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残夏の夢路で  作者: haL.
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ノ イ ズ

 ノイズが聞こえる。俺のノートパソコンが唸っているのだ。その音は、まるで誰もいないのかと錯覚するような俺の部屋の静寂と、安眠を切り裂いた。


「ん……んん」


 声にならぬ声をあげながら目を薄く開ける。赤みのかかった光が入ってくる。もう夕方の時分であろう。母が夕御飯を作るまでにはまだ幾分か時間があるし、さらに、もう終わりかけではあるが夏休み中ということもあって、特に明日のことを考える必要もない。もう一眠りしたい気分だ。ところが、


 ザー……。ザーザー。


 ノイズが煩い。


 いい加減しびれを切らした俺はベッドから這い出し、近くのデスクの上のノートパソコンへと目を遣った。頭はまだ半覚醒状態で寝ぼけているが、不気味な状況であるということだけは優に理解できた。というのも、パソコンの液晶画面がいわゆる「砂嵐」になっていたのだ。単に壊れてしまったのだろうか。取り合えず俺は出鱈目にキーボードを打ち込んだ。しかし反応はない。相変わらずの砂嵐である。そして困った末に電源ボタンを押してみることにした。だが……。


「困ったなぁ……」


 そんな声がふと口から漏れた。電源ボタンも効かなかったのだ。いったいどうしたものであろうか。


 しばらく考え込んでいると、ノイズの音が一段と高くなり……。声が、いや、声に近い「ノイズ」が聞こえた。


『ヴォ……ガイ……ココカ……ダ……テクダ……イ』


 俺の耳には、お願いここから出して下さい、と聞こえた。男性とも女性ともとれない機械音声で、である。ますます気味が悪い。体はびくともしないが、心臓は既に連符を刻んでいる。そんな俺をよそに、パソコンの中の「誰か」は続ける。


『シンジ……タユウエ……チニハヤ……キテ』


「何? 新寺北遊園地?」


 思わず声が出た。なぜかは分からない。ただ、漠然ともやもやとした気持ち、例えるならば喉に何かが引っ掛かったような感覚に襲われたのだ。


 新寺北遊園地。最後に行ったのはいつだっけ。確かに数年前、俺と妹と父と母の家族全員で行った気がするのだが……。思い出せない。覚えていないというより、記憶そのものが抜け落ちていると言った方が正しいだろう。妙な違和感。先程のノイズの音声が俺の脳内で反芻される。


 「遊園地に助けに来い、だって」


 まるで俺の問いかけに答えるかのようにプツッと、パソコンの電源が切れた。同時に砂嵐も止んで、液晶パネルは素知らぬ素振りで黒い顔を貫いている。俺の部屋はまたひっそりとした静寂を取り戻した。


 誰かのイタズラであろうか。にしても手の込んだことを。ここで「さぁ、遊園地に助けに行くぞ!」と言い出すほど俺は馬鹿じゃない。けれど、どこか心に引っ掛かるのだ。記憶の中のパンドラの箱を開けてしまった気分だ。脳内は好奇心に満ちている。たが、それを知る術を俺は持っていない。確かめるには……行くしかないのか。

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