ覚ましたぞー!」

 扉の向こうで少年が大きな声で呼ぶ。

 すると、部屋の中にもくもくと小さな雲が立ち込め始めた。


「やれやれ、お前さん良く生きとったのう」

雲が晴れると、中からいかにも呪術に長けたという風貌の老婆が現れた。杖をつき、いくつもの数珠をかけ、全身に光り物のアクセサリーをつけている。

「あなたは……?」

「ワシか? ただのまじない師さ。名乗る程のモンでもないわい」

「普段は英雄ヨヨの末裔だって村の皆に言ってるくせに、何が『ただの』だよ、ばあちゃん」

 少年が腕組みをして壁にもたれかかりながら言うと、老婆は「こりゃっ!」と杖で足をはたいた。


「看病してくださったんですよね? ありがとうございます、お婆さん……うっ」

 私はお礼をしながら身を起こそうとしたが、体が軋み上手く起きることが出来ない。

 無理に動こうとしなければ痛むことはないが、全身の青い痣は発症した時より酷くなっているように見える。

「無理せんでええ。ワシにできるのは痛みを和らげることだけ。治せはせんが、その様子で生きとるだけでも大したもんじゃ」

 老婆が優しい口調でそう言うと、少年も、

「俺にも礼を言えよな! もう一週間近く、ずっと看病してたのは実際俺の方なんだからよ」

と続けた。

 一週間……私はそんなに寝込んでいたのか。

「ありがとう。ええと……」

「ロロだ。アンタの名前は?」

「私はキノ。改めてありがとう、ロロ君」


「さて、キノや。スカイフォールで何があったのか、お前さんにちょーっと色々と聞きたいことがある。が、今日はもう遅い。明日の朝、改めてゆっくりと聞かせてもらうぞ」

「あ、はい……私も何が起きたのかよく分かってないんですけど」

「構わんよ。それじゃあの、おやすみ」

「おやすみなさい」

 老婆は再び雲に包まれ、そのまま姿を消した。

「やれやれ、婆ちゃんも家の中でまで魔法で移動しなくていいのにな。」

 少年は普通に扉から部屋を出る。

「おやすみ、キノ。明日の朝になったら死んでるとか、そういうのはやめてくれよ」

 捨て台詞のようにそう言うと、少年は扉を閉めた。


 まじない師の家か……。

 つまりこの痣は、何らかの呪いの類なんだろうか。

 気になることはあったが、体も動かず出来ることもない。

 かと言って今目覚めたばかりで、またすぐに眠るということも出来ない。

 私は自然と睡魔に襲われるまでのしばらくの間、無意味に冴えた目と頭で長い夜を過ごすこととなった。


 この時のことを後で振り返って一句


 痣浮きて 身動きとれぬ 春の夜

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