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転移した世界より  作者: 海野 絃
地下牢サンドウッド
2/50

牢より来たりし物語

「どうしてこうなった!」

 犯罪とは縁がなかったはずの僕、それが今、魔王軍の手先とか言われ…牢に入れられてしまった。入れられた根拠はたぶん…ビジネススーツを着ていたからなのではないだろうか?見たこともない装いに警戒してしまっただけだ。話せばわかる…はず。

「参ったなぁ…」

 地下の悪臭漂う牢は三方を壁に囲われ、湿度が非常に高く…床に敷かれた藁はヌメヌメしている。錆びついているが丈夫な鉄格子は僕らを閉じ込め、面する廊下は狂人達の叫び声を響かせる。僕はビジネススーツ一式とトランクスまでも没収されると、着心地の悪い黄ばんだボロ服を着させられていて、衛生環境の悪いことこの上なかった。


「出せや!ごらぁぁぁぁぁああああああ!」

「黙れ!」

 僕は鈍い打撃音を耳にしながら、入って左側の壁にもたれて座った。すると…正面にはこの牢の同室者を捉える形となる。その同室者は体育座りをしたまま、頭を壁につけ、天井をボーッと眺めていた。燃えるような赤色の髪を持った同い年くらいの男性で、結構なイケメン、大人しい系だな。攻めか受けかで言うと…十中八九受けだな。

「あの?初めまして」

 とりあえず話しかけてみる。

「…?」

 顔がこちらを向き、目が合った。しかし彼から返球がない。それでも首を傾げているのだから「何か?」とでも言っているのか。ならば、一方通行じゃないはず。

「え~っと…敏夫って言います。なんか大男に連れられて」

「……………………………………………………クート」

 間が長い。でも、返ってきた。クートというのは名前だろう。

「クートさんはどうしてここに?」

「…………………………同じ理由」

「あ~、大男に?」

 頷いた。では、あの大男は投獄することを仕事にしているということか。

「………………………大男、名前はゴッタス…………………伯爵家の御曹司」

 あの大男が貴族?…ってか、意外とクートさんが話してくれる。この調子なら、この人から情報を聞き出せるかもしれないな。


「すみません、ここってどこですかね?」

「…?」

「あぁいえ、遠方から地図なしの旅をしておりまして…」

「……………ここは魔国と王国の国境に最も近い街…サンドウッド」

「なるほど。だから民兵とかいう人々が決起集会を開いていたのか」

 それとなく呟いた言葉にクートさんの眉がピクリと動く。

「…………………それは本当?」

「へ?」

「…………………民兵が集まっていた?」

「えぇ、勇者?に続くみたいですよ?」

 僕が見たことを言ってみると、クートさんは怯えた表情になり、頭を抱えて丸くなった。


「クートさん?」

「………………また大勢が死ぬ」


 クートさんの肩が小刻みに震えた。やっぱりいつの時代にも、戦争に怯える人はいるものだ。

「辛いけど、戦争ですもんね…」

 僕がそう言った途端だった。


「違うっ!」

 さっきまでとは違い、クートさんはいきなり大声を上げた。

「ちょ…クートさん?」

「あいつらは僕らを殺しに来る!あれは戦争じゃない。虐殺だ!僕らはただの獲物にすぎない!勇者だって何人死んだ!もう嫌だ!助けて…!」

「落ち着いてください!どうしたんですか!」

 何やらクートさんが錯乱状態になっていたので、慌てて駆け寄り、震える肩に手をやるも…

「触るな…!」

 振り払われてしまう。聞きたいことがまだたくさんあるというのに、妙な地雷を踏んでしまった。


「クートさん…」

「もうダメだ…おしまいだ…」

 その言葉を最後に、クートさんは丸くなったまま…何も話さなくなってしまった。

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