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Birth → interval

――interval start.


 ◆


 ――目が覚めた。


 ぱちぱちという音。見たことのない木造の屋根。炎に照らし出される陰影。

 音の方を見やれば、火の弾ける暖炉がある。その前方、膝を抱えてうつらうつらとする蒼髪の少女が居た。

 ぼぅ、とその様子を眺めながら思考が復帰するのを待つ。寝起きだからか、頭が回転しない。


(…………生きてる?)


 しばらく経ってから、ようやく自分がどんな状況にあったのかを思いだした。体を確認すると、上半身には衣服がない。代わりにグルグル巻きの包帯が巻き付けられ、その上に毛布が掛けられている。

 包帯には薄く血がにじんでいた。腹の部分と、両の二の腕と手首。首にも緩くだが巻き付けてある。肩を回すようにして胸もグルグル巻きに覆われており、この部分が一番分厚い。そのどれもが血をにじませているけれど、失血が止まっているように感じられるのは正しい治療が行われたからだろう。

 なんにしろ一命を取り留めたらしい。


(こういうのを悪運が強い、と言うのだろうか)


 竜と戦い生き残ったが、しかし、その傷の大半は竜と戦う前についていたように思う。そして、竜と戦う前の、肝心要の記憶が無い。


(よく、わからん)


 しばらく考えて出した結論がそれだった。なぜあんな傷を負っていたのか分からない以上、考えても詮無いことである。なんにしろ助かった、それだけは事実だ。


「――目が覚めましたか?」


 一人、納得を得てうんうんと頷いていたところに声を掛けられた。

 見れば、いつの間にやら起きていた少女が立ち上がりこちらを向いている。


「あぁ……そうみたいだ」


「そうですか。それは良かった」


 少女がほっと息を吐き出した。なにやら心配を掛けていた様子である。割と危なかったのかも知れない。そうだとすると、言いしれぬ申し訳なさが込み上げてくる。

 なにしろ、彼女が気にするとすればそれは竜と戦った傷だろう。しかし、それは簡単な火傷や切り傷、擦り傷こそあれ、命に関わるようなものは幸いにもそれほど負ってないのだ。

 この傷の大半は、たぶん、自己責任である。何をしでかしたかは分からないが、その自身だけはある。目の前の綺麗な少女が気にする道理はないのである。

 しかし、綺麗な少女に心配されるというのも、悪い気持ちはしない。

 結果として後ろめたさを感じながら、その厚意を甘んじて受けつつ、後ろめたさから部屋の様子を意味もなく観察した。


「他のみんなは応援を呼びに行きました」


 有り体に言ってきょどっていた自分の反応に対して、少女しか居ないことを気にしていると思われたのだろう、少女から言葉が来た。

 言われてみれば、少女一人しかこの場には居ないようだ。なぜだろうかと考えて、窓の外に見える景色が猛吹雪で覆われていることから察しを得た。


(なるほど、怪我人を連れて歩けない気候か)


 それどころか、常ならば外に出ようとはまず考えないような猛吹雪だ。それでも強行軍をしたのには、それなりの理由と判断があったのだろう。


「にしても、不審人物と二人きりとは」


「――なにかするんですか?」


 年頃の男女を放置プレイとは些か以上に剛毅だと思い、呟いたら少女からクリティカルな返事が返ってきた。

 一瞬、八雲の脳裏には頷いてみるという選択肢が表示されるが、思考の停止が自然、タイムアップ選択をしてくれたおかげで何を逃れる。


「なにか――」


「――いや、しない」


 ワンスモアリプレイ。少女が反駁しようとしたところで、慌てて首を横に振りそれを否定する。

 まさか、選択しないと永続ループするタイプとは思いもしなかった。

 魔が差す前にきっちりと否定しておかないと、どういう結末を迎えるか判ったものじゃない。

 妙な空気に妙な雰囲気。

 そういえば、と変な具合に空いてしまった間を嫌って無理矢理に質問を絞り出す。

 だがまぁ、聞いておかなければやりづらい疑問がひとつだけあったのは確かで、それを尋ねることにした。


「そういえば、ここは何処なんだ」


「――そういえば、あなたは何者なんです?」


 唯一誤算だったのは、相手がほとんど同じ行動を取ってきたこと。無理矢理にひねり出したものだから、会話がブッキングしても止まりゃしない。

 お互いの間に流れるまたしても微妙な間。どちらも気まずい雰囲気と言えば片付きそうな状況だが、気まずさの意味が若干違う。

 お互いに目を合わせたり反らしたりしながら、相手の呼吸を計り合う。


(きみからどうぞ)


(いえ、あなたからでわたしはまったく構いませんが)


(いやいや、ここは)


(いえいえ、あなたが)


 視線で交わされる譲り合い精神。なんだか先にしゃべった方が負けという雰囲気である。

 だからといって、いつまでもこうしているわけにも行かない。

 ついには根負けして口を開いた。


「まずは名前を教えてくれないか」

「まずは名前を教えてくれませんか」


 また、かぶった――。


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