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 奏泉駅前のコンビニエンスストアには、すぐ傍に二軒もスーパーマーケットがある為、店内に客はほとんどいない。とはいえ、暇という訳ではないらしい。店員の一人が忙しなく棚の前で手を動かし、商品を整理しているのが店の外からも見て取れる。ライバル店が多いこの界隈で、ここのコンビニが十年以上営業を続けられている理由は何なのか。その答えを大多数の人間は知らない。知らない上に、知ろうともしない。のどかな街だ。ここらでは殺人事件は三十年前に一度起きたきり……。八年前に、身勝手な男の手によって、悲惨な事件が多発したものの、その事件の犯人も捕まり、街は再び平和を取り戻している(もっとも、警察が認知していないだけで、大なり小なり、毎日どこかで事件は起きているのだが)。

 奏泉駅前のコンビニに入店するや否や、千秋は強盗でもしに来たかのように、店内の隅々まで目を配る。

 背後に岸辺の視線を感じつつ、穂花は千秋の後に続き、あんたは盗人かと、心の中で彼に突っ込みを入れた。が、店内に怪しい人間がいないかどうか探ってしまう気持は解らないこともなかった。

 千秋は岸辺が入店して来るのを気にしているからなのか、穂花の姿を見失わないようにしているからなのか、定かではないが、忙しなく振り返りながら、奥の従業員用のトイレのほうまで一人で進んで行く。

 千秋は私の為に怪しい人がいないか探ってくれているのかな。それとも、自分が面倒な目に遭わない為なのかな。

 私の為だったら良いなと思いながら、穂花は雑誌コーナーの前にいる、学ランをきちんと着こなした男子中学生へと目を向ける。

 男子中学生は、興奮した面持で、成人向けのいかがわしい雑誌を読んでいる。しかし、少年の顔には下卑た色がまるでない。そればかりか―おそらく純粋なのだろう―後悔の念すら浮かべている。

 穂花は前方に姿を現した千秋を一瞥し、心の中で頷いた。

 あぁ、なるほど。そいうことね。

 穂花は以前、サングラスの男に跡をつけられていた頃、千秋に本当に危険な人間の特徴を教えてもらったことがあった。

『良い?穂花。時と場合にもよるけど……』

 時と場合にもよるが、性欲が強い人間が危険な訳ではない。普段、過剰な性欲を抑えて、真人間のふりをしている間宮のような、岸辺のような人間が本当に危険な人間だ。

 穂花がコンビニの出入口方面を睨んでいると、千秋は『ねぇ、穂花』と言って、彼女の腕を引っ張った。

「何食べる?」

「え?あ、どうしよっかな。まだ決めてない。千秋は何食べるの?」

「僕は……」

 菓子パン売場の前まで辿り着くと、千秋の手が穂花の腕から離れた。

「クリームパンとメロンパンかな」

「あぁ!ずるい。じゃあ私もアンパンとサンドイッチにする」

「ずるいって何だよ。ずるいって」

 改札口近くで罵りあったばかりで、気まずいなぁと思っている中、千秋が笑いながら商品に手を伸ばしたので、穂花も自然と笑顔になる。

 一緒にいないとつまらない人。一緒にいると楽しい人。こういう人を大事にしないといけないんだよね。

 不意に、穂花は締めつけられるような痛みにも似た切なさに襲われたが、笑顔でアンパンの入った袋を手に取った。

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