1.不審者が誰か
夜街に灯る色とりどりの電球は冬場の澄んだ空気に良く映える。赤と緑を基調にした金の星を目印に。
クリスマスがやってきた。
ちらちらと降り出した雪を見上げ人々はどこか嬉しそうだ。
少年はそんな人々の顔を見つめ、クリスマスツリーを見上げ雪を目にして顔を歪める。
しばらく空を見つめ続けた後、街の雑踏に消えていった。
今年もクリスマスがやってくる。
街はクリスマス色に着飾り大きなツリーと赤い靴下の準備もできた。
聖夜までまだ5日もあるというのに何処でも彼処でもサンタクロースは引っ張りだこだ。
街には少しばかり浮わついた意味も無く幸せな空気が満ちている。それは家に灯る暖かな光。恋人同士の熱い語らい。雪にはしゃぐ子供達の姿。
そこに突如、冷水を浴びせるようなニュースが飛び込んできた。
電化店ではその時『三分でできちゃうクッキング〜一晩寝かせた物が此方に〜』や『クマモと行く城修繕の歴史』『今日の鎌鼬』など数十台のテレビそれぞれに映されていた画面が一斉に切り替わり一つのニュースに独占された。
『番組の途中ですが速報をお送りします。本日未明、街を散策していたサンタクロースが何者かに襲撃を受け殺害されました。犯人は捕まっておらず警察は周辺地域への警戒を呼び掛けています。尚、現場では以前から不審な男が目撃されておりその男の行方を追っています。特徴はーー』
例えば、久々の休みにたまたま高画質画面でテレビゲームをやろうと思い立ちブラウン管テレビに別れを告げ数々の液晶テレビを思う存分検分していた所に流れる速報のニュース。
別によくあることだと思う。
それが殺害事件!まあ、あるだろ。
被害者がサンタクロース!季節限定か!!
続いて流れる不審者情報をふんふんと呑気に聞いていたのは三秒前のこと。
例えば、例えばだ。
仮に目の前のテレビで殺人事件のニュースが流れたとして被害者はサンタクロース、その犯人は捕まっていない。その後不審者の特徴が流れたとしてーー
『二十代後半と見られ身長は百八十センチ前後、白い長髪。象牙色のニット編みダッフルコートに黒いズボン。今年流行のフェルトハット、色は茶色で同色のブーツをーー』
視線を感じる。
其処彼処から痛い程の視線を。
見ていたテレビコーナーから百八十度の方向転換。「おい、そこのk……」背後からなにやら聞こえた様な聞こえない様な。恐らく気のせい。コートを翻し駆け出した。
上記を踏まえた上で犯人と思われる不審人物と全く同じ特徴を持っている確率ってのはどれ程の物なのか、ちょっと誰かに問い質したい。
街を当ても無く走りながら取り敢えず帽子を脱いでコートに仕舞ったとだけ記述しておく。