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残夏の夢路で  作者: haL.
2/6

ウ ソ

 時刻は午後六時をまわっている。日はかなり傾き、そうこうする間に沈みそうだ。鮮やかな夕日が雲一つない淡い群青の空を、茜色へとグラデーションを掛けていた。



 俺の好奇心はいよいよ限界へと近づいてきた。行かないといけない。そんな気がする。あの奇妙な現象を笑い飛ばせない自分がどこかにいるのだ。

 遊園地までは電車に乗って片道三十分程。往復一時間だ。何か適度な理由をつせて外に出よう。そう思った。


 さて、どうしたものだか。友達が呼んでる、と言うのは怪しまれるだろう。夏祭りはもう終わったというのに。夜から友人と遊びにいったことなんて今までたったの一度もないのだから。なら、いっそ正直に話してみるか。いや、それは更に不味いだろう。「助けてって声が聞こえたから、遊園地行ってくる」なんて言おうものなら気でも触れたのかと思われるに決まっている。

 何か良い言い訳はないだろうか。暫く思案している内に俺はあることに気がついた。


 典型的なインドア派である俺は、夏休み中外に出た記憶がないのだ。そして俺は……暫く散髪に行っていない! 延びきった髪は目を覆い隠すほどだ。近所に、この時間でも開いている床屋があった筈だ。俺はとっとと外に出る用意を済ませ、子供部屋のある二階から、一階のリビングへと降りた。予想通り、母は晩御飯を作っていた。


「母さん。ちょっと、髪切ってくるね」


「……」


 返事はなかった。きっと調理に夢中なのだろう。よくあることだ。まあ気にするほどのことでもないので、俺はそのままリビングを横切り、玄関へと歩いていった。靴を履きながら。


「散髪、行ってくるから!」


 大きな声で言った。これだけ言うと分かるだろう。もし通じていなかったとしても、きっと携帯に連絡が来る筈である。準備は万端だ。玄関のドアを開け、俺は久々の外へと踏み出した。



 日は沈みかけていて、辺りは薄暗かった。カラスの鳴き声に哀愁を感じながら、俺は駅に向かって歩いて行く。駅までは十五分程であった。











 電車に揺られながら外を眺める。この辺りは郊外……はっきり言って田舎だ。都市からはそう離れていないものの、相変わらず電車に人は少ないし、車窓からは田畑が多く見受けられる。のどかな反面、不便な点は多い。もっともそれが俺にとっては「普通」であるから、特別不便とは思わないのだが。


 夏休み中ということもあってか、夜だというのに遊園地に近くに伴って電車に人が増える。ただ単に都市に近づいているからというのもあるだろうが。


 次第に増える喋り声。


「なーちゃん、静かになさい」


「はーい」


「でもね、あのね、きのうゆめをみたの。でっかいおほしさまがね……」


 三十代前半であろう女性とまだ小さな女の子の声。


「で、凄かったんですよ! それが! といのもですね……」


「ほうほう。なるほどね。ところで仲山くん、今夜一杯どうだい」


 仕事終わりであろう、二、三十代サラリーマン達。十人ほどで喋っている。でも…近くに若者の集まるような会社なんてあったっけ……。


 そんなことを考えていると車掌のアナウンスが聞こえた。


「えー、新寺北。新寺北。遊園地にお越しの方は……」


 プシュー、と音と共にドアが開く。俺は迷うことなく外へ出た。外はもう完全に暗くなっていた。


 プシュー、と閉まる音を聞きながら俺はついうっかり後ろを振り返ってしまった。途端に目に飛び込んできたのは無人の電車。先程まで賑やかだったのに、親子連れもサラリーマン達もきえていたのだ。冷風に背中を撫でられたかのよう感覚。

 見、見間違いだ。人が消える筈がない。気のせいだ。必死に自分に言い聞かせ、俺は遊園地へ急いだ。

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