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転移した世界より  作者: 海野 絃
崩壊都市サンドウッド
9/50

なまじ知識の素人君

「傷口は大丈夫ですか?」

 サンドウッドに生存者を見つけることはできなかった。歩けば歩くほど…死体が転がっていた。サンドウッドの生き残り…なにか主人公めいたものを感じる。

「痛いですし、不便ですが…大丈夫そうです」

 10分くらい見回りをし、死体の数々を眺めて拠点に戻ってみると、クリアさんは着替えを終えていた。動きやすい男物の服装に左腕が目立たない茶色いローブを羽織っていた。その装いはまるで旅の賢者みたいだ。青髪もポニーテールにまとめられていて、剣でも持たせたら強そうに思える。

「早いところ医者に見せた方がいいですよ。細菌とか怖いですし」

 僕が座ると、クリアさんも正面に座ったが、何やら不思議そうな顔をしていた。

「サイキン?何のことですか?」

 僕が何気なく口にした「細菌」という言葉を彼女は知らないらしい。とはいえ、僕も学者じゃないから説明しようにも…言葉に迷う。

「僕らじゃ視認もできない小さな生き物みたいなものですが…」

 細菌学は顕微鏡の登場から急速に発展した…つまり、この世界には顕微鏡がないということだろうか?ガリレオ・ガリレイが望遠鏡を使って星を観測したのが1600年前後だったように思うから…武器が火縄銃であることを考慮すると、やはり文明はルネサンスより前になるのか。僕の高校時代に学んだ世界史の知識だけど…外れじゃなさそうだ。

「例えば、死体を土に埋めると、先に肉だけがなくなり骨だけとなることが多いでしょう。それは土に住む目に見えない小さな生き物達が死肉を喰らうからです。イメージするなら…ウジ虫がさらに小さくなった感じ?」

 そうそう。傷口に入り込むウジ虫のグロいこと……………って?

「ウジ虫が!」

「え?」

 僕は咄嗟に立ち上がってしまった。しかしながら…

「あの…どうしました?」

 ウジ虫って傷口の壊死した肉を食べて繁殖する生き物だよな?ハエの幼虫で、戦地で負傷した兵士を苦しませたという…もしかしたら、彼女の傷口にもいるんじゃないのか?それってマズくないか?でもウジ虫が人を殺したなんて事実は聞いたことがない。あ…でも待て…

「ウジ虫って…マゴット療法…」

 そうかマゴット療法だ。テレビで見たことがあるぞ。壊死した組織をウジ虫が食べるから傷口が割と綺麗な状態になり、治癒が早いって…………数千年前に東南アジアで医者が用いたという伝統的な治療法だったんじゃないか?近代戦争においても、負傷した兵士がウジ虫の湧いた傷口は治癒が早いって経験論で語り、マゴットセラピーとまで言われる…

「あの…トシさん?」

 じゃあ…ウジ虫が傷口に湧くのは喜ばしいことなのでは?

「あぁいえ…ハハハッ」


 ゆっくりと座った。素人の中途半端な知識はあてにできないな。でも、あてにできないからこそマゴット療法を否定できるのでは?テレビの情報がどこまで正しいのか、さっぱりわからん。

「やっぱり、早く医者に見せないと」

 そもそも巨人や動くカカシがいる世界に僕が想像するようなウジ虫がいるとも思えない。この世界にいるウジ虫が壊死した肉以外も喰らう凶悪種だったら、僕は責任を取ることもできないぞ。

「ええ、そのことなんですが」

 どうやら僕がいろいろと無駄に考えている間にクリアさんも何か考えていたらしい。

「サンドウッドから西の方角にある要塞都市ミッフェルトという街に行ってみませんか?」

 要塞都市……王国軍が駐屯しているとかかな?僕的にはクリアさんの提案に乗るしかないわけですし、特に考える必要もなく、頷くことしかできない。

「え~っと、距離はどれくらいに?」

「徒歩で砂漠越えになりますから…丸3日ほど」

 砂漠越えか。尚更、僕は道を知っていそうな彼女について行かなければなるまい。1人で別行動したら、ほぼ間違いなく遭難するだろうて。

「わかりました。急ぎ、準備に取り掛かりましょう」

「はい。お願いします」

「こちらこそ」


 成り行きで握手を交わす。僕はその自然な流れに乗って、立ち上がると同時に握手で繋がれた彼女を引っ張り上げた。

「あ…ありがとうございます」

 片腕で生活することとなった彼女の苦労は底知れない。僕の理解や推測が及ぶ簡単な問題でもない。しかしながら、手を貸すことくらいはできる。

「いえいえ、ミッフェルトへの道順を知っているのはクリアさんだけですから、僕ができることと言えば…あなたに手を貸すことぐらいなので」

 それに…………………

「クリアさんがいないと、僕は路頭に迷ってしまいます。方向音痴なもんで」

 可能な限り、可能な限り彼女との信頼関係の構築に努めるべきだ。僕はこの異世界のことをもっと知らないといけないのだから。

「では、お互いに助け合うということで」

「何でも言ってください。それなりに身体は丈夫ですから」

「じゃあ………すみませんが、私はここで3日分の食料等の整理をしますから、トシさんはもう1度、商店街でバッグを探してきてもらえませんか?確か、商店街には軍需品を販売していた店があったかと」

「……あそこかな?…わかりました。荷物の方はお任せします」


 そもそも何でこんなことになっているのか…いい加減、真面目に考えないと。

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